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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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 う~ん! いい朝だ。カラッとした晴天で絶好の進軍日和だな。


「おはよう、調子はどうだ? 此方は粗方準備は出来ている。何時でも出立は可能だ」


「おはようございます。では、アンネの精霊魔法で砂漠を越えますので、皆さんを集めてくれませんか? 」


 指揮官に任命された兵士には、前以てアンネの精霊魔法を使う事に了承を貰っている。この人数で砂漠を渡るのは厳しい。バンプリザードの数も足りないし、予定よりも遅れてしまう可能性があった。精霊魔法で砂漠さえ越えてしまえば、後はマナフォンでクレス達と連絡を取り合い、お互いに速度を調整しながら進軍していく事になる。


 前にも言ったと思うが、直接王都まで転移はしない。行軍を相手にわざと見せ付け、王都の周りを兵士や騎士達で守りを固めて貰わなければ困る。それで手薄になった王都内を俺達とユリウス殿下達で忍び込む算段だからな。


「そんで? 送る場所は砂漠の入り口で良かったっけ? 」


「あぁ、そこから進軍を開始するから、よろしく頼むよ」


 アンネに魔力を供給し、精霊魔法による大きな空間の歪みが発生する。向こうに見える景色は、王都方面から見た砂漠の入り口とも言える境界だった。


 レストン達とバンプリザードに乗り、砂漠に入った事を思い出す。あれからまだ十数日しか経っていないというのに、酷く懐かしく思う。それほどに一日が長く感じる程であった。


 兵士、冒険者、神官がぞろぞろとアンネが作り出した空間の歪みを越えていく。初めて見る者もいるが、大半は二度目なので特にざわめく事もなく、馴れた様子だった。


 砂漠を越えた先で点呼を取り、本格的な行軍が始まる。行軍と言うと聞こえは良いが、訓練された兵士の他に冒険者、神官、そして商人である俺達がいるんだ。規則正しい行軍なんか出来る筈もなし。それでもせめてちゃんと列には並ぼう。



「ふっふふ~ん♪ すっすめ~♪ アンデッドなんか、ボッコボコ~♪ 」


 アンネが何か変な歌を口ずさみながら飛んでいる。歌詞が酷すぎるぞ。


「何だかご機嫌ですね、アンネ様」


「いやぁ、こうやって大勢の人間達と一緒に移動すんのは久しぶりでさ」


 話し掛けたエレミアに上機嫌で言葉を返すアンネ。前にもこのぐらいの人間達と一緒に移動した経験があるみたいだ。


「それって、もしかして五百年前? 」


「うん、そだよ~。あれは確か魔王の城に攻める時だっかな? もう最終戦って感じでみんなピリピリしてたよ。丁度今みたいにね」


 成る程、魔王の城にねぇ? そりゃ、普通は軍を率いて行くよな。物語やゲームでは勇者と仲間の数人で攻略していたが、実際無理な話しだ。


「そう言えば、まだカーミラ一派の姿は見てないわね。また何処かに隠れて覗いているのかしら? 」


 五百年前の勇者の話を聞いたエレミアが思い出したかのように言葉を漏らす。そうなんだよね、それらしき気配も魔力も感じなければ痕跡も見つからない。


 もしかしてアンデッドキングは諦めたとか? いやいや、まさかそんな、あり得な…… くはないのか? とにかく、どうせこの前みたいに、俺達にアンデッドキングの居場所を突き止めさせて、後から美味しい所を掻っ攫うつもりなんだろうが、そうは問屋が卸さない。こっちには対策があるんだ。リリィとアルクス先生の協力で完成した新しい結界魔術がね。


 これさえあれば、アンデッドキングもカーミラの一味も逃げるのは不可能だ。そう思うと自然に口許がニヤリと歪む。


「ライル、何考えてんのか分からんけども、悪どい顔になってるよ? 」


 隣を飛んでいたアンネに注意されてしまった。気を付けないと変人だと思われてしまう。


 カーミラ達の事も気掛かりだけど対策はしてある。オーガキングのような失態は演じない。



 それからはマナフォンで連絡を取り、お互いの進行状況を確認しながら進んでいった。アンデッドの襲撃を警戒して陽が沈んだら結界とキャンプを張り、陽が登る頃に出発する。バンプリザードは荷物の運搬として利用しているがこの人数だ。王都までに時間が掛かるのは仕方ない。


 そうして此処までは順調に進んでいた俺達だったが、前方に何やら陽の光に照らされて輝く何かがあった。


 なんだ? まだ昼だからアンデッドが待ち構えている筈はないんだけど…… そう思い良く目を凝らすと、それは二メートルはある重厚な全身鎧を着た者達が、俺達の行く手を遮っていた。


「我等はこの国を卑しきアンデッドから取り戻す為、王都へと進軍中である! 貴殿らが何者か知らぬが、そこを通して貰おう! 」


 指揮官が代表して要求を叫ぶが、鎧達は剣を抜く事で答えとした。これには他の者達も唖然とするばかり。すると一人の神官が声を上げた。


「し、信じられん。何故この時間に…… 指揮官、あの者達から穢れた気配を感じます。あれはアンデッドです! 」


「な、何だと!? あの鎧の中はアンデッドなのか? 鎧を着ているから陽の光の下でも動けると? 」


 確かに、神官の言ったようにあれはアンデッドだ。だが、指揮官の言うように鎧を着ている訳ではない。鎧自身がアンデッドなのだ。

 何を言ってるのだと思われるが、鎧の中には誰の魔力も視えない事から、鎧自身が独立して動いていると推測出来る。奴等の魔力はレイスと似た波動はしているが同じではない。それに見た事もない魔術が鎧に掛けられているようだ。何なんだあいつらは?


『テオドア、レイスってのは無機物にも取り憑く事が可能なのか? 』


『いや、生き物だけだ。それにあれはレイスが取り憑いてる訳じゃなさそうだぜ。あんなの俺様は知らねぇ。この五百年、一体何があったってんだ? 』


 テオドアも知らない未知な鎧のアンデッド。これから大詰めだと言うのに、まったく面倒この上ない。

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