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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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 あれから数日、アンデッドの襲撃は無かった。まだ戦力を集めている最中なのか、もう攻める気はないのか分からないけど、此方に取っては好都合だ。その間に港町へ冒険者や神官達を呼び込めるからな。


 そうそう、やっとリラグンドからの物資が届いたので、これで食糧に困ることはなくなる。あの戦いで負傷した者も教会で癒し、十分に休息も取った。


 そしていよいよ明日、王都へ向けて出立する。




 今集まっている戦力を港町とオアシスで分け、二方向から王都を攻める。港町の軍、オアシスの軍の指揮には元隊長であった兵士に任せ、ユリウス殿下率いるクレス、レイシア、リリィの四人は王城に、俺とエレミアとアグネーゼは、ゲイリッヒという古参のヴァンパイアからアンデッドキングの居場所を聞き出す為、貴族街へと侵入する算段だ。


「と、此処までで何か質問はあるか? …… よろしい。では次に、王都への進軍には私達も付いていく。妖精の精霊魔法で王都に忍び込めるからと言って、進軍する中に私がいなかったら不審に思われてしまう。それと、道中で妨害される可能性もあるので十分に用心してほしい」


 商工ギルドの一室を借りて、ユリウス殿下と指揮官に任命された兵士二人、それにクレスと俺も集められ、作戦の概要をおさらいしていた。


「殿下、集まった戦力は全て王都へ向かわせると言いますが、その間、用意した魔石と魔核だけで町を護っている結界は持つでしょうか? 念のため何名か町に残して置きませんか? 」


 指揮官に任命された兵士の一人がユリウス殿下に疑問を投げ掛ける。


「そちらの心配は十分に理解出来る。だが、此方には戦力を割くほどの余裕がないのだ。町の守りにはリリィが用意してくれた結界に頼る他ない。リラグンドから送られてきた大量の魔核と魔石で結界を維持して貰う。我々にはあらゆる意味で時間が無い」


 町の守りを削ってでも、王都に攻める戦力を減らしたくないと言うユリウス殿下。確かに、出し惜しみせずに全戦力を投下しなくては短期決戦は見込めない。この戦争は人間同士でなくアンデッドが相手なんだ。一分一秒でも長引けば、その分此方が不利になる。


「近隣の村からの避難状況はどうだ? 」


「はい、ほぼ完了しております」


 戦争の被害を最小限に抑える為に、近隣の村へと非難指示を出し、港町とオアシスの町で保護している。国を取り戻しても、住む人がいなければ意味が無いからね。


「私とクレス達は港町から進軍するが、ライル君達にはオアシスからの進軍に加わって貰いたい。もし不測の事態に陥ったとしても、マナフォンとやらで連絡が出来るのだろう? 砂漠越えは厳しいかも知れないが、頼めるか? 」


「分かりました。それと砂漠はアンネの精霊魔法で越えようと思いますので問題はありませんよ」


「そうか、それなら苛酷な砂漠も難なく越えられるな」


 もうあんなくそ暑い中を進んでられないよ。


「王都への進軍が完了次第、クレスとライル君がマナフォンで連絡して合流する。そしてアンネ君の精霊魔法で王都内に侵入し、王城と貴族街へと二手に別れる。その間、君らには冒険者や神官達を率いて王都の兵士達を抑えていてくれ」


 王都へ到着する時刻は陽が出ている頃に合わせ、アンデッドの逃げ場を無くす。ヴァンパイアになった王が外に目を向けてる間に城へと侵入したユリウス殿下が、現サンドレア王を討ち取る事が出来れば、此方の勝利が確定する。それでアンデッドが退くとは思えないが、表向きでは戦争の終了だ。


 後はアンデッドになった貴族や文官達を粛清し、あるべき国の形に戻す。それはユリウス殿下に頑張って貰って、俺達はアンデッドキングの討伐に専念する。ここで逃げられては、次にリラグンドが標的にされる恐れもあるので、何が何でもキッチリと仕留めなければ安心は出来ない。


 その後、細かな打ち合わせをして、この場を解散した。


「それじゃ、ライル君なら大丈夫だと思うけど、何があるか分からないからね。気を付けて」


「…… 王都で、また」


「ライル殿、ご武運を! 」


 クレス達に見送られ、俺はエレミアとアグネーゼを連れて転移門でオアシスの町へと向かった。明日の朝、この町から王都へ向けて出発する。


「ん? おぅ、お前らも此処から出るのか? 」


 陽が傾き始めた頃、どうやって暇を潰そうかと思った矢先に、聞き慣れた声が掛けられた。


「あれ? ガストールさん達もオアシスからなんですか? 奇遇ですね」


「あぁ、此処から出たいって俺達から志願したんだけどな」


 へぇ、何で態々砂漠を越える厳しいルートを選んだのかね?


「ガストールの兄貴は苦手な騎士の嬢ちゃんから離れたかったんすよ」


「余計な事は言うんじゃねぇよ! 」


 ルベルトを軽く叩いたガストールは、目を逸らして自分の頭をガリガリと掻く。困った時に出るガストールの癖だよな。


「もう! 暑いったらありゃしないよ! それに一面砂だけでつまんない」


 おや? あの妖精もガストールについてきたのか。


「だから面白いもんはねぇって言っただろ? つまんねぇなら帰っても良いぞ」


「はあ? 何よ、あたしが付いてきてあげてんのよ? もっと有り難がりなさいよね! 」


「そっすよ。ガストールの兄貴だって本心じゃうれしいくせに…… ほんと、素直じゃないっすね」


 あ、またルベルトがガストールに叩かれた。仲が宜しいことで。


 俺達は前に宛がわれた家で、明日に響かない程度に酒を飲み交わしながら過ごした。また暫くはこんな贅沢も出来なくなるからね。


 ガストール達と妖精の馴れ初めを聞きながら、酔いがいい具合に回った所で、明日の出立に備えて眠る事にした。

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