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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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 その後、ゲイリッヒがリビングアーマーを止めたお陰か、レイスから解放された兵士と騎士達を加えた外にいる此方の軍勢が、完全に王都を包囲した。


 王とアンデッドキングはいなくなったが、それで終わりではない。むしろこれからが大変で、ヴァンパイアとなったこの国の官僚や貴族を粛清しなくてはならない。


 ユリウス殿下は、手始めに王都からヴァンパイアとなった者達を洗い出す事にした。


 貴族街にいたゲイリッヒなら、ヴァンパイアとなった者達について知っているのではないか? それとギルも迎えに行かないとな。


 アンネの精霊魔法で東門に向かうと、ゲイリッヒとギル二人が何やら仲良さげに会話していた。


「貴様がライルに仕えるだと? 冗談だとしても笑えぬな」


「いえいえ、冗談ではありませんよ、ギルディエンテ。それとあの時は声を掛けずに申し訳ありませんでした。遅ればせながら、ご挨拶を…… ご無沙汰しております。風の噂で貴方が封印されたと聞いておりましたが、ご健在のようで何より」


 いや、近くで見たら全然仲良くなかった。それもそうか、確かギルは昔、神の命令でヴァンパイアを屠っていたと聞いている。


「お疲れ様、ギル。それとテオドアにゲイリッヒ。お蔭様でこの戦に勝つ事が出来たよ」


 声を掛けると、ギル達は俺に気付き近付いてくる。


「ライル、聞きたい事は沢山あるが、先ずは酒が飲みたい」


「我が主の望まれた通り、リビングアーマーはもう使いものになりません。ご満足頂けましたか? 」


「おう、相棒。言われた通り見張ってたけど、怪しい動きは無かったぜ」


 俺は三人を労い、魔力収納へと入れる。


 ギルとテオドアはもうすっかり実家感覚で思い思いの場所で寛ぎ、初めての魔力収納にゲイリッヒは声を震わせ大袈裟に驚いていた。


『なんと…… なんと素晴らしい空間なのですか!! この満ち溢れたマナに魔力! ただこの場にいるだけで、疲れた体と心が癒される。やはり我が主は素晴らしい!! 私の選択に間違いは無かった! 』


 狂喜乱舞するゲイリッヒは不審者以外の何者でもない。見ろよ、アルラウネ達のあの白けた眼差しを。


 とにかく、ゲイリッヒが落ち着くまで待ち、ヴァンパイアになった貴族達について聞き、それをユリウス殿下に報告する。


 陽が落ちきる前に王都内からヴァンパイアを排除したいので、急ピッチに事は進められた。ゲイリッヒの情報を元に、王都を駆け回る神官と兵士達。戦の疲れが相当蓄積している筈なのに、それを表に出さない姿は立派だ。


『いや~、疲れた疲れた。あたし頑張ったね! 』


『やはり人化した姿では消化不良だな。次は本来の姿で暴れたいものだ』


『はぁ、暫くはこっから出たくねぇ』


 アンネ、ギル、テオドアの三人は、もう終わったとばかりに寛いでいる。いや、別に文句はないんだけどね。周りが必死になって王都中を駆け回ってるのを見ると、何だか申し訳なく感じてしまう。


 かく言う俺も、王城の客室にてゲイリッヒが入れた紅茶を飲んでいる。


 執事をしていた経験からか、ゲイリッヒの入れる紅茶は旨い。同じ茶葉でも入れ方一つでここまで味が変わるのかと、感心してしまう。


「我が主がご満足頂けたようで、私も嬉しい限りです」


 そして優雅に頭を下げる。この堂に入った仕草に、周りの使用人達も見惚れていた。


 ヴァンパイアであるゲイリッヒが堂々と城の中にいるのに誰も気にしないのは、ヴァンパイア特有の青白い肌が今は赤みがさし、健康的な肌色になっているからだ。


 ヴァンパイアには心臓の代わりに魔核があり、魔力を全身に巡らせる事によって活動している。人間から魔物に変わった際に、妖精や龍と同じ魔力細胞に変化してあるので、歳は取らないのだと言う。


 しかし体の機能の大半が停止している為、子は作れず、血液の流れは止まり、最早死人と同じ状態ではあるが、魔力を込める事によって一時的に体の機能を復活させられるのだ。


 これを使えば、食べた物を消化出来るし、その栄養を使って骨髄から血液も造り出せる。また体温を調節して体中に血液を巡らせればパッと見、人間と大差ない見た目となるのも可能だ。


「もうずっとその姿で牙さえ見せなければ、ヴァンパイアだと気付かれず普通に暮らせるのに、何でそうしなかったんですか? 」


「お言葉ですが、我が主よ。先ずヴァンパイアは基本日中では外に出られません。それに普通の人間とは違い、体の機能を使うのには魔力を必用としますので、そう長くは持たないのですよ。食べ物を消化し、血液を造り出すのにもそれなりの魔力を使います。ならば、他の者の血を直接飲んだほうが効率が良いのです。元から死人のようなものですので、血液型など関係ありませんからね。人間の中で身を隠せるようなヴァンパイアは、私のように光耐性を持ち、潤沢な魔力の持ち主に限ります。そのような者は私と同じあの御方に仕えていた二人以外存じ上げておりません」


 へぇ、ヴァンパイアも何か色々と面倒なんだな。


「ですが、今の私は光栄な事に我が主から魔力を頂いておりますので、こうしてお側で仕えても誰も私がヴァンパイアだと気付かないでしょう。また人間のように食事を楽しめる日がこようとは思いもしませんでした。我が主に心から感謝を…… そしてこの身が灰となるその日まで、変わらぬ忠誠を今一度誓います」


 とてもいい笑顔を浮かべる今のゲイリッヒは、人間と大差はなかった。ヴァンパイアと人間を隔てる壁は大きい。それでも、ゲイリッヒのようにヴァンパイアを増やそうとせず、穏やかに暮らしたい者もいる。


「他のヴァンパイア達は、これからどうするのでしょうかね? 」


「申し訳ありませんが、そこまでは私の与り知るところではありませんので何とも…… それに興味も御座いませんので、これはあくまで推測に過ぎませんが、キング亡き今、彼等を纏める者は暫く出てこないでしょう。また其々の場所にて好きに暮らし始めるかと存じます」


「それじゃ、もう今回のように徒党を組む事はないと? 」


「いいえ、またそう考える輩が出るかも知れません。嘆かわしいことです。我々はただ病から逃れる為にヴァンパイアとなった筈ですのに、何時しか永遠の命と強大な力を求めてヴァンパイアを望む者が多くなってしまいました。今更では御座いますが、あの御方もここまでヴァンパイアを増やそうなどと、初めは考えておられませんでした。領民さえ病から救えればと…… ですが、他の者達は違う思いだったようで、病に苦しむ者以外にもヴァンパイアにしていってしまい、そして気付けばもう取り返しがつかない程に増えていたのです。そのせいで人里から離れて暮らすという、あの御方の計画は頓挫してしまわれました」


 成る程ね。歳を取らない肉体と力が得られるなら、権力者達が挙ってヴァンパイアにしてくれと要望してきても不思議ではない。そして、金か地位かは知らないが、提示された報酬につられた者達がそいつらをヴァンパイアにして、ネズミ講張りに増えていった訳か。我ながら人の欲深さは底が見えなくて恐ろしいよ。


 静かに暮らしたい者、自分達の権利を主張する者、欲望に忠実な者、元が人間だけあって一方面からではヴァンパイアというものを判断出来ない。それでもやっぱりアンデッドは世界にとってあってはならない存在だと神に定められているので、教会の者達に浄化されてしまう。


 世界のバランスだが何だかは、規模が大きすぎて俺には良く分からないけど、争う以外で何か別の解決策を模索出来たらいいのに。


 ゲイリッヒの入れた旨い紅茶を飲みながら、そう思わずにはいられなかった。

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