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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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王城潜入

 

 ライル君と別れた私は、クレス達と共に住宅街の隅、人気の少ない場所まで来ていた。


「殿下、ここにその秘密の通路が? 」


「あぁ、そうだ。ここだけ少し模様が違うのが見えるだろ? 王家の者の魔力にのみ反応する術式を施しているから、ここを通れる者、この道の存在を知っている者は、王族だけだ」


 凄いなと感心するクレスを横目に、そこに魔力を流す。するとただの石畳だった地面が盛り上がり、地下へと進む階段が現れた。


「此処を通れば城の地下へと辿り着く。そこから謁見の間に向かう、恐らく王はそこにいる筈だ。もしいなければ私室に行く」


 逸る気持ちで一歩階段へと踏み出すが、レイシアに止められてしまった。


「殿下、何があるか分かりませんので、先頭はこの私が務めます」


 有無を言わせず先に立つレイシアと、一番後ろに付くクレスに挟まれ、私達は階段を下りていく。暗い地下通路を魔動ランプの灯りで照らしながら慎重に進んだ。


 そして隠し扉を開け、城の地下へと侵入して一息つく。王がこの抜け道を監視させている可能性があったが、杞憂に終わったようだ。


「これから謁見の間に向かうとの事ですが、見張りや警備の者はいかがいたしますか? 」


「私達だけではヴァンパイアかどうかの判断が難しい。それに出来るだけ危害は加えたくないので、ここは隠れながら行くとしよう」


 神官を連れてこなかったのは痛いが、戦場にいた方が良いと判断した。どのみち連れてきたとしても、城にいる全ての者達を調べる余裕も時間も今はない。


 私達は城の者達に見つからないよう、密かに身を隠しつつ謁見の間に向かった。途中警備に見つかりもしたが、騒がれる前に力づくで押さえ、リリィの魔術で眠らせてある。


 使用人達も城の中で普通に働いているし、特に混乱している様子は見受けられない。窓から差し込む陽の光の中で平然と業務をこなしているので、ヴァンパイアにはされていないみたいだ。


 確か捕らえた死霊魔術師が言うには高位の貴族がヴァンパイアになっているとの事。その元貴族であったヴァンパイアは見当たらず、陽の届かない場所で潜んでいるのだろう。この時間を選んで正解だったな。


 いくら王がヴァンパイアでも城の中にまでスケルトンやグールはいない。だが警備の者達はレイスに憑依されてる可能性が高いので、こうしてこそこそと隠れつつ移動している次第だ。



「誰だ! 今隠れた奴、出てこい!! 」


 流石に城の警備を掻い潜るのは無謀だったか。見つかったのは遺憾だが、警備の優秀な働きを見て思わず嬉しくなってしまう。


「っ!? ユ、ユリウス王太子殿下。どうしてここに? 城から逃げ出されたのでは? 」


「父―― いや、王を騙るヴァンパイアからこの国を取り戻しに来た」


 警備兵は驚きで目と口が開きっぱなしになる。城を護る者がする顔ではないが、今は目を瞑るとしよう。


「ここを通して貰おうか? 」


「…… いえ、陛下の下へ案内致します」


 ん? 排除ではなく案内だと? 警戒心を顕にする私に、警備兵は少し困ったように笑った。


「王からの命令なんです。ユリウス殿下が再びこの城を訪れる事あれば、連れてくるようにと」


 それを聞いて始めに思ったのが罠の可能性だ。しかし、態々探さなくても向こうから会ってくれるのだから、無駄が省けるのも事実。


「クレス、どう思う? ついていくべきか、それとも罠を警戒して断るか」


「どのみち向こうは殿下がまた戻ってくるのは想定済みのようですし、ここは案内して貰った方が早いと思います」


「そうか、それなら既に我々を迎え撃つ用意は万全という訳だな。案内に従おうと従わずとも同じ…… 分かった、私達を連れていくが良い」


「ありがとうございます。では、ご案内致します」


 警備兵の後ろをついていってる間、使用人や文官の目に晒される。皆一様に不安な表情を浮かべていた。その中には極小数だが恨みの籠った目線もある。


 そんな視線を向けらているのを知ってか知らずか、警備兵の足取りは重い。まるで今の城内を見せ付けているかのようだ。


「着きました。この先に陛下がお待ちしております。ではこれで失礼致します」


 予想通り、案内されたのは謁見の間か。


「あぁ、ご苦労だった…… まだ何か? 」


 失礼すると言っておきながら中々立ち去らない警備兵に疑問を感じて問うと、すこし逡巡した後、言葉を発した。


「いえ、どうかご武運を…… 」


 今度こそ去っていく警備兵の後ろを見送り、重厚な扉に手を掛ける。


 中へ入ると、柔らかく長い絨毯の先の王座に着いている者の姿が遠目に確認できる。クレス達が私を囲い、歩き出す。一歩、また一歩と近付く度に、その者がハッキリと見えてきた。


「何故戻ってきた? …… 愚かな息子よ」


 短く揃えた髭に、精悍な顔。頭には黄金の王冠、齢五十とは思えない程に逞しく、若々しい肉体。そして肌はヴァンパイアと同じで青白いこの男こそ、現国王であり私の父だった者 “クラエス・エドヴァルト・サンドレア” である。


「知れたこと、貴方から国を取り戻しに来たのだ! ヴァンパイアとなった者に、人間の国を治める資格はない! 」


「…… 成る程、だがら儂から王座を奪うと? 城を出て何も学ばなかったようだな? 例えお前が王となったとしても、アンデッドキングがいる限り、この国に安寧などない。真に国と民を思うなら、自らが人間を捨て奴等の仲間となるしかないのだ。何故それを理解しようとしない!! 国を、民を守るにはそれしかないのだ! 」


 彼も彼なりに、国と民を想っての決断だったのか。しかし、それは間違っている。私は彼―― クラエスのこれ迄の行いを認める訳にはいかない。


「貴方は間違っている。国を存続させる為にアンデッドの言いなりになれと? それで何れだけの民が犠牲になったか…… 国とは民あってこそだと、そう私に教えてくれたのは貴方ではありませんか!! 」


「黙れ!! こうでもしなければ全ての国民がアンデッドになっていたのだぞ! 僅かな犠牲で多くの者達が救われる。理想だけでは何も救えんのだ! 」


 王座の肘掛けに罅が入る程に強く握るクラエスの酷く歪んだ顔は、後悔、苦悶、怒り、その全てが入り交じったかのような表情だった。



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