5
さて、魔力支配のスキルを使いこなそうと特訓だ! なんて息巻いたけど、何をどうすれば良いものか…… 先ずはこのスキルについてもっと詳しく知ろうとギルやアンネに聞いてみたが、全てを可能にするだとか、何でも出来ちゃう凄いものとか、どれも抽象的で具体的ではなかった。詰まるところギル達もよく分からないのだろう。
う~ん、困ったぞ。スキルを使いこなす以外に自分を強く出来る要素が見当たらない。例え強力な武器を沢山作ろうとも、今の俺が一度に操れるのは精々二個ぐらいまで。もっと沢山操れたなら、エレミア達に魔力を補充しながらでも掩護が可能になるのに。
しかし、あれもこれもと同時に平行して作業するのは脳が一つでは足りないと思う程にとても難しい。食事をしながら新聞とテレビを見て、家族と世間話に花を咲かせるようなものだ。
いくら考えようとも悩みは尽きることなく、不安も消えない。一人カウンター内でそっと溜め息を溢した。
「なんじゃ? 辛気臭い顔しておって。そんなに店が繁盛しておらんのか? 」
そんな俺の様子を見て、一人のドワーフが顰めっ面で話し掛けてきた。
今俺がいるのは地下にあるカウンターで、商品も上にあるのとなんら変わらない。ここは設置してある転移門から、エルフ、ドワーフ、人魚が訪れ、店の商品を買ったり他の種族と取り引きを行う場所だ。
「ほれ、約束のもんを作って来てやったぞ」
そう言ってドワーフがカウンターに少し大きいマジックバッグを数個置いていく。
「何時もありがとうございます。それじゃ中を改めさせてもらいますね」
俺は置かれたマジックバッグの中から、一つ一つ物を取り出してチェックをする。今回ドワーフが持ってきたのは、持ち運びが出来る小型の魔動コンロだ。
外でも気軽に料理が出来て、火も使わず簡単にお湯が沸けると冒険者や行商人に好評な商品である。この魔動コンロをドワーフの国ガイゼンアルブの住民達に作成を依頼している。全部自分で作っていると大変だし、俺がいなくても商品の在庫を切れさせる訳にはいかないからね。
ドワーフ達には外身を、術式を刻むのはエルフの里の皆に頼んでいる。
ドワーフはもの作りは得意だけど魔術が苦手で、エルフは鉄製品を扱うのが苦手で魔術が得意。この二つの種族が手を取り合えば大抵の物は作れると思う。
「はい、確かに依頼した量の納品を確認致しました。こちらはその代金ですので、お確かめください」
「どうせこの金で酒を買うのに、なんとも面倒じゃのう」
物の価値を出来るだけ一定に保ちたいので、基本取り引きにはお金を使い、物々交換はしないようにしている。
後はこの魔動コンロをエルフに渡して術式を刻んでもらえば終わりだな。
「あ! ドワーフの皆さん、丁度よかった。今アダマンタイト鉱石を持ってきた所ですよ」
転移門から出てきた人魚達が、ドワーフにアダマンタイトが入っていると思われるマジックバッグを渡し、中を確認したドワーフが満足そうに頷く。
「うむ、やはり人魚が持ってくるのは質が良い。それで? 何かワシ等に作って貰いたいもんでもあるか? それとも金で支払うか? 」
「今は特に依頼したい事は在りませんので、お金でお願いします」
ドワーフと人魚のこういったやり取りを見ていると、すっかり人間に感化されているなぁなんて思ってしまう。まぁ、切っ掛けを作ったのが俺なんだけどね。
ドワーフから受け取った金で、早速人魚達は俺の店から野菜や調味料、お酒を大量に買っていく。
「そうだ、ライルさん。あの魔動コンロみたいにオーブンも小さく出来ませんか? 他の拠点にいる人魚達も料理に夢中になりまして、調理場にあるオーブンを見て欲しくなったみたいなんです」
「小さなオーブンですか? 確かに、調理場にある大きさでは持ち運びは出来ませんからね。でも小さくしますと、作れるものが限られてしまいますよ? 」
「いえ、そもそも調理場も作れる程大きな場所ではありませんので」
この広い海を満遍なく管理する為、女王が住む島を始め、至る所に人魚の拠点が存在する。その殆どがあの島より規模は小さいので小型化した魔動コンロで十分だったのだが…… そうか、オーブンも欲しくなっちゃったか。
「多少火力が落ちるとは思いますが、作ってみますので試してみてください」
それを聞いた人魚は笑顔でお礼を言って転移門を潜って行った。
上ののんびりとした感じとは違って、地下は思ったより忙しい。俺の留守中は母さんがここのカウンターに立ち、エルフ、ドワーフ、人魚達の相手をしてくれて助かっているので、せめて俺がいる間だけでも休んでいて貰いたい。
というか、母さんに楽をさせたいから店を持ったのであって、その母さんが忙しく働いているこの状況は本末転倒である。まだまだ母親に頼りっぱなしの駄目な息子で申し訳ない。
「どう? 困った事や問題はないかしら? 」
「母さん? 休んでてって言ったのに、どうしたの? 」
暇になったのか、母さんがひょっこりと顔を出してくる。
「なにもする事がなくて、何だか落ち着かないのよ」
「それじゃ外に出てみたら? 母さんここに来てからゆっくりとインファネースを見て回れなかったんじゃない? 昼食はエレミアがいるから、外食でもして楽しんできなよ」
「そう? それじゃあ、お言葉に甘えようかしらね。フフ、良い息子を持って私は幸せ者ね」
いや、しょっちゅう店を留守にしいるので良い息子ってのはどうだろう? 嬉しそうに階段を上がっていく母さんを見て、もっと親孝行しなくてはなと思った今日この頃であった。