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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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56

 

 馬獣人ヴァンパイアの蹴りが冒険者達の鎧と骨を砕いていく。その俊敏な動きに翻弄されつつも、せめて一太刀はと冒険者は攻撃の手を緩めない。


「この者は私が抑える故、負傷者を後方の神官達へと連れていくのだ!! 」


 レイシアが馬獣人ヴァンパイアの前に出て、怪我で動けない冒険者を後ろへと下がらせる。


「またあんたか。俺さぁ、あんたみたいな奴、嫌いなんだよね。融通の利かないお堅い女って面倒なだけだよな」


「ほぉ? それは僥倖。貴様のような輩に好かれても嬉しくはない! 」


 馬獣人ヴァンパイアの血の蹄がレイシアを襲う。連続に放たれる蹴りをレイシアは全て受けきって見せた。チッ! と舌打ちをして一旦距離を置く馬獣人ヴァンパイアに、リリィの魔術が炸裂する。


 足下から爆発する魔術を軽やかなステップで避ける馬獣人ヴァンパイア。熱風で火傷はするがそれもすぐに治ってしまう。


 踏み込みだけで地面が抉れる。それだけで奴の脚力がどんなに強いかは想像に容易く、それを受け続けるレイシアもまた尋常ではない。


 これでは埒が明かないと思ったのか、狙いをリリィに変えた。先に攻撃手段を潰そうという訳か。だけどそんなのレイシアが許す筈がない。


 馬獣人ヴァンパイアはフェイントを使い、レイシアの横をすり抜けてリリィへと一直線に走る。リリィの雷魔術が何本の罅のような線を描き、馬獣人ヴァンパイアに伸びていく。


「無駄だ! そんなの当たるかよ!! 」


 あいつ、リリィの電撃を全部避けやがった。元から身体能力が高かった獣人がヴァンパイアになる事で更に強化されている。雷さえも避ける程に。


 スピードが乗った蹴りがリリィを襲う。やばい、あんなのを食らったらリリィでは耐えられない。


「させるか!! 」


 レイシアの叫びが聞こえたと同時に地面が迫り上がり、リリィの前に壁となって馬獣人ヴァンパイアに立ちはだかる。


 だが、咄嗟だった為に魔力が足りなく、土壁は充分な強度には至らなかったようで、あっさりと馬獣人ヴァンパイアの蹴りで砕かれてしまった。駄目だ、あれでは蹴りの勢いは殺せない。リリィの小さな体を、無慈悲な血の蹄で破壊されてしまうと誰もがそう思っただろう。


 しかし、リリィの前に半透明の壁が突如出現して馬獣人ヴァンパイアの蹴りを止める。レイシアの土魔法が一瞬だけ時間を稼いでくれたお陰で間に合った。

 そう、俺が魔力収納から防壁の術式が刻まれた宝石を、繋がっている魔力を経由してリリィの前に取り出し発動させたのだ。本当にギリギリで焦ったよ。


 パリンッ! と、まるでガラスが割れるような音と共に防壁が壊れ、それと連動して宝石も砕けた。どうやら防げる許容量を越えたみたいだ。でも、その甲斐あってリリィは無事だから良しとしよう。


「一回防げたから何だってんだ! 次はねぇぞ!! 」


「そうだ、次は無い。何故なら今から私に倒されるのだからな」


 リリィが攻撃を防いでいる間に、レイシアは全力疾走で馬獣人ヴァンパイアの後ろへと距離を縮めていた。


 驚き振り返ろうとする馬獣人ヴァンパイアに、レイシアは背中から剣を突き刺した。


「あ? そんなんじゃヴァンパイアになった俺に効くわけ―― っ!? な、なんだ? 刺された所が! てめぇ、俺に何をした!! 」


「大した事はしていない。私の剣に聖水を振り掛けただけだ」


 成る程、アンデッドに効果的な聖水を剣身にかける事で、ヴァンパイアにもそれなりにダメージを与えられる。


 レイシアは馬獣人ヴァンパイアから剣を引き抜き、守るようにリリィの前に移動して盾を構えた。


 まだ傷口から煙を吹き出す馬獣人ヴァンパイアの足下に現れた橙色に輝く魔術陣から、炎の鎖が四本伸びては体を拘束する。あれは、オークと戦った時に見せてくれたものだな。


「あ、熱い! くっ…… こんなところで、俺は、終わるのか? いや、終わらせてたまるか! 」


 レイシアの剣を通して体内入った聖水と、上空で煌めく浄化魔法とリリィの炎鎖で、馬獣人ヴァンパイアの魔力を消耗させていく。それでも地を這ってリリィとレイシアの元へと向かう。なんという執念であろうか。


「お、俺は…… 不死身の、ヴァンパイアなんだ…… こんな、ことで、死んで、たま…… 」


 生を捨てたヴァンパイアが、生にしがみつくその姿は、何とも皮肉めいたものを感じてしまう。やがて力尽きたのか、灰となり崩れていった。


『…… ライル、助けてくれてありがとう』


『むぅ、私としたことが何たる不覚。ライル殿、感謝致す』


『いや、レイシアさんの魔法が無ければ間に合っていたかどうか分かりませんでした』


 ガックリと落ち込むレイシアだったが、すぐに持ち直して姿勢を改める。


「良し、反省は後だ! リリィ、まだ残っているヴァンパイアを退治しに参ろうぞ! 」


「…… 了解。それなら人のヴァンパイアを狙うのを推奨する」


「うむ、残りの獣人のヴァンパイアはクレスとアンネ殿、それとギル殿がお相手しているのであったな」


 納得したレイシアがリリィを連れて、ヴァンパイアと戦っている冒険者の元へと走り出すが、リリィの足の遅さに気付き、途中から荷物のように脇に抱えた。


 さて、クレスとアンネの様子はどうだ?


 クイーンに頼んでハニービィを移動させ、魔力念話で映像を送って貰う。すると、そこには大柄で熊耳を生やしたヴァンパイアと戦うクレスとアンネの姿があった。

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