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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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 指揮を取っていたと思われるヴァンパイアを倒した事で、他のアンデッド達の動きに統率性が失われ、殲滅するのにそう時間は掛からなかった。


 倒したグールとスケルトンは一ヵ所に集め、神官達の浄化魔法で処理をする。アンデッドは他の魔物と違って魔核を壊さなければならない。残しておくと周りに悪影響があるのだとか。なので冒険者にとって旨みが一つもなく、あまり歓迎されない。それでもこうして集まってくれたのだから、感謝だな。



 こうして、港町を取り戻した初日の夜は一人の戦死者を出さずに乗り越えられた。それでも陽が昇るまでは安心出来ないので、兵士と神官を見張りに立て、冒険者達は町中に設置したマジックテントにて休んでいる。

 そんな彼等には悪いが、俺達は宿に部屋を取らせて貰っていた。当然、クレスやユリウス殿下も同じ宿である。



「予想していたよりも早く済んだな。これもクレス達が早々にヴァンパイアを倒してくれたお陰だ。ご苦労であった」


 宿のラウンジで集まった俺達に、ユリウス殿下が賛辞を送る。


「いえ、塔にいたヴァンパイアに比べれば、大した事は御座いませんでした」


「うむ、むしろ呆気なくて拍子抜けであった」


 クレスとレイシアが言うように、あの塔にいたのとはだいぶグレードが下がったような気がする。


「て言うか弱すぎ。勝つ気が無いんじゃないの? って思ったわね」


 そう言って肩を竦めるアンネを見て、エレミアが難しい顔をする。


「もしかして、アンネ様が言ったみたいに最初っから勝つ気が無かったのでは? 」


「ん? エレミア、それって…… ? 」


「此方の戦力を見極める為の、謂わば捨て駒だったと? 」


 まだ良く分からず尋ねようとしたら、先に察したユリウス殿下がエレミアに疑問を投げ掛けた。


「えぇ、その可能性は高いと思うわ」


 まぁ町を奪われたその日の夜に襲撃するなんて、普通に考えれば無理な話だよな。


「…… だとすると、次は戦力を十分に整えてから来るかも知れない」


 エレミアの言葉を静に聞いていたリリィが予想を立てる。もしそうなら、次が本番って事か。


「それなら、向こうの戦力が整うまでには多少の時間を要する筈。その間に此方も人を集めなければならないな」


「そうですね、殿下。それには妖精達に頑張って貰わないと」


「おうともさ! そこら辺は問題ないわよ! 」


 アンネがクレスに向かって元気良く親指をビシッと立てる。そんな頼もしい姿にユリウス殿下も幾分か表情が柔らかくなった。


 奴等は此方の戦力を調べたつもりでいるようだけど、妖精達の存在迄は知られていない筈だ。空間の精霊魔法があれば、他所からの冒険者と神官がインファネースに着き次第、すぐにこの港町に送られて来る。問題はどれだけ集まるかだけど、そればかりは祈るしかないな。


「では、当分の間アンデッドによる襲撃は無いと見て、諸君には来るべき決戦に向けて英気を養って貰いたい」


「お言葉ですが殿下、僕達も休んでばかりはいられません。戦闘以外でも何かお手伝い致します」


「そうか…… なら私の補助を頼む」


 戦闘が無い時、クレス達はユリウス殿下のサポートに回る訳か。なら俺はどうしようかな?


「ライル君達は気にせずに休んでくれてて良いよ」


 そう? クレスがそう言うんだったら、他に出来そうな事もないし、遠慮なく休ませて貰うけど。



 もうこの日は夜が明けるまで何もなかった。ユリウス殿下の予想通り、ここ数日は静かな夜が続き、その間に冒険者と神官は続々と集まってくる。


 物資の方は、リラグンド王がユリウス殿下からの正式な支援要請と認め、これを承諾した。必要な物は既にインファネースの商工ギルドの協力によって作成されてリストも提出してあるので大丈夫なのだが、インファネースに送られてくるまで時間が掛かってしまう。


 なので、冒険者や神官が増えて必要になった食料をインファネースで取れた魚介や塩、胡椒といった調味料の類をサラステア商会の協力で集めて貰っている。これで暫くは持つ筈だ。


 ユリウス殿下やクレス達には休んでも良いとは言われたが、どうにも落ち着かない。なので魔力収納で育てた野菜とインファネースから送られてきた魚介を使って炊き出しをする事にした。

 勿論、料理はエレミアとアグネーゼに任せて俺は配膳係り。大鍋で作る味噌で味付けされた煮込み料理や、海の幸と野菜をふんだんに使用した炒め物等、どれも冒険者や神官達に好評だった。

 でも料理だけが好評の理由じゃなさそうだけどね。エレミアとアグネーゼにお近づきになりたくて寄ってくる輩もチラホラと出てくるが、今のところ全て撃沈されている。戦う前から心に傷を負ってどうすんだよ。



 それから四日。着々と王都へ攻める準備が進んでいく中、アンデッド達に動きがあったと、王都に潜伏している者達から連絡があったらしい。

 王都から港町でマナフォン無しでどうやって連絡を? と疑問に思ったけど、どうやら訓練された鳥の足に手紙を括り付けて飛ばしているのだとか…… 伝書鳩のようなものか?


 で、その手紙によれば最初の夜とは比べほどにはならない程のアンデッドの大群が港町方面へと進行を開始したと書いてあった。


 そうか、今度は本格的に此方を潰しに来たな。


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