表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
375/812

64

 

 突然の邂逅を果たしてしまったゲイリッヒがリビングアーマーを連れて去っていく姿を、俺達はただ黙って見送る事しか出来なかった。


 物腰の柔らかな所作とは逆に形容しがたい不気味さが漂い、誰も動けずにいた。あの縦に伸びた真っ赤な瞳孔に見られるだけで体中に悪寒が走り、動悸が激しくなって足が震える。

 これ迄出会ったヴァンパイアの中で断トツに危険だと本能が訴えてきている。そんな奴が何もせずに、これから王都を攻めようとしている俺達を見逃したのだ。いったい何を考えているのだろうか?


『昔から思考が読めない奴だったぜ。俺様の命令も全然聞かねぇしよ。だが、実力は間違いなくヴァンパイアの中で一番だ。どうして奴がアンデッドキングに選ばれなかったのか不思議でしょうがねぇ』


 テオドアが言うには、前から他のヴァンパイアとは一線を画す存在であったようだ。


 それに加えて、あのリビングアーマー。半分以上がミスリルで残りは鉄で出来ている。それに術式と鎧に守られ、浄化魔法が効かない。いや、効きづらいだけかも知れないが、まぁどちらにせよ楽に勝てる相手ではない。何か対策を講じない事には、被害が増すだけだ。


 確実に王都を守る為に出してくるだろう。弱点や攻略法を探る為、捕らえたローブの男に訊問を開始した。


「だからリビングアーマーには弱点なんかねぇんだよ。倒すとしたら、単純に鎧を斬るなり砕くなりして術式を壊すしかない。そうすれば、少なくとも動きは止まるだろうよ」


 このローブの男、実は王城に勤めていた魔術師だと判明した。ヴァンパイアの死霊魔術に魅せられ、虜になったのだと言う。そしてゆくゆくは己自身もヴァンパイアとなり、死霊魔術を極めるのが目標なのだとか。


「望めば誰でもヴァンパイアになれる訳じゃない。基本、身分の高い者からヴァンパイアになれる。王は勿論、公爵や侯爵もなりたい奴はすぐにヴァンパイアになれた。だけど俺みたいな何の身分もない魔術師は良いように利用されるだけだ。アンデッドは基本的に陽の光の下では活動出来ない。だから俺らみたいに人間のまま忠誠を誓う者達を使う。でもな、誰でもいいからヴァンパイアにさえ認めてもらえたなら、俺でもヴァンパイアにしてもらえるんだ」


 だから単独で、しかも貴重だと言うリビングアーマーを勝手に持ち出して、俺達を待ち構えていたのか。何時までもヴァンパイアになれなくて焦る気持ちが、判断力を鈍らせたんだな。じゃなければ、こんな馬鹿げた真似をしようとは思わない。リビングアーマーと言う存在を教えてくれたのだから、此方としては有り難いのだけど、この男にとっては最早救いようが無い。


 死霊魔術についても聞いたが、まだそこまで詳しくは知らないようで、大したことは分からなかった。


 禁忌とされ歴史から消えた魔術。それを作り出したのは最初のヴァンパイアであると伝えられている。主な術の内容は魂を抜き出したり、別の入れ物に定着させたりと、正に神の領域に手を出したものだった。


 だがこの死霊魔術、何かに似ている。以前に何処かでそれと同じようなものを見たような?


「カーミラ達の魔術と似ているわ。あれも魔力結晶に自分の魂を入れて保護しているわよね? あれも死霊魔術なのかしら? 」


 そうだった、カーミラ達が使う魔術も魂に関与するもの。もしかしたら死霊魔術を参考にしている可能性はあるな。


 結局、これといった対策も出来ないまま、俺はマナフォンでクレスと連絡を取り、リビングアーマーや死霊魔術、それとゲイリッヒと出会った事について報告した。


「そんな事が…… とにかく無事で良かった。ライル君が危惧しているように、確実に王都の守りにそのリビングアーマーを使うだろうね。目的は陽動だけど、僕達が城へ侵入した後は足止めに変わる。その時に出来るだけ犠牲者を増やさないようにしないと。此方でも何か対策を講じてみるよ」


 向こうにはリリィもいるし、何かしらリビングアーマーを無力化する方法が見つかるかも。取り合えずこのまま作戦は続行する。


「おい、俺はどうなるんだ? 素直に話したんだから命だけは助けてくれるんだろ? 」


 そう言うローブの男に指揮官は強く睨む。


「貴様は国民達の魂をその忌まわしき死霊魔術にて弄んだ。とても許されるものではない。本来ならばこの場で首を落とす所だ。だが我らに力を貸すというのなら、殿下に掛け合ってみても良い」


「力を貸すって、何をすれば良いんだ? 」


「あのゲイリッヒというヴァンパイアがしたように、リビングアーマーを支配権を上書きできないか? 」


 成る程、同じ死霊魔術師なら敵のリビングアーマーを奪い取れるという訳か。


「操れる数には限りはあるけど、出来ない事はない。そうすれば、本当に命までは奪わないんだな? 」


「その働きをもって、殿下の恩情に期待するしかない」


「仕方ない…… どのみち勝手な事をして失敗したから、戻ったとしても俺は奴らに殺される。ならあんたらに協力した方が生き残れる可能性があるな。分かった、協力してやるから約束は守ってくれよ」


 根本的な解決にはならないが、対策案は一つでも多い方がいい。人の魂を弄る死霊魔術は神官達にとってだいぶ印象が悪いようで、揃ってローブの男を冷めた目で睨んでいた。

 特にアグネーゼなんかゴキブリを見るかのような嫌悪感丸出しで隠そうともしない。目線だけで相手を凍らせるような冷たい目だ。何時も温厚なアグネーゼも、そんな顔が出来るんだね。


 優しそうな人ほど怒らせると怖いって聞くし、アグネーゼもきっと例外ではないのだろう。この先怒らせないよう注意しないとな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ