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レオポルド自慢の作品である大柄な骸骨達を、ゲイリッヒは血の大鎌でバラバラにしていく。その攻撃速度は肉眼では捉えづらい程だ。彼が初めからアンデッドキングと共闘していたら、俺達に勝ち目はなかったかも知れない。
「流石は二千年も生きてきたヴァンパイア! いやぁ、お強い。なら此方も本気を出すとしよう」
興奮気味にカチカチと歯を打ち鳴らしすレオポルドは、右肘から下を粉のように細かくなり白い刃に形成した。
ゲイリッヒの血の大鎌とレオポルドの骨の刃が激しく打ち合う。それでも壊れる気配がない骨の刃に、ゲイリッヒは感心の声を漏らす。
「ほぉ? 私の攻撃をここまで防いで罅一つ入らないとは、ただの骨にしては随分と頑丈ですね」
「お褒め頂き光栄だよ! 俺の体は魔術で強化しているのでね、ミスリル程度の強度はあると自負しているよ」
レオポルドがゲイリッヒを抑えている間に、骸骨達が満身創痍で動けないでいるアンデッドキングに近付いていく。
「な、なんだ貴様ら! 放せ! ボクをどうするつもりだ! 」
ヤバイ! カーミラの事だ、レオポルドにも転移魔術が刻まれた魔石を持たせているに違いない。
「テオドア! アンデッドキングが連れ去られる。何とかして阻止しないと! 」
「ちっ! 相棒の魔力はまだ回復してねぇのか? 今の俺じゃ、魔力を吸うぐらいしか出来ねぇぞ! 」
「それでも良いから、とにかく時間を稼いでくれ! 」
いくら魔力収納内にマナの大木があるからといって、そんなすぐには回復しない。それでも普通の人より回復速度は早いが、テオドアがあの魔術を発動させるにはまだ足りないし、今は結界を張るのを優先しなくては、また転移で逃げられてしまう。
『ライル君、結界は僕に任せて下さい! もう君の中でただ見ているだけなんてしていられません! 』
アルクス先生が新しく開発した結界の魔道具に魔力を込め、魔力収納から出て来てしまった。そして手に持っているキューブ型の魔道具を発動させる。
魔道具は幾何学模様に光り出し、この部屋全体に結界を張った。これで例え転移魔術を使おうとも、誰も部屋から出る事は叶わない。
「ライル様と魔道具は私達が死守致します」
発動している魔道具を持っているアルクス先生と俺を囲うように、アルラウネ達も魔力収納から出てくる。
「気持ちはありがたいけど、アルクス先生や君達を危険な目には遭わせたくない」
「僕の魔力量では、リリィさんのように強力な魔術は使えませんが、子供に守られるだけの情けない大人ではありませんよ? 」
「この命は既にライル様へと捧げております。ここで私達が死んだとしても、ライル様ある限りアルラウネはあの楽園で繁栄していくでしょう。だからこそ、たった一人しかいないライル様をお守りせねばならない。これは私達アルラウネの総意です」
アルクス先生とアルラウネ達の意思は固い。その覚悟を無下には出来ないな。ならば俺がするべき事は、誰も死なせずにアンデッドキングも奪われないようにするだけだ。
「くそが! 駄目だ相棒、俺様だけじゃコイツらを止められねぇ。魔力の回復はまだなのか? 」
レオポルドの骸骨達を抑えるにはテオドア一人では荷が重かったようだ。俺の魔力もある程度は回復したし、短時間だがテオドアが魔術を発動しても問題はないだろう。
「おぉ! 流石は俺の美しい作品達だ。見事アンデッドキングを捕らえたか。ならば此処にはもう用は無いので失礼するよ」
そう言ってレオポルドが眼窩から魔石を一つ取り出した。やっぱり持っていたか。
魔石に刻まれている魔術が発動して魔石が砕けた。しかし、空間の歪みは発生せず、転移魔術は不発に終わる。これにはレオポルドも無い目を丸くして驚いていた。
「…… は? 何故だ! まさか不良品? いや、彼女がそんなものを渡す筈がない! 」
「遊びは終わりましたか? では、続きといきましょうか」
狼狽えるレオポルドに、容赦なく血の大鎌を振るうゲイリッヒ。
「そうか! この結界が原因だな、何時の間にこんなものを…… ム!? あれがその魔道具か! なんでアルラウネがあんなにいるのか分からんが、まぁいい、お前達! あの魔道具を壊すんだ! 」
ゲイリッヒの猛撃をいなしながらも、レオポルドは結界と魔道具の存在に気付いた。そして命令を受けたアンデッドキングを抱えた奴以外の大柄の骸骨達が、結界の魔道具を壊そうと向かってくる。
アルクス先生とアルラウネも決して弱くはないのだが、相手が悪い。犠牲なくして魔道具を守れるか心配だ。
骸骨達が徐々に迫り、アルラウネ達を斬り裂こうと剣を振り上げる。俺は彼女達を守る為、魔力収納から盾を取り出して身構えたその時、横から伸びてきた蛇腹剣に骸骨の一人が頭蓋を貫かれ、膝から崩れ落ちる。
「ライル! 大丈夫!? 結界が発動したのが視えたから急いで来たんだけど、どうやら私の判断は正解だったみたいね」
「エレミア! ありがとう、助かったよ。アンデッドキングが喚び出したデスナイトは? 」
「残りは二体だけだから、後はアンネ様達だけで十分よ」
この結界は中から外には出れないが、外から中に入る事は出来るので、エレミアは問題なく俺の側まで来て蛇腹剣を構える。
女性に身を守られるのは男として多少情けなく感じる所はあるが、それ以上に頼もしい。エレミアが近くにいるだけで安心する。もしかして、俺って彼女に依存してしまっているのでは? それはそれで何かと不安だな。




