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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十四幕】翼を持つ者の誇りと使命
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6

 

「くぅ~! この喉が痺れる感じ、やっぱり暑い日には炭酸飲料に限るな」


 こうも暑い日が続くとサイダーやコーラといった強めの炭酸飲料が欲しくなる。しかし当然ながらこの世界にはそんなものは存在していない。なので自分で作ってみた。


 魔道具には下向きの噴射口があり、銑鉄(せんてつ)で作ったのカートリッジを交換して使う。銑鉄に含まれている炭素と中の空気を化学結合させ、炭酸ガスを作り出す魔術を刻み、噴射口へ中身を入れた専用の容器をセットすると、カートリッジ内の炭酸ガスが勢いよく容器の中にある液体に溶け込んで手軽に炭酸飲料が作れるのだ。


 前世でもあった炭酸水を作る機械を、この世界で魔術を組み込み再現してみた。炭酸ガスを発生させる仕組みは、ギルの知識支配のスキルで俺の知識を読み取ってもらい、それを参考にして一緒に術式を組んだ。


 先ずは果実水に炭酸ガスを注入して飲んでみると、喉で炭酸がパチパチと弾けて懐かしい感じがする。


 初めて飲むであろうエレミア達も、喉に来る刺激に驚きを隠せないでいた。


「うおっ!? なにこれ! 蜂蜜酒が口の中で爆発したよ!! 」


「うむ、このハイボールとやらを飲んでみたかったのだ」


「このシュワシュワ、癖になるわね」


「けぷっ とても美味しいのですが、少々下品になってしまいます」


「ほぅ、弾けるワインというのも面白いですね」


 皆、思い思いの飲み物に炭酸を入れては楽しんでいる。シャルルとキッカも気に入ったようで、食事の席でも炭酸果実水を飲んでいた。


 せっかくだから、涼みに来ているデイジー達にも出してみたところ、とても喜んでくれたのだが、西商店街代表のティリアと北商店街代表のカラミアに目をつけられてしまった。


「ちょっと! 何よこれは!? こんな凄いの作ったのなら、早くアタシに教えなさいよ!! 」


「今回ばかりは私もこのおちびちゃんに同意するわ。これはお酒の概念を変える素晴らしい発明よ。新しくて珍しい物が好きな貴族に絶対売れる筈だわ」


 そんな二人の剣幕に押しきられ、ガイゼンアルブのドワーフ達とエルフの里の皆に量産の依頼をする羽目になった。


 ティリアは西商店街にあるあの喫茶店に、炭酸を入れた果実水を出し、カラミアは北商店街のレストランに炭酸ワインを提供し始め、その珍しくも面白い味わいに、二人の店は更に繁盛していく。


 ティリアの喫茶店に関しては、アイスクリームと並び、夏の爽やかな飲み物として皆こぞって来店してくるみたいで、笑いが止まらないと上機嫌だ。


「聞きましたよ? 何でも珍しい物を作ったとか? 宜しければ此方にも卸して下さると嬉しいのですが? 」


 あ~、やっぱり来ちゃったか。まぁ代表の二人がこれでもかと売り込んでいるので、ここまで辿り着くのは当然だな。


 商工ギルドのマスターであるクライドが、キツネ目を更に細くして軽く口角を上げる。本人的には愛想よくしているつもりなんだろうけど、端から見ると冷笑しているとも取れる。


「私もティリアさんのお店で飲ませていただきましたが、素晴らしかったですよ。あれなら王都にいる貴族達に流行ること間違いなし。是非とも売りに出すべきです」


 販売経路や価格設定、その他の手続きなんかは蜂蜜の時と同じように、全部ギルドが請け負ってくれる。此方はただ商品を商工ギルドに卸すだけなので、そんなに面倒ではない。もともとは俺が炭酸飲料が飲みたいが為に作った物、それが金になり国中に広まれば何か新しい炭酸の飲み物が生まれるかもしれないな。


「分かりました。ただ直ぐに数は揃えられないので、お時間をいただきますが宜しいでしょうか? 」


「はい、勿論。ではご用意が出来次第、ギルドへ卸す形でどうぞよろしくお願い致します」


 クライドが店から出ていくのを見計らい、ふぅ…… と息を溢す。


 久しぶりに会ったけど、やっぱり苦手だなあの人。物腰は柔らかいのに、威圧感が凄まじい。クライドの前だと嫌とか言いづらくなるんだよね。


 その後、ドワーフとエルフの頑張りにより、商工ギルドを通じて王都へ炭酸を作る魔道具が広まった。


 先ずは貴族だけに売り始め、今ではワイン等に炭酸を入れて飲むのがトレンドなんだとか。そこから徐々に市民達へと浸透させていくつもりらしい。


 いいぞ、このまま拡がって是非とも新しい炭酸飲料を開発してほしいものだ。できればこの世界ならではの物に炭酸を入れるとか、未知の味を探求してもらいたい。



 とまぁ、ちょっとした事はあったが概ね街は穏やかに過ぎていく。クレス達は新しいキングの情報は掴めただろうか? カルネラ司教が心当たりがあると言っていたキング種も気になるし、カーミラ達のこれからどう動いてくるかも注意しなくちゃならない。


 まだまだ油断は出来ないが、このゆったりとした平和な暮らしをもう少し味わっていたい。決して暑いから外に出たくない訳ではないよ?


「ねぇ! 聞いた? さっき空から人が降りてきたんだってぇ! 話によるとその人、背中に真っ白な翼があったって言うのよぉ。それってもしかしなくても有翼人よね? 」


 薬屋のデイジーが店に入るなり、何時もよりテンション高めに声を張り上げてくる。


 有翼人か…… いったい何が目的でインファネースに来たのか分からないが、領主様がきっと相手をしてくださるだろう。今の俺は平和を満喫中なので動きたくない。

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