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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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 此方の進軍を妨害する鎧集団に、緊張は一気に高まる。数は十数体と少なめだが油断は出来ない。


 その時、剣を抜いた鎧達の列が二つに別れ、その中からローブを着た者が現れた。顔はフードを被っているので見えないが体型からして男性だと予想する。


 彼の魔力を視る限り、アンデッドではなく普通の人間だと分かる。レイスにも取り憑かれてる訳でもないのに、あの鎧達を操っているように見える彼は何者なのか。


「やぁやぁ、勇敢なる兵士、冒険者、神官の皆々様。オアシスから遠路遙々ご苦労な事で」


 ローブの男は両手を広げ、まるで馬鹿にしているかのような物言いをする。これには指揮官もカチンときたようだ。


「貴様はアンデッドではないな? その鎧を着ている者達は貴様の手下か? とにかく、大人しくそこを通して貰おうか」


「そう言われて、はい分かりましたと通す馬鹿はいませんよ。此処で手柄を立てれば俺も晴れてヴァンパイアの仲間入りだ」


 うん? ヴァンパイアの仲間入りだって? 成る程ね、ヴァンパイアになりたい人間って訳か。


「ならば押し通るのみ! 」


「無駄な足掻きは止した方が身の為ですよ? 見なさい! この雄々しき者達を! これこそ、ヴァンパイアの叡智である死霊魔術とドワーフの技術の結晶! 俺の魔力では精々十数体しか操れんが、お前達などそれで十分」


 死霊魔術? そう言えばヴァンパイアは特別な術を使うと聞いていたが、それが死霊魔術なのか? それにあの鎧が、塔にいたドワーフのヴァンパイアが言っていた最高傑作ってやつか?


「聞いた事がある。ヴァンパイアは魂を操り支配する術を持っていると…… 貴様もそれを使えると? 」


 指揮官の問いにローブの男は嬉しそうに声を弾ませる。


「そう! ヴァンパイアから直接教わったのだよ! 死霊魔術は本当に素晴らしい。この“リビングアーマー” の動力源は人間の魂なのさ。ドワーフが鍛えし鎧に死霊魔術で人間の魂を定着させて支配する。残った脱け殻はグールやスケルトンにすれば、一人の人間から二体の戦力が生まれる訳だ。どうだ、死霊魔術の偉大さが理解出来るだろう? 」


 ローブの男は自慢気に語る。自分に酔いしれているのか饒舌だな。でも聞いてもない事をペラペラと喋ってくれるので、有り難い存在ではある。


「人間の魂? それではその鎧には、国民や犠牲になった者達の魂が囚われていると言うのですか! 」


 アグネーゼが怒りで声を荒らげる。それもその筈、アグネーゼの友人はグールになっていたが、魂は神の御許へいっていると思うからこそ、折り合いをつけていた所がある。しかし、魂までもこの様に利用されていると知ったアグネーゼの怒りはどれ程のものだろう?


「えぇ、そうですよ、神官のお嬢さん。こいつらの中には今まで犠牲になった者達の魂が入っている。主に冒険者や神官達、それと我等に逆らった哀れな住民達もな」


「何故、人間である貴方がヴァンパイアに従っているのですか? それとそのリビングアーマー? は、後何体程用意されていますか? 」


 俺はアグネーゼを宥めつつ、ローブの男に話し掛ける。こいつは口が軽そうだし、ここで色々と聞き出しておこう。


「おや? 君もヴァンパイアに興味があるのかい? それとも死霊魔術かな? まぁどちらでも構わないか。俺はね、ヴァンパイアと出会い、死霊魔術に触れ、その虜になってしまったのだよ。俺のような人間は多い、今はまだ習いたてでそんなに使えないが、この国取りで手柄を立てればヴァンパイアにしてくれると約束してくれた。少年よ、そんな体でさぞかし辛い思いをしてきたのだろう? だが、ヴァンパイアになってしまえば、少年の体もきっと元に戻る。ヴァンパイアになって共に死霊魔術を極めようではないか! なに、心配する事はない。感じるぞ? その人並み外れた魔力量を。少年なら最高の死霊魔術師になれる! 」


 わぁ、全然嬉しくない。結局リビングアーマーが後何体いるかは教えてくれなかったけど、要は沢山活躍したらヴァンパイアにしてやるって言われたから、こうやってリビングアーマーを連れ出し単独で来たって訳だ。手柄を独り占めする為にね。


「すみませんが、アンデッドになるのはお断りです。人の魂を弄ぶような死霊魔術にも興味はありません」


「それは残念。ならば他の奴等と共に我々の戦力として活用してやろう。世界はヴァンパイア率いるアンデッドが支配するのだ! 」


「そんな事はさせません! 鎧に囚われし魂を解放致します! 」


 憤慨するアグネーゼが、一体のリビングアーマーに浄化魔法を放つ。虹色の光りがリビングアーマーを包み込んで消えていく。


 どうだ? 見た目鎧が突っ立っているだけだから浄化されたのか判別が難しいな。チラリと隣を様子を窺うと、驚愕して固まっているアグネーゼの姿が目に入った。


「そ、そんな…… 私の浄化魔法が…… 」


「残念でしたね。ドワーフ製の鎧を甘く見てもらっては困るよ。陽の光の下だって動けるし、そんな浄化魔法なんて効く訳ないだろ? 」


 フードを被っているので顔は見えないが、声が笑ってる。きっとあのフードの中では嫌らしい笑みを浮かべているに違いない。


「さて、それだけではありませんよ? このリビングアーマーは純粋な戦闘力も高い。今からお見せしよう…… お前ら! こいつらを一人残さず皆殺しにしろ!! 」


 ローブの男の号令により、そこにいる全てのリビングアーマーが動き出す。王都は目と鼻の先、此処で(つまず)く訳にはいかない。

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