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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十四幕】翼を持つ者の誇りと使命
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9

 

 取り合えず、領主とシャロットに事情を話してから有翼人をアンネの精霊魔法で、店の地下へと連れてきた。


「えっと…… 後れ馳せながら自己紹介を、私はライルと言います。どうぞよろしく」


 にこやかに微笑んだつもりだけど、顔が引きつっていないか心配だ。


「…… ミカイルだ。何故貴様にアンネリッテとギルディエンテ様が共にいるのか説明してもらおうか? 」


 俺はアンネとギルとの出会い、そして魔力支配のスキルやマナの木を育て各地に植えている事等を伝えた。


「馬鹿な!? 信じられん!! 何故我々ではなく人間なんかに支配のスキルをお与えになるのだ! いくら異界の記憶持ちだとしても、納得いかぬ! 」


「お前が納得しようがしなかろうが、それが彼の方の望みなのだ。その事実は変えようがない。そして我の封印を解いたのも、マナの大樹から種を授かったのも、他種族を一つの所に集めたのも、全てはライルが成した事。この人間こそ、世界を救う唯一の希望だ」


「そうだそうだ! ライルは美味しいお酒やご飯を沢山知ってんだからね! 」


 アンネのはともかく、ギルが自信たっぷりに豪語するので、ミカイルは悔しそうに言葉を詰まらせる。ギルが言うのだから疑ってはいないだろうが、納得はしていないようだ。


 ミカイルの憎らしげな視線を受けつつも、マナフォンで人魚の女王、ドワーフの王、エルフの里長に連絡を取り、事情を説明していく。


 各種族の長にご足労願うのは非常に心苦しくもあったが、意外な程に皆協力的なのに驚いた。むしろ有翼人と聞いて同情しているような感じだ。


 俺は急いで地下の別室に机と椅子、それと飲み物を用意して迎える準備をする。まさかこれから此処にこんな大物達が一堂に会するなんて思わなかったよ。


 暫く待っていると、人魚の女王リュティス、ドワーフの王ギムルッド、エルフの里長イズディアが、各々の転移門から出てくる。


「ガハハハ! ライルよ、久しいな! 国の者達に仕事を与えてくれて感謝しておるぞ。旨い酒も飲めて、皆活気に満ち溢れておるわい! 」


 ギムルッドが長い髭を揺らし、大声で笑う。


「此処にくるのも久し振りね。私もたまには人間の街へ行きたいけど、周りに止められてちゃうの。女王にだって息抜きは必要だと思うわ。あ、それはそうとライル君。あの米から作るお酒、後で個人的に買っても良いかしら? 刺し身に良く合うのよ」


 リュティスはすっかりと食の喜びに目覚め、楽しんでいるようで何よりだ。


「やぁ、ライル君。インファネースで店を開いている者達から話は聞いているよ、色々と大変なようだね。あれから里も豊かになり、皆毎日が楽しそうだ」


 イズディアが穏やかな笑みを浮かべて歩いてくる。良かった、里は今も平和なようで安心したよ。


 其々と軽く挨拶を交えながら会談場所となる部屋へ案内し、席に着く。


 今此処に、大地を管理するエルフ、海を管理する人魚、技術を管理するドワーフ、空を管理する有翼人が揃った。


 そこに龍のギルと妖精のアンネが加わり何とも壮観で、まさにファンタジーならではの光景に心が踊る。


「それで? どうして私達を呼んだのか、教えてくれない? それと有翼人の族長ではなく、何故貴方なのもね? 」


 少し挑発的な物言いをするリュティスに動じず、ミカイルが咳払いを一つして話し出す。


「それは、俺の独断で貴方方に集まってもらったからだ。最早一刻の猶予もない。今の世界の状況をどれくらい理解している? 」


「私が分かっているのは、マナが減少傾向にあり、数百年後には完全に枯渇するといったぐらいかな。しかしそれもライル君のお陰で何とかなりそうだと言う話だが? 」


「そうじゃな、ワシもそれぐらいしか知らん」


「他に何かあったかしら? 」


 そう答える三人の長に、ミカイルは眉をひそめて溜め息を溢す。


「気付かないのか? 今の人間達の状況を。魔術文明が滅びて千年、今また魔術が発展してきている。このままでは、またあの時のような事が起きるかも知れない。いや、もう起きていると言っても過言ではない。世界の危機なのだ、人間なんかと関わっている時でないぞ! 今こそ我等の種族が手を取り合い、世界を守らなければならない! 」


「最も協調性のない有翼人が良く言うわい! なら何故この場におるのがセラヒムではなくお主なんじゃ? 確か独断で動いてるって言ってたのぅ。大方あの頑固者の事じゃ、ワシらの助けは要らぬとか言っておったのじゃろ? 」


 痛い所を突かれたようで、ギムルッドの指摘にミカイルは思わず顔を歪める。


「それに、千年前とは違う。同じ過ちを今の人間達が犯すとは限らないのでは? 今私達はこうして良好な関係を築けているし、杞憂という事はないのか? 」


 そんなイズディアの言葉にミカイルは立ち上り声を荒らげる。


「千年前もそうだった! 奴等は最初こそ良い顔をして近付き、最後には我等を裏切ったではないか! 思い出せ!! あの時、奴等が犯した過ちを! その飽くなき欲望に身を任せ、あろうことか神を召喚して支配しようとした愚かさ。そして失敗し、化け物を呼び出し世界を壊し掛けた。それでも神はその慈悲を持ってギルディエンテ様を使わせ、守ろうとしてくれたのにも関わらず、そのギルディエンテ様を、恐ろしいという理由で我等が協力して作り出した結界で封印する始末! 二千年前はアンデッドを生み出し、我々が神の国にいられなくなったのだって、人間達が神に弓を引いたからだ! 今だって、カーミラとかいう者が世界を壊そうと目論んでいるらしいではないか! どんなに時が経とうとも、人間の本性は変わらない。それは歴史が証明しているのに、それでどうやって人間を信じられる? 世界を真に守れるのは我々しかいない!! 」


 激昂して訴えるミカイルの悲痛な叫びが響き、部屋にいる誰もが息を飲んだ。

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