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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十四幕】翼を持つ者の誇りと使命
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 今日も変わらず外は暑い、気温はこれからも上がる一方だ。店内のマジッククーラーは店の地下ある大魔力結晶から動力となる魔力を引っ張って来ているので、一日中稼働し続けられる。しかしながら一般的には魔核や魔石を使用するので、結構お金が掛かるのが実状である。


 だからなのか、そのクーラーに掛かるお金を少しでも安くしようとこうやって涼みにする輩は後を絶たない。


「はぁ~、涼しいわねぇ。やっぱり夏はライル君の店で休むに限るわぁ」


 タンクトップを着た紫色の角刈りという異彩を放つ存在のデイジーが、隅にあるいつものテーブル席に着いて憩っていた。


「夏だけじゃなくて年中来ているじゃないですか」


 透かさずキッカがつっこみを入れる。そうだ、もっと言ってやってくれ。


「あらやだ! それもそうね。何だか居心地が良くて、気が付くと足がここまで動いちゃうのよねぇ」


「居心地が良いのは分かりますけど、ここはお店なんですから何か買って頂かないと、その内追い出しちゃいますよ? 」


「まぁ、怖いわねぇ。それじゃお茶請けにクッキーでも頂こうかしら? 」


 毎度ありがとうございますと、キッカは笑顔でクッキーを一袋持っていく。随分と店員が板についてきたようだ。


 明るくてハッキリとした物言いが、店に来る男性冒険者達には受けが良い。女性客に人気なのはゲイリッヒだが、女性冒険者にはシャルルの方が人気がある。何でも、あの自信無さげでオドオドした少年というのが、庇護欲を掻き立てられてしまうのだとか。


 お陰で店の売れ行きもそれなりに上がっている。シャルルとキッカがいてくれるなら、店も暫くは安泰だな。商品があまり売れなくても、定期的に商工ギルドへ蜂蜜を卸しているので、贅沢をしなければ普段の生活に困ることはない。ハニービィ達に足を向けて眠れないよ。


 それに地下では転移門でやって来るエルフ、ドワーフ、人魚間での取り引きの仲介をしたり買い物もしてくれて良い収入になっているから、上が多少暇でも店が潰れる事はないだろう。




 いま魔力収納内では、アルラウネ達が育てていた米と麦の収穫作業で忙しなく働いている。


 米の種籾をジパングから仕入れて育て始めたのが冬頃、そこから苗にして田んぼに植えて、十分に実った今が収穫時だ。魔力収納内では季節に関係なく作物が育つから楽で良い。前世では気候の都合で五月に田植えだっからな、そう考えると驚きの早さである。


 収穫した米を精白した時に出た糠を使って、糠漬けに挑戦してみた。俺は白米に沢庵を添えて食べたいのだ! ジパングでも買えるけど、自分で作った方が何時でも食える。


 糠床の作り方はジパングの商人で、度々インファネースまで交易に来るスズキさんに詳しく聞いてきてもらい、時間を掛けてゆっくりと作った。さっき大根やキュウリを仕込んだばかりなので出来上がりが楽しみだな。


 米を収穫した次の日には、種籾から苗にして田植えまで直ぐに持っていけるので、これからどんどん生産量は上がっていくだろう。気候を気にしなくて良いのは本当に素晴らしい。その内余った米を南商店街に卸すのもいいかも。いや、その前に米を使って酒を作る事から始めよう。米酢も作れれば料理の幅も広がるしな。


『ライル君。それも良いですが、今は術式の軽量化が優先ですよ』


『…… 美味しいご飯は楽しみ。けど仕事は早く終わらせたい』


 おっといけない、つい気持ちが逸れてしまった。アルクス先生とリリィが頑張っているというのに、失礼だったな。


 教皇様から託されたこの隷属魔術を見破る術式の改良と軽量化をしなくてはならない。これが完成してから、聖教国はカーミラを神敵として定め、隷属魔術によって操られている者達への対策と共に世界へ広める予定なので、出来るだけ急がなくてはならない。


『流石はリリィさんですね、もう八割方完成しています。この調子なら今月中には仕上がりそうですかね? 』


『…… 何も異常が無ければ、そのくらいに完成する』


 リリィの宣言通り、月の終盤あたりで教会から託された元の術式を改良、軽量化に成功したのだった。


 早速その術式を組み込んだ魔道具を作成し、鉱山町で働いている罪人達で実験を繰り返しながら調節していく。


 完成した魔道具は、片手で持てるぐらいの大きさの台座に水晶が嵌め込まれている。使い方は簡単、魔術を発動させた状態で対象の人物に持ってもらうか、体の一部を台座の上に触れさせるだけ。

 隷属魔術が掛けられている者だと、台座に嵌め込まれている水晶が黄色く光り、そうじゃない者は青く光る仕組みだ。


 とても単純だが、ここまで術式を簡略化出来たのはリリィの協力があってこそだ。後で何かしらのお礼を考えないとな。だけどその前に早く聖教国へこの魔道具を届けなればならない。


 クレス達が新たなキング種の情報を調べる為、インファネースから離れると言うのでリリィとは此処で別れ、アルクス先生もシャロットのゴーレム研究の進み具合を確認する為、領主の館へ戻っていった。


 リリィとアルクス先生を見送り、いざアンネの精霊魔法で聖教国にあるカルネラ司教の家に向かう。予め連絡していたのですんなりと通してくれた。


「ようこそ、ライル君。サンドレアでは随分とご活躍されたようですね? 」


「いえ、私は別に何も…… クレスさんやアンネ達の方がよっぽど活躍していましたよ」


 俺がサンドレアでやった事と言えば、ユリウス陛下の足を治したのと魔力の補充くらいなもので、クレス達の活躍が目覚ましい。特に妖精達の精霊魔法には助けてもらった。あれがなければ、ここまで早くあの戦争を終わらせられなかっただろう。


「ライル君、確かに周りと比べて何もしなかったと思ってしまうでしょうけど、貴方が動く事によって一緒にいるギルディエンテとアンネリッテ、それとエレミアさんやアグネーゼさんも動くのです。国を容易く変えてしまえる位の戦力を、貴方はその身に抱えているのを自覚し、忘れてはいけませんよ」


 真剣な表情で諭しにくるカルネラ司教に、俺はごくりと喉を鳴らす。


 そうだよな。つい忘れがちだが、俺の中には妖精女王と厄災龍、異界の怪物であるムウナ。それに元アンデットキングに二千年も生きるヴァンパイアがいる。それと俺自身には魔力支配というスキルもある。そう考えると俺ってかなりの危険人物なのでは? そりゃカルネラ司教も、注意の一つや二つ言いたくなるわな。


 アンネとギルは勿論、テオドアもゲイリッヒだってもう仲間なんだから、俺にも責任が生じるのは当然。何もやっていないとか無責任な発言だったな。


 俺の行動次第では取り返しのつかない事態にだってなり得る。この先今まで以上によく考えて行動しないといけない。


 カルネラ司教の忠告を受け、力に伴う責任の重さを改めて心に刻んだ。

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