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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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 重厚な鎧のリビングアーマー十数体が一斉に接近してくる。


「神官は後ろへ! 兵士、冒険者は前に出て迎え討て!! 」


 指揮官はアグネーゼの放った浄化魔法がリビングアーマーに効かなかったのを見て、即座に神官達を後ろへと下げた。


 リビングアーマーが持つ両手剣が振り下ろされ、それを受ける兵士と冒険者達だが、リビングアーマーの力と剣の性能で押されている。


 確かあのローブの男は言っていた。リビングアーマーの鎧も剣も、ドワーフが作ったものだと。そうなると生半可な攻撃では奴等に傷一つ付ける事なんて出来ない。


 アンネの精霊魔法も、エレミアの魔法だって、尽く弾かれてしまう。硬すぎる…… こんなのとまともに相手しているのは今のところギルだけだ。


 あの新しく作った大剣で、リビングアーマーの鎧を斬り裂いていく。それでも奴等は止まる事なく剣を振るう。


「囚われている魂を解放しなければ、リビングアーマーは止まりません。しかし、私達の浄化魔法が通用しないとなると、一体どうすれば…… 」


 アグネーゼが意気消沈している。自慢の浄化魔法が効かなかったんだ。落ち込んでしまうのは仕方ないが、今は戦闘に集中してほしい。


「アグネーゼさん、取り合えず今は回復に専念しましょう。ここで死者を出してしまっては、計画に支障をきたします」


 どうすれば良い? ギルも武器も一つだけ、対してリビングアーマーは十体以上。しかも陽の光に関係なく動けるうえに疲労しないなんて…… 死を覚悟して攻めるか、一時撤退か。決めるのは指揮官だ。


「くっ…… どうする? 逃げても戦っても、少なからず死者は出る。それなら、攻めに賭けてみるか? 」


 どうやら指揮官は退かずに前進を選ぶようだ。あの塔にいたドワーフのヴァンパイアが言った通り、こんなのが戦争に投入されたら話題にならない筈がない。まったく余計な物を作ってくれたよ。


 まだ死亡者はいないがそれも時間の問題だ。恐らくは、鎧に刻まれている術式が死霊魔術なのだろう。その魔術で魂を鎧に定着させて動力源としているようだ。

 こうなったら俺の魔力支配でリビングアーマーに施されている魔術を強制的に解除するか? そうすれば魂を解放出来るかも知れない。


 俺が思案している間にも兵士や冒険者が負傷して後ろへ下がり、神官の回復魔法による治療を受けている。


 これでは予定時間に王都まで行くのは難しい。それにしてもローブ男の目的は何なんだ? その人数で俺達を止められるとでも? 確かにリビングアーマーは難敵だが、無謀と言わざるを得ない。


「やはりもう一人位連れてくれば良かったか? いや、そうすると手柄がな…… 」


 ローブの男は何やらぶつぶつと言ってる。さては手柄を独り占めしたくて独断で攻めてきたのか? セオリー通りなら操っている者を倒せば止まる筈。まぁ倒さなくても捕らえて術を解いて貰えば良い。それに聞きたい事もあるからね。


 そうと決まれば早速ギルとアンネに魔力念話で通達だ。リビングアーマーは兵士と冒険者に抑えて貰い、ギルとアンネに術者を捕らえてもらう。


『ふむ、確かに傀儡を相手にするよりも早そうだ』


『あいよ! そんじゃ、ちゃっちゃと捕まえますか! 』


 アンナは空から、ギルはリビングアーマーを無視してローブの男に一直線に向かう。


「ん? な、何だお前ら! さては俺を? 術者を直接狙うとは何て卑怯な奴等なんだ! 」


 ギルとアンネの狙いに気付いたローブの男は、憤慨した様子で怒鳴る。戦に卑怯も何もないよ。隠れておけば良いものを、態々自分から姿を現したそのうっかりを後悔した方が良いよ。


 死霊魔術の行使に集中していたのか、ローブの男自体の戦闘能力はからっきしで、呆気なく捕らえてられてしまう。


「ぐっ…… 俺とした事が、こんな奴等に」


「さぁ、あの鎧共を止めるか、それとも死か、好きな方を選べ」


「ほらほら、時間ないんだからさっさと選んじゃいなよ! 」


 大剣を突き付けて脅すギルと、それを煽るアンネ。端から見たらどっちが悪党か分からなくなる構図だな。


「くそ、ここまでか…… 」


 観念したのか、リビングアーマーの動きがピタリと止まる。良し、後はこいつから情報を聞き出せるだけ聞かないと。そう思っていると、空から魔力が伸びてきてリビングアーマー達と繋がるのが視え、突如再び動き出して後ろへと下がっていく。


 どういう事かとローブの男を見るが、彼も突然動き出したリビングアーマーに驚いているようだった。


「は? どういう事だ? っ!? ま、まさか…… リビングアーマーの指揮権が上書きされた? 」


 ローブの男が急いで空を見上げるのにつられて俺も顔を上げる。すると空高くに何者かが浮かんでいるのが確認できた。新手の死霊魔術師か?


 それはゆっくりと高度を下げて降りてくると同時に次第と姿がハッキリとしてきた。


 燕尾服に似た衣服を身に纏い、腰まで届く長い赤髪をオールバックにした肌の青白い男性。顔は優男って感じで如何にも女性受けが良さそうな出で立ちだ。


「ゲ、ゲイリッヒ様…… 」


 ローブの男は目に見える程ガタガタと体を震わせていた。うん? 今ゲイリッヒと言わなかったか? それって……


『間違いねぇ、あれはゲイリッヒだ。あの野郎、何時の間にか光耐性を会得してやがったのか』


 魔力収納内でテオドアが舌打ちをする。やっぱり最古参のヴァンパイアだと言うゲイリッヒ本人か。まさか王都に潜入する前に会えるとはね。


「やれやれ、勝手な事をして貰っては困ります。このリビングアーマーはとても貴重なのですよ? 」


「お、お許しを…… おれ―― 私は、アンデッドの未来を想って、つい出過ぎた真似を…… 」


 何だか助けに来たって雰囲気ではないな。


「まぁ良いでしょう。リビングアーマー達は此方で回収させて頂きます。本来なら貴重なリビングアーマーを無駄にした罪で殺す所ですが…… 貴方を捕らえている者がそれを許してくれそうもありませんね。なので自力でどうにかして下さい」


 そ、そんな! と狼狽えるローブ男を尻目に、ゲイリッヒは俺の方へ体を向け、背筋を伸ばして姿勢を正す。


「初めまして、私はゲイリッヒと申します。人ではあり得ない程の膨大な魔力を持つ者よ。是非とも貴方の名前を教えて頂けませんか? 」


 見惚れるような微笑みを携えて、優雅に一礼するゲイリッヒ。礼儀正しいその姿が逆に不気味だ。


「初めまして、俺はライルと言います」


「ライル…… 良い名前ですね。それに、とても懐かしい」


 懐かしい? いや、今はそれよりも聞きたい事がある。


「貴方は最古参のヴァンパイアだと伺っております。よろしければアンデッドキングの居場所を教えてはくれませんか? 」


 ばか正直に答えてくれるとは思わないが、此方の意図を伝える為に一応聞いてみた。


「成る程、アンデッドキングの居場所ですか…… お教えしても良いですが、私と貴方が語らうにはこの場所は余りにも無粋。私の館にご招待致しましょう。無事に辿り着けましたならば、その時はアンデッドキングの居場所を教えて差し上げますよ」


 つまりは王都にある自分の館に来れれば教えてやるって事だな。最初っからそのつもりだったし、その挑発を受けようじゃないか。


「分かりました。近いうちに必ず、お伺い致します」


「フフ、それは楽しみです。一番良いワインをご用意してお待ちしております。では、名残惜しいですがこの辺りで失礼致します」


 ゲイリッヒは再び優雅に一礼すると、リビングアーマー達を引き連れて飛び去っていった。


「ライル、良かったの? あのまま逃がしてしまって」


「エレミアは何も感じなかったのか? あれはヤバイ。何がと言われたらハッキリとは答えられないけど、今此処で戦えば悲惨な事になっていただろうね。そんな予感をさせる程危険な感じがしたんだ。今も冷や汗が止まらないよ」


 背中が汗でびっしょりだ。あれが最古参のヴァンパイアか…… アンデッドキングってのはあれ以上に危険な存在なんだよな。勝てるかどうか不安になってきたよ。

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