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「なんたる事だ! アンデッドキングが灰になってしまったではないか!! 」
アンデッドキングが灰になるのを見たレオポルドは焦り出し、守りが疎かになった所に、ゲイリッヒの血で形成された大鎌でレオポルドの首を刈り取る。
だがレオポルドはすぐに落とされた首を拾い、何事もなかったかのように取り付けた。
「ふむ、やはりスケルトンのように頭を破壊しないといけないようですね」
冷静に観察するゲイリッヒにレオポルドは苛ついたのか、乱暴に歯を打ち鳴らす
「彼女の要望に応えられなかったのは非常に心苦しいが、アンデッドキングが死んだ今、もう此処に用はない。この結界を壊してでも帰らせてもらうよ」
「私が大人しく貴方を見逃すとでも? 」
このままレオポルドはゲイリッヒに任せて、俺達は骨竜をどうにかしよう。
「へいへい! 次の獲物はこのスカスカ野郎なの? 骨とはいえ、竜の姿をしているなんて、気に入らないね! 」
「また、ほね。にくが、たべたい」
アンネとムウナが来てくれて、一気に戦力が上がった。これなら十分に勝機はある。
「アルクス先生! アルラウネ! 早くこっちに!! 」
アルクス先生とアルラウネ達をアンネ達の後ろへと誘導する。
「ライル様は魔力の使い過ぎで疲弊しています。私達がお守りしなくては」
「ライル君、良く頑張りましたね。情けないですが、後はアンネさん達にお任せしましょう」
そうだな、まだ魔力が回復しきっていない俺なんて足手まといになる。ここは邪魔にならないよう大人しくしておいた方がいい。
巨大な骨竜に対抗してムウナも大きな肉塊へと姿を変える。ただでさえ骨竜で部屋が圧迫しているのに、ムウナまで巨大化したら部屋が持たないぞ。
ムウナの体から生える触手と骨竜の牙と爪が激しく衝突して、部屋がもう滅茶苦茶だ。結界を張っていなかったらとっくに崩壊しているところだ。
そこにアンネの精霊魔法とエレミアの魔法が加わり、ついに部屋を覆う結界に亀裂が入り、それと連動して魔道具も罅割れてしまった。
「これはまずいですね、このままでは結界が持ちませんよ」
手に持っている魔道具を見つめるアルクス先生が、焦りを含んだ声で呟く。
激しい戦闘で結界の許容範囲が限界を迎えたようだ。今後の課題として耐久力の見直しが必要だな。そんな結界の様子に気付いたのは俺達だけではなかった。
「ほう! 限界が近いようだね。そうと分かれば…… 骨竜よ、遠慮は無用だ! 好きに暴れろ!! 」
レオポルドがゲイリッヒから離れ、骨竜の頭部に降り立っては両手を広げて叫ぶ。その命令に応え、骨竜が激しく暴れ出した。
「うわ!? なにこいつ? もう出鱈目だよ! 」
「ムウナ! 触手で骨竜を縛り上げるんだ! これ以上は結界が持たない!! 」
「うぅ、このほね、かたくて、たべにくい」
ムウナの触手が骨竜を絡めとろうとするが、尻尾や後ろ足で部屋の床と壁を激しく叩き付ける。その度に結界が悲鳴を上げ、魔道具の罅が大きくなっていく。
そしてとうとう、アルクス先生の手の中で結界の魔道具が壊れてしまい、甲高い音と共に結界が消えてしまった。
「ウハハハハハ! これで結界は消えた。それでは失礼させてもらうよ」
一頻り笑ったレオポルドは、片方の眼窩から魔石を取り出す。転移の魔石、もう一つ持ってたのか。
「こんなこともあろうかと予備を準備しておいて良かった。それでは諸君! 俺の新たな作品を楽しみにしてくれたまえ! では、また会おう!! 」
穴が開いた壁から館の外へ飛び出し転移魔術を発動するレオポルド。しかも骨竜という置き土産を残していきやがった。余計な物をと思ったその時、部屋全体が激しく揺れる。結界が消えたからか、支えを失ったかのように部屋が突然崩れて床が抜けた。
「あぶない! ムウナに、つかまって! 」
下へと落下する直前、ムウナの触手が俺達に伸びる。因みにアンネとゲイリッヒは飛べるので、そんなに慌てていないように見えた。
瓦礫と共に落下していくこの感覚、また味わう事になるとはね。ムウナの触手に掴まれつつ落ちていく中、前世の記憶がフラッシュバッグする。
「やれやれ、逃がしてしまいましたか。倒せなかったのは残念ですが、あの暴れ者を止めるのが先決ですね」
俺達の後を追ってゆっくりと降りてきたゲイリッヒが軽く首を振った。
骨竜と共に一階へと落ちてしまったが、ムウナのお陰で誰も落下での怪我はなかった。しかしそれは骨竜も同じで、尚もレオポルドの命令通りに暴れようとしている。
「力を貸してくれますか? ゲイリッヒさん 」
「えぇ、喜んで」
取り合えず俺とゲイリッヒの利害が一致しているので、まだ協力してくれるようだ。
「なに? あんたも一緒に戦うの? 」
「変な真似をしたら、先に消すわよ」
「それは恐ろしいですね。しかとこの胸に刻んでおきましょう」
ムウナが骨竜の動きを触手で封じ、アンネが精霊魔法で頭蓋に小さな傷をつける。そこにエレミアとゲイリッヒが同時に攻撃を加えると頭蓋は砕け、体もバラバラになった骨竜はもう二度と動かなくなった。流石の骨竜もこのメンツには敵わなかったか。
はぁ、アンデッドキングとレオポルドとの連戦は流石に堪えるな。まぁ俺は魔力を供給していただけだが、それでも疲れるものは疲れる。
落ちついた所で、アルクス先生とアルラウネ達を魔力収納へと入れた。
『誰も死ななくて良かった。あまり無茶はしないで下さい』
『それは僕が言いたいですよ。ライル君に何かあったら、悲しむ人が大勢いるのですからね』
『私達も、またライル様が危険な目に合ったのならば今回と同じくお守りする次第です』
う~ん、その気持ちは有り難いんだけど、俺もアルラウネ達を守りたい。なんとも複雑な気分だよ。
「ライル、服が破けてるわ、それに血も…… 」
「あぁ、大丈夫。傷はもう治したから」
エレミアは他に傷が無いかを確かめてからホッと一息つくと、魔力を繋げてきた。
『…… テオドア、ライルの事をお願いしたよね? 後で覚えておきなさい』
『おい! そりゃ厳しすぎやしねぇか? 俺様はちゃんと相棒を守ったぜ!? 』
うん、そうだな。ちゃんとテオドアは俺を守ってくれたので、後で擁護しておくか。それより今は一人にしているアグネーゼと合流しないと。




