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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十四幕】翼を持つ者の誇りと使命
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3

 

「ほぅ、成る程…… これはまた随分と小さくなりましたね。これなら手早く検査が出来て便利ですよ」


 カルネラ司教に隷属魔術の有無を検査する魔道具を渡して使い方を説明すると、頻りに頷き感心していた。


「ここまでで何かご不満な点や質問はありますか? 」


「いえ、今の所特にはありません。単純で分かりやすいので、誰でも使えそうです。では、後は私達にお任せ下さい。彼の神敵をこれ以上野放しには出来ませんからね」


「はい、よろしくお願い致します」


 それじゃ、用事も済んだし帰ろうかと思っていたら、突然ゲイリッヒが魔力収納から出てきてしまった。


 突如現れたヴァンパイアにカルネラ司教は唖然、アグネーゼは警戒し、俺はポカンと口を開ける。


「あ、貴方は確か、ゲイリッヒ…… 生きていたのですね」


「やはり何処かでお会いしたことが? 何となく見覚えがあるのですが、どうにも思い出せません」


 二人とも知り合いなのか? カルネラ司教の方はゲイリッヒを知っているみたいだ。


「あれからもう二千年は経ちましたからね。それに今の私は貴方が知っている姿ではありませんから、仕方ないでしょう。そうですね、ライネルと言えば分かりますか? 」


 その名前を聞いたゲイリッヒは、クワッ! と目を見開いた。


「ライネル!? そう、ライネルです! 姿も面影も全く無いので気付きませんでした。もしや記憶持ちですか? かつての敵とこうしてまた相まみえるとは思ったもみませんでしたよ。それにしても、あれほど勇ましかったライネルがまた随分と穏やかになったものですね」


「今の私はカルネラですので、昔と違うのは当然かと。しかし、あの傷でよく生きてましたね。本当に貴方達ヴァンパイアはしぶといものです」


 かつて殺し合う仲であった二人が長い年月を経ての再会は、まるで久しぶりに会う旧友のような雰囲気を醸し出していて、何とも不思議な光景だった。


「敵同士だったとは言え、あの頃を知っている者に出会えて素直にうれしいですよ」


「まぁ、もうだいぶ昔の事にですから、私も恨みよりかは懐かしさの方が上ですかね? それに、ゲイリッヒはそこらの有象無象なヴァンパイアとは違いましたので」


 俺には分からない感覚だな。暫く二人は昔話に花を咲かせ、途中からギルも参加し出した。


 和やかな様子で、やれあの時の攻撃は危なかっただとか、ゲイリッヒからもらった傷が原因で戦場から離れることなったとか、ギルのブレスで多くのヴァンパイアと人間が亡くなったと文句を言い合ったりと、内容はえげつないものだらけ。


 よくそんな内容を同窓会のような感じで話せるよな。そんな三人が満足するまで話している横で、エレミアとアグネーゼは始終顔が引きつっていた。




 それから一週間と掛からない内に、聖教国はカーミラを神敵として各国に通達すると共に、隷属魔術を使った手口とそれを手軽に検査する魔道具と術式を国々に広めた。


 他の国は知らないが、ここリラグンド王国はちょっとした騒ぎになっている。あの中立を重んじる聖教国がハッキリと個人を名指しして敵だと断言したのは、長い歴史の中で初めての事だったからだ。アンデッドでさえ神の使命として浄化はしているが、敵だと公式では発表していない。


 この衝撃的なニュースは瞬く間に拡散し、しかもカーミラの似顔絵も一緒に配っているので、彼女の存在を知らない者がいないくらいだ。教会全体が本気でカーミラを潰しに掛かっているのが分かるから、他の国も協力ないし傍観の姿勢を見せている。


 これならカーミラ達の潜伏場所だってそう時間も掛けずに突き止められるかも知れない。流石は世界に一つだけある宗教の力だ。頼もしくはあるが、同じくらいに恐ろしくもある。


「恐れ敬うのが信仰の基本です」


 そう自慢気にアグネーゼが言う。前世での神様も、ぶっ飛んだ話が多いからな。恐怖もまた信仰の一つって事なのかね。




 それから直ぐに首都だけではあるが、門に入る前に魔道具での検査が追加された。そもそも隷属魔術を一般の人が使うのは法律で禁じられているので、どの国も厳しく取り締まっている。


 しかもそれで実際に隷属魔術が掛けられている者を捕まえたのだから、魔道具の有用性と教会の言葉が真実であるとの証拠になり、国々は積極的に動き出したとカルネラ司教から報告があった。


 インファネースでも魔道具の検査を実施しているが、今のところ隷属魔術が掛けられている者は現れず。もし街の中にいたとしても妖精達が見つける筈なので街は安全だ。



「こんにちは、ライルさん。私共の茶葉の売り上げは上々だと伺っておりますよ」


 お昼を過ぎようとしている頃、デットゥール商会の会長であるマシラが店を訪れた。


「これはマシラさん、お久しぶりです。商会長自らのお越しとは、もしやもう支店を? 」


「えぇ、そうです。最近話題のインファネースに支店を出せる機会を逃す手はありませんからね。ドワーフやエルフ、それに人魚とも商売が出来るのは世界中でここだけ。私だけでなく他の国にいる商人もインファネースで店を持ちたいと思っていますよ」


 へぇ、そこまで有名になってるんだな。それで最近この南商店街でもちらほらと新しい店が増えてきているのか。


「それで、支店は予定通り西商店街の方へ? 」


「はい、当店自慢の茶葉を多数ご用意しておりますので、どうぞご贔屓に。それと、ライルさんとの取り引きは今まで通り継続致しますので、よろしくお願い致します。茶葉の種類を増やしたいのであれば、支店長へお伝えください」


「此方こそよろしくお願い致します」


 西商店街に帝都で有名な茶商が参入してきたか。近い内にティリアがまた自慢しにくるな。

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