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俺達は、オーガを埋葬して里に帰る事にした――オーガの素材はどこも使い道がなく、魔核だけ取れればいいらしい。
「助かったぞ、ライル。お前のスキルもそうだが、あの音が凄まじい武器?も強力だった。 まさか、オーガの腕を切り落とすとはな」
「いえ、たまたま上手くいっただけです。 オーガの腕もギリギリでしたよ。 後で確認したら刃がボロボロで、危なかったです」
オーガの固い皮膚には鉄では心許ない、ミスリルのような強い金属か素材が必要だ。 どこかで、調達出来たらいいのだけれど……
「……やはり、鉄臭い。 オーガは特に匂う」
エドヒルは自分の体の匂いを嗅ぎ、顔を顰めていた。
「俺はそんなに感じませんが、そこまで酷いんですか?」
「獣人程ではないが、エルフも多少は鼻が利く。 苦手な臭いなら、なおさらだ」
人間もそうだよな、料理に嫌いな物が少しでも入っていると、すぐに気付く。 特に椎茸嫌いの人は匂いでわかるらしい。
「それだと、エレミア達に気付かれてしまいますね」
「ああ、そうだな。 オーガと戦った事は正直に話すが、偶然出会った事にしよう。 自分の為に無茶をさせたと、気に病んでほしくない」
確かに、エレミアならそう感じるかもしれない。 俺もその提案に賛成した。
無事、里へと着き家に帰った。 予想通り血の匂いで二人にばれてしまい、打ち合わせ通り偶然オーガに出会ってしまい、やむなく戦闘になってしまったと説明した。
エレミアには「なんで逃げないのよ!」と怒られてしまい、鉄臭いからと、風呂場に押し込まれてしまった。
夕食の時間になってもエレミアの機嫌は治らず、謝るのに必死だった。 そもそもなんで謝ってんだ? と思ったが口には出さない。 もっと酷い事になると予想するのは容易いからだ。
そんな気疲れする夕食を終え、自室にてオーガの魔核をギルディエンテに見てもらった。
『うむ、これなら大きさも十分だ。 申し分ない』
良かった…… これで駄目だと言われたら、どうしようかと思った。
『くそ~、わたしがいない時に見つかるなんて、オーガめ! 間の悪い奴! わたしがいたら、チョチョイと終らせてやれたのに』
オーガとの戦闘内容を聴き、アンネは憤慨していた。
『我も寝ていたので、気付かなんだ。 起こしてくれたなら良いものを』
『何してんだ! この馬鹿ドラゴン!! 何の為にライルの中に居ると思ってんだ!』
『傷を癒す為だが?』
また、始まったよ…… 長くなる前に、魔力結晶の作りかたを尋ねると、魔核に直接魔力を注ぎ込むらしい。 魔道具では同じ魔物や魔獣から取れた魔核を大量に必要としていたが、今回は俺のスキルを使い、魔核に貯まっている魔力の波長を合わせ注ぎ込む事が出来る。
早速、魔力の波長を魔核に合わせ注ぎ込む。 俺の魔力がどんどん魔核へと吸い込まれていく、魔核は赤く輝き続け、俺の魔力を半分ほど注いだ時、内側から粉々にくだけ散った。色を失った魔核の欠片が、魔力収納の中で飛び散る。 そして、魔核のあった場所には赤く透き通った綺麗なひし形の物体が出来ていた。
それは面となる箇所が八つあり所謂、八面結晶体と言われる物に似ている。 これが、魔力結晶…… これで、エレミアの眼が作れる。 これで、エレミアに光を……
『実に見事な結晶体だ。 これなら、最高の物が出来るぞ』
『この後はどうすれば良いのですか?』
『まあ、まて…… お前は魔力を使いすぎている、休息が必要だ。 明日から始めよう』
その言葉で、自分の体が異様に重く感じる事には気付いた。どうやら魔力結晶が出来たことに舞い上がっていたようだ。
ギルディエンテに従い、今日は休み明日から義眼作りを開始するため休むことにした。
『あっ、その前に一杯だけ、お願い! ライル~』
仕方ない…… アンネに果実酒を用意していると、
『ん? それは酒か?』
ギルディエンテが起き上がり、家の窓に顔を近付けてきた。
『何よ、これは、わたしのだからね!』
『そんな甘ったるい酒などいらぬわ。ライルよ、他の酒は無いのか?』
え~、あるにはあるんだが、これは俺が成年になったら、ゆっくり楽しもうと仕込んだものなんだよな。どうしよ、まだ熟成期間が足りないから美味しくないし、エールならあるけど……
『その巨体では、満足出来るような量はありませんよ』
あっという間に飲み干されていまいそうだ。
『それなら、小さくなれば良いのだろう?』
そう言うとギルディエンテの体が光に包まれ、どんどん小さくなっていき、人間と同じ大きさまで縮むと光が収まり中から、上下共に黒いスーツのような服を身に纏った男が現れた。 長身で細身の体、黒の長髪で赤いメッシュが入っている。顔は何処かのロックバンドのボーカルみたい、ビジュアル系というんだろうか? よく分からないけど、そんな感じだ。
『これなら、問題なかろう?』
『人にもなれるんですね……』
『人化というのだが、窮屈であまり好きではない。 だが、この姿でないと知識を得る事が出来ない場合もあるのでな、人間の街へ行くときはいつもこの姿だ』
そうだな、ドラゴンのままだったらパニックになるから、当然か。 俺は、人化したギルディエンテにエールの入った酒瓶を渡した。
『エールか…… まぁ良い、久しぶりの酒だ、今はこれで我慢しよう』
『確か、この里ではワインを作ってるようなので、譲って貰いましょうか?』
『ワインか、是非頼む』
酒瓶を持ったまま、ギルディエンテは家の中に入っていく。 そこにはテーブルの上で胡座をかき、果実酒を楽しんでいるアンネがいた。
『あ!? 何で入ってくんのよ!』
『お前は馬鹿か? 我に外で飲めというのか?』
『そうだよ! 外で飲めよ!!』
『ああ、お前は馬鹿だったな…… 失念していた』
何だかんだ言いながら、二人は同じテーブルで酒を呑んでいる。 仲が良いのか悪いのか…… 俺はベットに入り、眠ることにした。




