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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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王都の戦い 後編

 

 今のところ作戦は順調だ。兵士や騎士を取り押さえ、近くにいる神官達に浄化を頼んでレイスから解放させていく。


 解放した奴等は、皆レイスに憑依されていた自覚や記憶があったようで、目が覚めた後は進んで俺達に協力してくれるから、話が早くて助かるぜ。


『こりゃ面白いっすね! ガストールの兄貴。どんどん仲間が増えていくっすよ! 』


『前に出すぎだぞ、ルベルト! 本番はこれからなんだ、体力と魔力を温存しておけ! 』


 そうだ、まだこんなのは序の口。不気味に佇む奴等が後ろに控えている限り油断は出来ねぇ。


 どれ程の時間が経ったのか…… 敵の数が目に見えて少なくなったと感じた頃、遂に傍観を決め込んでいたリビングアーマーが動き出しやがった。


 ふぅ…… さて、こっからが本番だ。あいつらはとんでもなく頑丈で、疲れも痛みも感じねぇ。だからどんなに痛め付けたとしても、止まるどころか怯みもしないと来たもんだ。


 ヴァンパイアめ、面倒なもん作りやがって。ライルの話じゃ浄化魔法が効きづらいんじゃないかって言ってたな。そんなもんどうやって倒しゃいいんだか。


 ガチャガチャと鎧のうるせぇ音を立てながら向かってくるリビングアーマー。わざとあんな音を出して挑発しているみたいで、腹が立つ。


 軽く周囲を見回すが、リビングアーマーを操っている術者の野郎は見付からない。上手く隠れてやがるな。まぁそれが普通で、堂々と姿を晒したあの野郎だけが馬鹿なんだが。


 んで、その馬鹿は今何処にいる? 本当にリビングアーマーの命令権を奪えんだろうな? ヤバくなれば、遠慮なしに逃げさせてもらうぜ。自分の命が第一だからな、勝ち目のない戦いはしねぇっのが俺達の信条だ。集団自殺なんには加わるなんざ冗談じゃない。他の冒険者も大なり小なり同じ考えだろうよ。


『ガストール、一体こっちに来るぞ! 』


 グリムが言うように、一体のリビングアーマーが俺達に迫ってくる。あぁくそ、出来るならやり過ごしたかったが、そうもいかねぇか。


『仕方ない、ルベルト! グリム! あいつの左右に陣取れ! 』


 俺はリビングアーマーの正面に立ち盾を構える。奴の注意を俺に向けて、ルベルトとグリムには攻撃に専念してもらう。


 リビングアーマーの剣が容赦なく俺に振るわれる。盾で受ける度に吹っ飛ばされそうになるのを、何とか踏ん張って耐えるが正直言ってきついぜ。


 この鎧野郎、中身スカスカのくせになんつう力で剣を振りやがる。こんなの何時までも受けてられねぇぞ?


『兄貴! 魔法も剣も全然効いてる気がしないっす! どうすればいいんすか!? 』


『あぁもう! 何なのよこれ! めんどくさいわね!! 』


 予想はしていたが、パッケの精霊魔法を食らってもピンピンしてるとはな。だが他のやり方は知らないから、このまま続けるしかない。


 神官共も諦めずに浄化魔法をぶつけているが動きは止まらない。やはり駄目なのか? 振り上げられた剣をまた受けると、少し違和感があった。


 何だ? 最初に比べると力が弱くなってるような? これはライルが言っていた浄化魔法が効かないんじゃなくて効きづらいってのは本当のようだ。


 しかし、何十発と当ててこの程度しか弱体しないとなると、ライル並の魔力があったとしても、この数のリビングアーマーを止めるのは絶望的じゃないか?


 こうなりゃやけくそだ! 表面からじゃ効きづらいって言うなら、内側から食らわせてやる。


『パッケ! お前の精霊魔法であの鎧野郎を転ばせられるか? 』


『うん? それだけだったら簡単だよ』


『ならやってくれ。グリムとルベルトは転倒した奴が暴れないよう押さえてくれ』


『よく分かんねぇっすけど、分かったっす! 』


『了解した』


 パッケが放つ風の精霊魔法が、リビングアーマーの足を浮かせてそのまま転倒させ、そこにルベルトとグリムが二人掛かりで手足に飛び付き、起き上がらないように押さえ付ける。


 そして俺が透かさずリビングアーマーへ馬乗りになり、首部分に剣を突き立てた。


 何の抵抗もなく刃が首の隙間に通り、思いっきり柄を引くと中身のない兜が外れ、首にぽっかりと穴が空いた胴体だけの鎧がそこに残される。


「おい! そこの神官!! この穴から浄化魔法を撃ちまくれ! 早くしろ!! 」


「えっ!? わ、分かりました! 」


 近くにいる神官に声を掛ける。ったく、此方だって何時までも押さえてられねぇんだ。グズグズしてんじゃねぇよ!


 神官の放つ浄化魔法の光が鎧の隙間から漏れ出て眩しいが、それでも俺達は暴れるリビングアーマーを押さえ込む。

 暫くそうしていると次第に動きが鈍くなり、完全に止まりピクリともしなくなった。


「し、死んだんっすか? 」


「馬鹿ね、元から生きてないわよ! 」


 ルベルトとパッケが恐る恐る確認するが、もう動く気配はない。浄化魔法を使った神官も穢れの気配は感じられず、ただの鎧になっていると言う。


 何て言うか、自棄になって嫌がらせ感覚で試してみただけだったが、思いの他上手くいって驚いたぜ。


「おい、お前は急いでこの事を周りに伝えろ。リビングアーマーの倒し方が分かったってな」


 それまで呆けていた神官を無理矢理立たせ、情報を拡散させる。こんなに苦労してやっと一体だ、気が遠くなりそうだが仕方ねぇ。これも仕事だと割り切るか。


 動かなくなったリビングアーマーから離れ、荒くなった息を整えていると、急に影でも差したかのように暗くなった。


「兄貴!? あぶねぇっす!! 」


「ちょっと! なにボケっとしてんの!? 」


 下げていた視線を上げ先には、剣を俺に振り下ろす別のリビングアーマーが目に入る。


 しまったな、気を抜きすぎたか…… もう剣は目の前だ。今からじゃ避けられない。情けねぇ最期だったなぁ…… 。


 そう死を覚悟した瞬間、リビングアーマーの姿が横にブレて視界から消えた。少し目線をずらして見ると、二体のリビングアーマーが戦っている。


 どうなってる? なんでリビングアーマー同士で戦ってやがるんだ?


「ガストールの兄貴! 周りを見るっすよ!! 」


 ルベルトに促され、周囲を見回す…… 何だこりゃ? 約半分のリビングアーマーが同じリビングアーマーに攻撃を加えている。もしかしてあの死霊魔術師がやったのか? いや、あいつは精々十体位しか操れないと言っていた。なら、俺達に味方する奴が向こうにいるのか?


「ねぇ、上になんかいるよ? あれってこの間見たヴァンパイアじゃない? 」


 なに? 確かに、パッケの言うように空に人の形をした何かが浮かんでいる。しかも此方に降りて来てるじゃねぇか。


「ふむ、危ない所でしたね。あの様にリビングアーマーを倒すとは見事な着想でしたが、その後がいただけない。戦場の最中で気を抜くのは自殺行為と等しいですよ」


 間違いねぇ、こいつはあの時のヴァンパイアだ。名前は、ゲイリッヒとか言ったか? ライルと会っている筈のこいつがどうして此処にいやがる。


「な、何であんたが此処にいるっすか!? 旦那は、ライルの旦那はどうなったんすか!! 」


「おや? 貴方方は我が主のお知り合いですか? ならば、助ける事が出来て僥倖でした。我が主の悲しむ顔は見たくありませんので」


 はぁ? 我が主だぁ? ってまさか…… !


「おい、助けてくれたのは感謝するけどよ、その我が主ってぇのはライルの事だよな? てめぇ、ライルをヴァンパイアにしたんじゃないだろうな!! 」


 ライルが力欲しさにヴァンパイアになるなんて考えられねぇが、何かのっぴきならない事情があったかもしれねぇ。


「確かに、我が主はライル様ですが、ヴァンパイアにはしておりませんよ? 我が主は既に人間の領域を逸脱した存在でありますから、そのようなことをする必要がありません」


 …… 嘘は言っていないようだな。となると、ライルはこのヴァンパイアを訪ねてそのまま仲間にしちまったのか? 相変わらず予想の斜め上をいくぶっ飛んだ奴だぜ。


「じゃぁ、あんたはオレッち達の味方って訳っすか? 」


「えぇ、その様に認識していただいて宜しいですよ。我が主からリビングアーマーを一つ残らず再起不能にと命じられましたので急いで伺ったのですが、もう独自に解決策を講じておられましたね」


「いや、正直有り難いぜ」


 まったく、何してんだか…… 今回ばかりは呆れて物も言えねぇ。普通、敵を仲間にするか? 寝首を掻かれても知らねぇぞ?


「では、私はリビングアーマーの兜を外していきますので、浄化魔法は頼みましたよ」


 そう言ってゲイリッヒはまた上空に飛んでいった。ヴァンパイアが神官に協力するなんて前代未聞だぜ。ライルといると、俺の中の常識が尽くぶっ壊れちまう。


 やはりあいつとは、適度に距離を置いたぐらいの付き合いが丁度いい。さてと、リビングアーマーさえいなけりゃ、後はこっちのもんだ。もうひと踏ん張りといくか!

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