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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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 カーミラの仲間である骸骨―― レオポルドには逃げられてしまったが、アンデッドキングの回収という彼の目的は阻止できた。


 それも一重に新しい結界でカーミラ達の逃亡手段である転移魔術を封じたのが功を奏した。まぁ、耐久力の問題が浮き彫りになったが、それは追々と見直していくとしよう。


「ライル様~! ご無事で御座いますか~! 」


 少し離れた所からアグネーゼの声が聞こえてきたので顔を向けると、息を切らしながらも必死に走ってくる彼女の姿があった。


「はぁ…… はぁ…… と、突然、部屋が崩れて、しまいましたので…… 心配、致しました」


「急いで来てくれたのに何ですが、もう終わりましたよ」


「はぁ…… で、では、アンデッドキングは倒されたのですね? 」


 俺はアンデッドキングやレオポルドの事をかいつまんで説明し、アグネーゼも息を整えながら聞いていた。


「そうでしたか…… 骸骨の体を持ち骨を操るレオポルド。話を聞く限り、また厄介な相手のようで御座いますね。しかし、アンデッドキングが回収される前に倒せたのは幸いでした」


 そう、今回初めてカーミラの企みを阻止できた事は、俺達の中では大きい。初めて彼女に勝った気がするよ。この調子で徐々に追い詰めて行けたら良いのだけれど。


「それでですね…… 何故このヴァンパイアがライル様の側にいるのですか? 」


 うん? 俺の側に? …… うお!? びっくりした! いや近いよ!! 何で物音も立てずに近寄ってんの? 心臓に悪いから止めてほしいね。


「えっと、ゲイリッヒさん。この度は力を貸して頂き、ありがとうございました」


 レオポルドを抑えててくれていたので、一応礼は言わないとね。その後の身の振り方は流れに任せるしかないけど。


「いえ、私も思う事がありましたので…… 貴方はあのレオポルドという輩について何かご存知のようですね? 宜しければお聞かせ願っても? 」


 今度はゲイリッヒか。ユリウス殿下達と王都の外で戦っている人達の事が気掛かりなので、これもまた、かいつまんで説明する。


「ほぅ? あの勇者の仲間がね…… 神の存在を否定したいお気持ちは分かりますが、世界を巻き込むのはいただけませんね。破滅願望がおありなら、勝手に一人で死ねばいい」


「ゲイリッヒさんはこの世界や神を憎んではいないのですか? 」


「いいえ、微塵も憎む気持ちはありませんよ。確かに当時は自分達の存在を否定されたみたいで納得は出来ませんでしたが、今は何も感じていませんね。あの御方も、きっと何処かで新しい生を全うしているでしょうし、特にこれと言って成し遂げたい野望もございません」


 へぇ、てっきり神を憎んでるのかと思ったけど、二千年も経てばもうどうでも良くなってしまうものなのかね。


「ですが、世界を壊そうとする輩を見過ごす訳にはいきませんね。ここはあの御方と出会い、共に過ごした世界です。それが失われるのは心苦しい。という訳ですので、どうです? 私を雇いませんか? 自分で言うのもなんですが、結構役に立ちますよ? 」


 うん、知ってる。でもどうしようかな…… 雇うって事は何かしらの見返りを要求してる訳だよな? 先ずはそれを聞いてからでないと、迂闊に返事は出来ない。


「俺がゲイリッヒさんを雇うのに、何を対価として渡せば良いのですか? 」


 ゲイリッヒはそっと目を閉じて何か考え、目を開けて此方を見つめる。


「そうですね…… 対価として、ワインでも頂きましょうか」


「え? ワイン、ですか? 」


 どんなぶっ飛んだ要求が来るかと身構えていたが、予想外の答えが返ってきて肩透かしをくらった。


「フフ、実を言うと対価は求めていないのですよ。今さら欲しい物などありませんから。強いて言うなら、貴方がこれから成す事を近くで見てみたいと思ったのです。この世界にどのような影響を与えるのか、とても楽しみです」


 ゲイリッヒは穏やかで愉しげな瞳を俺に向けてくる。そこに邪な想いは感じられず、ただ興味だけがあるといった様子だ。


 初めて会った時は怖くて冷汗が止まらなかったけど、邸で対面した時は始終平和的な雰囲気で敵対心は感じられず、むしろ好意的であった。


 アンデッドキングと戦っている時でさえ楽しそうに見学して、レオポルドが乱入してきた時は、俺達の為に怒り力を貸してくれた。


 ヴァンパイアだけど、俺はこのゲイリッヒが悪党だとはとてもじゃないが思えない。テオドアのように誓約を交わさずとも、俺に興味がある限り、全力で仕えてくれるような気がしてならない。


「駄目ですよ! ライル様! テオドアさんは神々の誓約を交わしていますので問題はありませんが、このヴァンパイアは信用なりません。それに、ライル様の身にまたアンデッドを抱え込むなど、教会に属する者として賛成は致しかねます」


「私もあまり良いとは思えないわね。何だかあの笑顔が胡散臭そうだわ」


 アグネーゼの言い分は分かる。アンデッドは浄化しなくてはならないとの神々の教えがあるので許容出来ないんだよな。エレミアは…… 女の勘ってやつかな?


 でもヴァンパイアに受け継がれてきた死霊魔術には興味がある。別に命を弄びたい訳ではない。死霊魔術の術式や仕組みを理解して、何か新しい魔術でも開発出来ないかと考えたのだ。

 もしかしたら、カーミラ達が魔力結晶の中に魂を保護している仕組みが、死霊魔術を学ぶ事で分かるかも知れない。そしてゆくゆくは、カーミラ達のように魔力結晶で保護している魂を解放出来る方法が見つかる可能性だってある。


「私を雇ってくれるのなら、決して貴方を裏切らないと約束致します。何なら神にだって誓っても良い」


 今度はとても真剣な眼差しを向けてくる。先程の言葉に嘘はないみたいだ。ゲイリッヒを迎え入れるメリットとデメリットを考慮すれば、ここは受け入れた方が得なのでは?


「分かりました。ゲイリッヒさん、貴方を雇います」


「ありがとうございます。これより私、ゲイリッヒは貴方様を新たな主と認め、この体と命を捧げお仕えすると誓います。今後とも、どうかよろしくお願いいたします。我が主よ」


 恭しく方膝を着いて跪いたゲイリッヒが、頭を下げて誓いの言葉を口にする。


 その様子をアグネーゼは何とも言えない表情で眺め、エレミアは不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた。


 アンネとムウナは…… 特に気にしていないようだ。


 とにかく、新しい仲間が加わった。皆仲良く―― とは言わないが、どうにか上手くやってほしい。結果としてアグネーゼの立場と想いを無視した形となってしまって本当に申し訳ない。


 これが終わったら、アグネーゼに何かお礼をしよう。浄化しなくてはならないアンデッドの仲間が一人増えてしまって、ストレスも相当溜まってるだろうからね。


 ゆっくり休める時間でも作れば良いかな? それとも羽を伸ばせるように何処か遊びにでも連れて行くとか? プレゼントは、何か物でも渡せば機嫌なんて良くなるだろ、なんて浅はかな考えをしていると思われそうだけど、どうなんだろ? 今も前もこういった経験は無かったから判断基準が…… 女性関係が乏しかった前世が悔やまれるよ。


 それはそうと、これからどうするか。王城にいるユリウス殿下達も王都外で戦っている人達も気になる。


 そう言えば、リビングアーマーは死霊魔術の一つだったよな。


「ゲイリッヒさん」


「我が主よ、私に敬称は必要ありません。是非ともゲイリッヒとお呼び下さい」


「そ、そうですか? じゃぁ、ゲイリッヒに頼みたいのですが、今王都の外にいるリビングアーマー達を死霊魔術で止める事は可能ですか? 」


「勿論! 私の死霊魔術があれば造作もないこと。お任せ下さい、全ては我が主の望むままに」


 ビシッと足を揃え片手を胸に添えて一礼するゲイリッヒは、とても様になっていて格好良い。


「お待ち下さい。この方を一人で行かせるのは危険ではありませんか? 」


 アグネーゼが警戒するのは当然だ。いくら言葉で忠誠を誓ったとしても、彼女にとっては浄化対象であるヴァンパイアに変わりない。すぐに信用しろと言う方が無理なのだ。

 でも、それなら誰を監視役にしようか? ムウナはあまり人前では戦わせたくないし、エレミアは絶対断るよな。

 アグネーゼは…… 滅茶苦茶嫌そうにしている。それじゃアンネ…… は思いっきり首を振って拒絶している。仕方ない、テオドアにもう少し頑張ってもらうか。


『そういう訳で、ゲイリッヒの見張りをお願い出来ないかな? 他に何もしなくていいからさ』


『はぁ…… まぁしょうがねぇか。分かったよ、こいつを見張りゃ良いんだろ? 』


 そうと決まれば早速行動だ。テオドアとゲイリッヒは王都外へ。そして俺達は王城へと向かうのだった。

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