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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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「ウオォォオォォ!! 」


 大量の魔力を消費して巨大な炎へと姿を変えたテオドアが、アンデッドキングに迫り、その炎で包み込む。


 抵抗するアンデッドキングだが、いくら腕を振ってもテオドアの炎はすぐ新たに燃え上がり、消える気配はない。


「お、おまえ! 自分が何をしているのか分かっているのか? そんな状態が長く続く訳がない! 死ぬつもりか!? 」


「へっ! てめぇと心中なんかごめんだぜ! 俺様と相棒の魔力が尽きるまでにぶっ殺してやらぁ!! 」


 テオドアの炎に焼かれ、アンデッドキングの血で出来た強化外装に罅が入り始める。死をも恐れないテオドアの執念が、アンデッドキングを徐々に追い詰めていく。


 俺達の魔力が尽きるのが先か、アンデッドキングが力尽きるのが先か、最早時間との勝負だ。


 頑張れ、テオドア。俺も限界まで魔力を送り続るから、最後まで諦めるな! お前の根性と執念をアンデッドキングに見せてやれ!!


 テオドアの炎から逃れようと暴れるアンデッドキングだが、激しく燃え盛り纏わり付いて離れない。そしてアンデッドキングの両腕の外装の罅が大きくなってついには崩れ落ちた。そのすぐ後に、両足の外装も同じようにボロボロと壊れる。


「はぁ、はぁ…… ボ、ボクが負ける? アンデッドキングのボクが? そんなの許される筈がない! テオドアなんかに…… ボクはここで死ぬ訳にはいかないんだ! ヴァンパイアの未来の為に、ボク達がこの世界を支配するんだ!! 」


 アンデッドキングの悲痛な叫びが部屋に響く。彼等ヴァンパイアは神から異物と見なされ、アンデッド特効の浄化魔法までも作り、その存在を否定されてきた。常に教会の者達から狙われ、心休まる日は少なかったことだろう。


 そんな状況を変えようと、もう潜んで暮らさなくても良いようにと国を手に入れ、世界に、神に、自分達の存在を知らしめようしたのでは?


 そう思うと同情はするが、もっと別のやり方があったんじゃないのか? そう、もっと平和的なやり方がさ…… 。


 だんだんと弱っていくアンデッドキングを見て、何故か俺は切なくなった。この気持ちがお門違いなのは分かる。でも、どうしても胸が締め付けられる。


 ゴブリンやオークにオーガ、それに魔獣等といった人間からかけ離れた者達にはこんな思いはしないのに、ヴァンパイアのように人間の姿をした者が苦しみ、死んでいくのに忌避感を覚えてしまう。



「テ、テオドア! 取り引きをしよう。アンデッドキングの座を譲るのは出来ないけど、お前に従うと誓うよ。それでボクと一緒に世界を支配しようじゃないか。な? 悪くない話だろ? また全てのアンデッドがお前にひれ伏すんだ。それが望みだったんだよな? 」


 確かに、テオドアは再びアンデッドキングになる事が望みだった。今もその思いが変わらないのなら、この提案をテオドアが断る理由はない。

 アンデッドキングの言葉を聞いたテオドアはニヤリと人の悪そうな笑みを浮かべた。もしかして…… なんて俺は微塵も思わなかった。


「そんなのはもうどうだって良いんだよ。もっと良いものを手に入れたからな。お互いに認め合う本当の仲間ってやつをよ」


「は? な、何を言ってるんだ? そんなのボクの提案を受ければ幾らでも出来るだろ? お前は死ぬ気はないって言ってたけど、そんなの無理だ! 分からないのか? このままじゃ二人とも死んでしまうぞ!! 」


「はぁ…… だからてめぇはガキなんだよ。俺様は肩書きだけで従う下僕が欲しいんじゃねぇ、そんなの虚しいだけだ。まぁ、俺様も最近になって気付いたんだがよ。誰かに認めて貰うってのは良いもんだぜ? こんなクズで最低な俺様の為に本気で怒って心配してくれる奴がいる。それがどんなにうれしい事か…… だからよ、そんな相棒の為に俺様が命を張るのも悪かねぇと思ったのさ。それに、分かってねぇのはてめぇの方だ。相棒が後ろにいるから、こうしててめぇをぶっ殺す事だけに全力を注げるんだ! 相棒が俺様を信じ、俺様が相棒を信じている限り、絶対に俺様は死なねぇ! 死ぬのはてめぇだけだ! クソガキがぁ!! 」


 テオドアの炎がより一層激しさを増し渦となった。その中でアンデッドキングは苦悶の声を上げる。残りの外装が剥がれ落ち、本体が露となった所でテオドアは炎を収めて元の魔力の体に戻った。


 所々火傷を負ったアンデッドキングが床に両膝を着いて俯き、息も絶え絶えで動く気配がない。もう自分を再生する魔力も残ってはいないようだ。


 そんな満身創痍のアンデッドキングにテオドアは近付き、黙って見下ろす。


「…… ボクの、負けだよ。でも、勘違いするなよ。ボクはお前に負けたんじゃない…… お前()に負けたんだ」


「あぁ、それで良いぜ。どんな形であれ、勝ちは勝ちだ。俺様は卑怯で臆病だからよ。これで満足さ」


 テオドアがゆっくりと片手をアンデッドキングに伸ばす。これで終わりだ。これからはもうアンデッド達を先導する者はいなくなる。後は殿下達が国を取り戻すだけ。今頃はヴァンパイアになった王を討ち取っているのだろうか? クレス達がいるから平気だと思うけど、少し心配だな。俺達も城へ向かうべきか?


 等と思案していたら、突然天井が崩れてスケルトン達が降ってきた。


 なんだ!? アンデッドキングによる最後の抵抗か? そう思って目を向けるが、当の本人も驚いた様子で固まっている。


 スケルトン達は何をするでもなくその場で立ち尽くしていたが、中から一体のスケルトンが歩いてきた。


「いや、なんと見事な戦い! こんなにも心踊った

のは久しぶりだったので、若干心が昂っている! 死力を尽くした両者に称賛の拍手を贈ろうではないか!! 」


 カチカチと手の骨を打ち鳴らすスケルトン…… だよな? スケルトンって喋れたっけ?

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