表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第一幕】望まれぬ子
4/812

2

 

  さて、家庭教師が来るまでまだ時間がある。

  予習の意味も込めて一度魔法や魔術をこの目で見てみたい。


  「ライル様、朝食をお持ちしました」


  「ありがとう、クラリス」


  まずはご飯を食べようか、献立はパンと野菜のスープだ。

  朝食はいつも同じ、うまいから文句は特にない。


  「さぁ、どうぞ」


  クラリスはそう言うとパンを小さくちぎり、俺の口へと運んでくれる。

  この体では食事も着替えもトイレさえもクラリスの手を借りなければならない。

  感謝はしているが申し訳なさでつい顔をしかめてしまう。


  「どうかしましたか? お口に合いませんでしたか?」


  俺の顔を見てクラリスは心配そうに声を掛けてきた。


  「ううん、今日もおいしいよ。いつもありがとう」


  「いいえ、私がライル様のお世話をするのは当たり前のことですので」


  そう言ってクラリスは優しく微笑んだ。


  “当たり前のこと”クラリスは決して“仕事”とは言わない、その優しさがとてもうれしくて、とてもつらい。

 

  何か一つでも誇れるものがあればこんな気持ちにはならないかもしれない、だからこそ俺は魔法や魔術を使えるようになりたい。


  クラリスが周りに自慢できるようなそんな人に。


  食事が終わった後、クラリスに尋ねた。


  「ねぇ、クラリスは何か魔法か魔術は使えるの?」


  「はい、風の魔法が使えます」


  「へぇ! 風の魔法か! すごいね!」


  それは是非、見せてもらいたい。


  「お願いなんだけど、その魔法みせてほしいんだ……ダメかな?」


  「え?私の魔法をですか?大したことはできませんが、いいですよ」


  「やった!ありがとう!」


  「では、部屋の中ですので威力は押さえ目でいきますね」


  クラリスはおもむろに左の手のひらをこちらにむけた。

 

  その時、クラリスの体から白い靄?いやオーラとでも言ったほうが分かりやすいだろうか、そのオーラが左手に集まり消えたその瞬間、俺に向かってまるで扇風機の設定強ぐらいの風が吹いた。

  心地いい風がしばらく俺の髪を揺らし続ける。


  これが魔法、いやそれよりあのオーラのようなものは一体……そうやって思案に耽っていると


  「いかがでしょうか?」


  とクラリスがどこか得意気な感じで聞いてきた。


  「うん、すごかったよ! でも呪文とかなにも言わないんだね」


  「呪文ですか?それが何なのか存じ上げませんが、魔法を使うのに必要なのは魔力と想像力です」


  「想像力?」


  「はい、発動する場所に魔力を集め、どんな魔法にするのか明確に想像します」


  「へぇ、結構便利なんだね。それじゃ左手に集まっていた白いオーラのようなものは魔力なんだね」


  あれが魔力なのかと一人で納得しているとかクラリスが少し驚いた顔をしながら聞いてきた。


  「白いオーラ?もしかしてライル様は魔力が見えると言うのですか?」


  「え?クラリスは見えないの?」


  「はい、魔力というのは空気と同じで見えないと聞いてます。魔力が見えるなんて初めてです」


  そう言ってクラリスは右手を前に突き出し、魔力を集めだしたようだ。

  だけどそこには魔力は集まらず左手に集まっていた。


  「ライル様、どうですか?見えますでしょうか?」


  「うん、見えるよ。だけど右手じゃなくて左手にね」


  「本当に見えているのですね………ライル様、これはすごい事ですよ!魔力が見える人なんてきっとライル様だけです!」


  クラリスがやや興奮気味で迫ってくる。


  「いやいや、ちょっと落ち着こうよ、クラリスが知らないだけで僕以外にも見える人がいるかもしれないし、大袈裟だよ」


  「そうですか?私は大袈裟とは思いませんが、ライル様がそう仰るのなら……」


  クラリスは不満そうに言うと食器を片付け、


  「それでは、失礼いたします」


  と言って部屋から出ていく。


  俺は先程のことを思いだし、物思いに耽る。

 

  あの白いオーラのようなものは魔力で間違いないようだ、それに魔力は普通目には見えないらしい。

  “目には見えない“そこに少し引っ掛かった。

  俺は本当に目で見ているのか?と、検証の必要があるな。


  まずは、自分の体から魔力を出す事からだな、俺の魔力量はそれなりに多いみたいだし大丈夫だろう。

  しかし、魔力を出すって一体どうやるんだ?魔力……放出……体の内側から……目を瞑り考えていると、不思議な感覚が俺を襲う。

 

  なんだこれは?何故だか分かる気がする。

  不思議な感覚に従うとあっさりと魔力を出すことができた。

 

  これが俺の魔力……クラリスと同じような白いオーラが俺の体全体から出ていた。

  そして何とかこの魔力を操ろうとしたら、またあの感覚を覚える。

  その感覚に任せていると俺の思い通りに魔力を動かす事ができた。


  あの不思議な感覚は一体何なんだ?まるで外部から脳に直接魔力の扱い方を染み込ませられた、そんな感じだ。


  まぁ、今は考えても答えは出ないだろう。

  そんなことより魔力の検証が先だな、まずは本当に俺は魔力を目で見ているのか?方法はいたってシンプル、最初に左目を瞑る。


  うん、いつもの光景に魔力もばっちり見えるな、さて次は右目を瞑る。


  そこには暗い闇が広がっている………と思ったが白いものが見える、見る事に集中するとよりくっきりと見えた。


  最後に両目を瞑る。

  魔力を見ようと集中すると白い人形が浮かび上がった。

  まるで闇の中に浮かび上がる影のようだ、これを白い影と呼ぼう。


  その白い影達は歩いていたり、なにかを拭いている動作をしたり、ただ座っていたりと様々な行動をとっている。


  そこでふとクラリスの言葉を思いだした。

  この世界では生きているもの皆魔力を持っていると言っていたな。

  この白い影達はおそらくこの館に働いている者達だろう。

 

  どうやら放出している魔力だけでなく、内蔵されている魔力も見えるみたいだ。

  いや、これは実際に目で見ている訳ではなく第六感のような別の器官で感じ取り、頭の中で映像化しているのだろう。


  まぁ、細かいことは置いといて次はこの魔力で何か魔法か魔術以外の使い道がないか調べてみよう。  

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ