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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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「さて、また相棒が狙われないよう、少し場所を変えるか」


 テオドアの突き出した両腕を変化させた風が、アンデッドキングに向かって吹き荒れる。


 その容赦なき暴風にアンデッドキングは、壁を突き破り、隣の部屋まで吹き飛ばされた。


「相棒はここで待ってな。すぐにぶっ殺してきてやるからよ」


 アンデッドキングの所に向かうテオドアの背中を見送っていたら、パチパチと拍手の音が聞こえてくる。


「いや素晴らしい! いくら元アンデッドキングだったとしても、レイスがアンデッドキングをあそこまで追い詰めるとは。自身の体を魔術で変化させるなんてレイスにとっては自殺行為にも等しい。それを貴方の膨大な魔力で上手く繋ぎ止めておられる。今の彼を殺しきる為には貴方を殺すか、魔力が切れるまで時間を稼ぐしかない訳ですね? 何とも恐ろしい。私でも勝てるかどうか」


 ゲイリッヒが若干興奮した様子で語る。今ここで襲われたら俺は確実に死ぬ。そんな絶好のチャンスだと言うのに、


「しかし、この館は気に入っていたのですが、残念です」


 などと館の心配をしている。本当に傍観に徹しているようだ。


 それなら俺も全力でテオドアのサポートに尽力出来るな。残りの魔力量はもうすぐ半分を切る。テオドアが使う魔術とアンデッドキングの攻撃により、魔力消費が驚く程に激しい。


 やはり一人でサンドレアに行かせないで正解だった。こんな化け物、テオドアだけじゃ勝てなかっただろう。


 テオドアの視界を通して戦況を窺う。今の所両者共に拮抗している。いや、少しだがテオドアの方が押しているか。


「ぐっ!? おまえ、ボクの魔力を吸っているな? 」


「ご明察通りだよ。いくら変化させたと言っても俺様の体には違いない。だからこうしててめぇを焼きながら魔力も奪えんのさ! 」


 そう、そこがこの形態の恐ろしい所で、様々な属性に変化させたとしても、それはテオドアの体とスキルが認識して、相手に触れている限り魔力の吸収が有効になるのだ。それなのにこの激しい魔力消費、二人の戦いが如何に壮絶なのかを物語っている。


 部屋の中なんかもうボロボロで見るも無惨な事になっていた。そりゃゲイリッヒだって溜め息の一つも漏らすよ。


「テオドアの癖にやるじゃないか。認めたくないけど、本気を出さないといけないみたいだね」


 アンデッドキングがまたグールを三体喚び出しては首を刎ねる。三体分もの血がアンデッドキングの体に纏わり付き、すっぽりと姿を覆うと、それは次第に形を変えていった。


 赤黒く染まった両手足に鋭い爪が生え、体は鎧のようにガッチリとして、少年のような幼き顔が面影を残さず化け物に変わり、鋭利な牙がビッシリと並ぶ口を大きく開く。身長も倍近く伸びている。


 血の鎧と言うにはあまりにもおぞましく、不気味な姿。本体を覆い隠す程の血で自身を守り、強化する。あれがアンデッドキングの本気か。


「ちっ、そんな見た目だけ恐くしたって、俺様には無駄なんだよ! 」


 再び炎と化したテオドアがアンデッドキングを焼きながら魔力を吸い取ろうとするが、ただの一振りで散らされてしまった。


「今のボクにそんな炎なんて効かないよ。殺せないなら魔力が尽きるまでいたぶり続けてやる」


 今度は雷に姿を変えるが結果は同じ。あの血で覆われた体はとても頑丈でダメージが通らないうえ、すぐにテオドアの体が散らされてしまうので、魔力も思うように吸収出来ずにいる。このままでは何れ俺の魔力が尽きてしまう。


 駄目だ…… あんなのどうやっても勝てる気がしない。防御も攻撃も何もかも相手が上だ。テオドアだけでは勝ち目がない。


『ライル君! しっかりして下さい!! 考えるのです。思考を止めてはなりません! 』


 魔力収納からアルクス先生の叱咤が飛んでくる。そうだ、考えろ。思考の停止は死に繋がるぞ。でもどうする? どうすればこんな化け物に勝てる?


『テオドア! 一旦退いて外にいるエレミア達と合流しよう。一人では無理だ! 皆で力を合わせるしかない! 』


『…… くそっ! それしかねぇのか? 俺様じゃ、アイツを倒せねぇのかよ!! 』


『悔しいのは分かる。自分の手で倒したいんだろ? だけどここで意固地になって死んでは元も子もない。どんな手を使ってでもアンデッドキングを倒すんじゃなかったのか? だったら、外にいるエレミア達と一緒に戦おう。今のお前は一人じゃない、俺達がいるじゃないか。仲間を頼れよ! 』


 アンデッドキングの大きく鋭い爪が壁ごとテオドアを切り裂く。壁が瓦礫となって崩れて埃が舞う中、アンデッドキングはテオドアの姿を見失ったようで声を荒らげた。


「どこに隠れた! もう終わりか? また逃げるのか? この卑怯者め!! 」


「…… あぁ、そうだ。俺様は卑怯者で、臆病者だ。だけど、てめぇを殺す為なら何だってやってやるさ」


 何時の間にか俺の横にいるテオドアを、アンデッドキングは睨み付ける。


「言ったよね? 今度はぜったいに逃がさないって。もう命乞いしたって無駄だ! 」


「んなもんする気もねぇし、する必要もねぇ。俺様にはまだ足りなかったみてぇだ。自分の命を賭ける覚悟ってやつがよ…… この期に及んでまだ死を恐れてる。それじゃ、てめぇを倒せるわけないのにな」


 ん? 何を言ってるんだ? これからエレミア達と合流して皆で戦うんだろ?


「悪いな、相棒。もう少しだけ、俺様の我が儘に付き合ってくれ」


「それは良いけど、一体何をするつもりなんだ? 」


「文字通り、命を燃やすのさ!! 」


 刹那、テオドアの体が大きく脹れ上がり、巨大な炎の塊へと変貌した。

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