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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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 先ずは用意してくれたワインを一口。魔力支配で解析した結果、毒物の類いが入って無いのは確認済みだ。


 口に含むと同時に熟成樽の濃い香りが広がる。そして長い年月を感じさせる深い苦味を舌に感じながら、喉へ流し込む。


 ふぅ…… と漏れた息にも濃厚な香りがする。これは凄いな。余計な言葉が出ない程に、味わい深いワインだ。ゲイリッヒが取っておきと言うだけはある。


「素晴らしいでしょう? このワインは特殊な魔術を施した樽にて長い間熟成させてきたのですよ」


 ここに来てからゲイリッヒの表情は柔らかで、初めて出会った時のあの身の凍えるような威圧感が鳴りを潜めている。そのお陰で俺は今普通に話せている訳だが、もしかして争う気はないのか?


「それは興味深いですね。どれ程の期間で熟成させたのですか? 」


「それはですね…… 約二千年です」


 はい? 二千年!? 嘘だろ? ワインを口に含んでいたら絶対吹き出していたくらいに驚いたよ。


「に、二千年、ですか? それはまた…… 想像出来ませんね」


「私にとって特別なワインなのですよ。我等が偉大なる父が誕生した日に作られたものです」


 偉大なる父? あっ、確か最初のヴァンパイアは二千年前に誕生したんだったな。そして魔王となり当時の勇者に討たれた。


「もうあの頃を知るヴァンパイアは、私を含め三人だけとなってしまいました」


 という事は後二人もこんなのが?


「心配せずとも結構。私達はあの御方意外に仕える気はありませんので、あの者達も何処かで自分勝手に過ごしておりますよ。魔王となった我等の父から授かりしスキルの恩恵で、当代のアンデッドキングの強制力は効きません。なのでこうして自由に出来るのです」


 成る程ね。それはそれで問題だが、完全にはアンデッドキングの支配下になっていない訳か。


「なら、ゲイリッヒさんはどうして此処に? アンデッドキングに協力しているのではないのですか? 」


「ただの気まぐれですよ。それに、私が仕えるに相応しいか見定めていたのです。前のアンデッドキングは最低でしたから。今回は同じヴァンパイアなので幾分かましなのですが、あの御方と比較すると劣ってしまいますね」


『最低で悪かったな、この野郎』


 魔力収納内でテオドアが憤慨していた。人間側にとってはそんなに脅威では無かったらしいから、最低のアンデッドキングと称されても仕方ないと思う。


「今のアンデッドキングも認めてはいないと? 」


 ゲイリッヒはワインを飲み、少し寂しげに微笑む。


「彼の心意気は認めますがね…… 私が仕えたいと思う何かが足りないのですよ。その何かは分かりませんが、どうしても仕えたいとは思えない。でも放っておくことも出来ずに、こうして付き合っている訳です」


 何かが足りない、か。まぁ、最初のヴァンパイアが心に残ってるからか、それが基準になっているようだ。要は理想が高いんだよ。


「心から忠誠を誓っていないので、アンデッドキングの居場所も教えても構わないという事なのですか? 」


「そう取って貰って結構です」


「では、アンデッドキングは今何処に? 」


 俺の問い掛けに、ゲイリッヒはゆったりとした動作でグラスを持ち、中のワインを見詰める。そして香りを楽しんだ後、一口含んで口の中でワインを転がして味わう様子は、堂に入っていた。


「ちょっと、ワインなんか飲んでいないで、ライルの質問に答えなさいよ」


 痺れを切らしたエレミアが不満気に言う。


「まぁそう慌てずとも…… せっかくお越し頂いたのだから、もう少しゆっくりしていっても良いのでは? 」


「そんな時間など私達には御座いません。話すつもりがないのなら、教義に従い貴方を浄化しなければなりません」


 相手がヴァンパイアだからか、アグネーゼが好戦的だ。どちらにせよ、ゲイリッヒと戦う事は避けられないだろう。


 そんな挑発とも取れるアグネーゼの言葉を受けても、ゲイリッヒは眉一つ動かさない。自分の力に絶対の自信があるのか、余裕の態度は崩れなかった。


「二千年…… あの御方を失い、幾度となく歴史が私を通り過ぎていきました。ある者は私を討伐せんと、またある者は私を服従させようと接触してきた。しかし、どれも私の空虚な心を満たす事は出来ず、鬱屈な日々を過ごしてきました。そんな中、私は出会ったのです。偉大なる父の面影がある者に。姿も、性格も、何もかもが違うのに、どうしてかあの御方と重なって見えてしまう。初めてですよ、こんな気持ちは」


 うん? 急に語りだして、どうしたんだ? しかも何だか熱の籠った眼差しを俺に向けてくる。もしかして、その面影があると言う者って……


「ライル…… 貴方は何処かあの御方に似ています。五百年前の勇者も雰囲気は似ていたが、その比ではない。まるでそう、生まれ変わりかと思ってしまうくらいに」


 生まれ変わりと聞いて思わずビクリと体が反応する。ゲイリッヒが偉大なる父と呼ぶ最初のヴァンパイアは、自らをヴァンパイアと名乗ったと聞く。この世界の何処からそんな名前を思い付いたのだろうか?


 ゲイリッヒは五百年前の勇者にも似た感じがすると言っていた。アルクス先生も、俺とシャロットは雰囲気が似ていると、アンネもまた五百年前の勇者クロトと俺が似ているとも言っている。


 これは偶然ではない。同じ地球、同じ日本からの転生者でしかも記憶持ちだからこそ、似た感じがするのかも知れない。全く同じとは言えないが、日本で暮らして培ってきた価値観や考え方が行動や出で立ちで滲み出ていたのではと予想する。

 その中でも俺と最初のヴァンパイアである人物は、ゲイリッヒがあんなに熱心に見詰めてくる位に似ているのだろう。もしかして俺の親族だったりして? だとしたら笑えない。


「それで、似ているからどうだと言うのですか? 貴方は俺に何を望んでいるのですか? 」


「…… 見定めます。私のこの想いが、一時のものかどうかを」


 ん? 見定める? どういう意味だ?


「アンデッドキングの居場所が知りたいのでしたね? 心配しなくとも今此方へ向かっている途中ですので、もう少ししたら会えますよ」


「はぁ!? アンデッドキングが? 此処に? 」


 マジかよ! いきなりすぎて心の準備が……


「やっぱり罠だったのね。私達を此処に呼んで、仕留めるつもり? そうはいかないわ! 」


「アンデッドキング、全てのアンデッドを統べる者。此処に来るのなら、神の名の下に浄化するだけで御座います」


『俺様としちゃ好都合だぜ。向こうから来てくれるんだからな』


『そうそう、探す手間が省けて良かったじゃない? 』


 何それ、何で皆そんな冷静なの? 慌ててるのは俺だけ?

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