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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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 結局、ヴァンパイアとなった者達の洗い出しは今日中には終わらず、夜の間は街の警備を増やしたうえに門を封鎖して誰も外へは出さないよう厳重にし、そこから更に数日かけて王都内を綺麗にしたユリウス殿下は、疲れきった様子で城のテラスから街並みを眺めていた。


「お疲れ様です、ユリウス殿下。やっと王都がスッキリしましたね」


「あぁ、ライル君もご苦労だった。君と出会ってなかったら、私は今此処に立ってはいなかっただろう。感謝するよ」


 そう言って小さく微笑むユリウス殿下だが、何だか浮かない顔をしている。


「あの、どうかしたんですか? 何か気になる事でも? 」


「…… 実は、父上の事でちょっとね」


 あぁ、実の父親だもんな。そりゃ気持ちの整理は付きづらいのかも知れない。家族を殺すなんて経験は俺には無いけど、想像するだけでかなりへこむからな。実際に手を掛けたユリウス殿下の心労はどれ程のものか。


「王都にいるヴァンパイアを粛清していて分かったんだが、どれも爵位が高く、何かしら不正を行っていたり、王家に反抗的だったりと、此方の都合が悪い者達ばかりだったんだ。優秀な者、中立な者、王族派の貴族などはレイスに憑かれているだけが多かった」


 あれ? 思ってたんと違うな。でも確かにそう聞くと、王族にとって都合の悪い人達だけをヴァンパイアにしているとも言える。


「まるで父上が、最初から王位を渡す為にわざとそういう者達をヴァンパイアにして、後で排除する名目にしたのではないかと…… いや、私の考えすぎか」


「たぶん、そうなんじゃないですか? ユリウス殿下が立ち上がってくると信じ、ヴァンパイアに従いながらも国を託す準備をしていたんですよ。どうせ本当の事はもう分からないのですから、そう信じても良いのでは? 殿下の父は、最後まで国を想う王であったと」


「…… そう、だな。きっとそうだ。父上は最後まで偉大な王だった。そう信じよう」



 背を向けたユリウス殿下の表情は窺えないが、取り合えず今はゆっくりと休んでほしい。



 それからのユリウス殿下の行動は迅速なもので、港町からマリアンヌや無事だった貴族と官僚達を集め、戴冠式を執り行った。王冠を授ける聖職者にはなんと教皇様が請け負ってくれたのだ。マナフォンでカルネラ司教に頼んで枢機卿の誰かを紹介してもらおうと思っていたんだけど、偶然それを近くで聞いていた教皇様が是非にと申し出てくれたらしい。断る理由も無いので、アンネの精霊魔法で直ぐに王城に来てもらった。


 後で教皇様に何で来てくれたのかを尋ねたら、


「アンデッドから国を取り戻すという偉業を成し遂げた者が王となる手助けを、私自信が務めたかったのですよ。新しき王と、その国に住まう者達に、神の祝福があらんことを」


 と、良い笑顔で答えてくれた。


 アグネーゼが言うには、教皇様が来てくれたお陰で、ユリウス殿下の王位就任はもう聖教国が公式に認めたも同然らしい。それによって周辺諸国は何も言えなくなるのだそうだ。


 そしてその勢いでユリウス殿下―― 今はもう陛下か―― は、粛清された貴族の領地を空いた爵位と共にこの戦で多大なる功績を残した者達に与えた。


 その中には俺やクレスの名前もあったが、揃って辞退させてもらう。貴族を追われた俺が、今更なりたいとは思えないからね。


 これから国を立て直すのは想像以上の苦労があるだろうけど、この先も協力は惜しまないつもりだ。その証拠に港町とオアシスの町に設置してある転移門はそのままにしておく。転移門の術式にはプロテクトが掛かっているので、そう易々とは複製出来なくなってるから、いきなり転移門があちらこちらと増える事はないだろう。


 リラグンド王国からの援助はもうないけど、インファネースが独自に援助を申し出てくれた。それと貿易もこれまで以上に積極的に行ない、サンドレアを共に盛り上げていこうと、インファネースの領主がマナフォンの向こうで鼻息を荒くしていた。


 報告を受けた冒険者ギルドと商業ギルドは、各地から職員をサンドレアに派遣し、聖教国からも新しい教会に司祭を送ってくれるそうだ。


 だけど、まだサンドレアからアンデッドは完全に消えてはいない。国の兵士と冒険者、それと神官達で力を合わせ、少しずつアンデッドの数を減らしていく事になるだろう。


 これで終わりじゃないんだ。ユリウス陛下が目指す理想の国にするための戦いがこれから始まる。この状況にかこつけて、周りの国々が何かしら仕掛けて来ないとも言い切れない。何も危険なのはアンデッドだけではないのだから。


 そして怒濤の日々が過ぎ、落ち着いた所で俺達はインファネースへ帰る事にした。因みに、商業ギルドの職員であるレストンとルファスは、護衛のガストール達を伴って既に船で出発している。俺達は精霊魔法で瞬時にインファネースへ帰れるので、落ち着くまではとサンドレアに残っていたのだ。


「クレスやライル君達がいなければ、この国はまだアンデッドに支配されていた。本当に感謝している。またサンドレアに来る事があれば、遠慮なく訪ねて来てくれ」


 王冠も被り、もうすっかり王の出で立ちをしているユリウス陛下はちょっと寂しそうに笑う。


「陛下が助けを求めるならば、何処にいても駆け付ける次第です。陛下の理想が体現するその日を、遠く離れていても願っております」


 対するクレスは爽やかな笑顔で陛下と握手をかわす。


「陛下、何かあったらそのお渡ししたマナフォンで連絡ください。それから植えさせてもらったマナの木も宜しくお願い致します」


「あぁ、任せてくれ。それとライル君も、私の王としての力が必要になったならば連絡してほしい。出来るだけ協力しよう」


「ありがとうございます。その時が来ましたなら、宜しくお願い致します」


 さて、名残惜しいがサンドレアとも暫しのお別れだ。


 俺達はアンネの精霊魔法で作った空間の歪みを抜けて、懐かしのインファネースへと降り立つ。振り返れば、歪みの向こうにユリウス殿下と側に寄り添うマリアンヌの姿がまだ見えていた。


 互いに見詰め合う中、歪みは徐々に小さくなって消えていく。


 これから先、サンドレアがどんな国になっていくのか楽しみだ。それに、ユリウス陛下とはサンドアームの皮の取り引き契約をちゃっかり交わしてきた。陛下の息がかかった商人がインファネースまで船で届けてくれる手筈になっている。


 よし、これで新商品を開発してもっと店の売り上げを伸ばすんだ。もう休憩所なんて呼ばせねぇぞ。



 俺がインファネースに戻った数週間後、ユリウス陛下とマリアンヌが結婚したとの報告を受けた。まだ国が安定しきっていないので披露宴は大々的に行う予定はないらしく、報告だけにしたそうだ。


 何にせよ、ご結婚おめでとう。二人とも末長くお幸せに。



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