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港町にいる残りのレイスを浄化し、だいぶ落ち着いたところで、先ずは港町とオアシスの町に転移門を設置しなくてはならない。
町に張られている結界は転移魔術は防ぐが、転移門による転移は可能だ。リリィやアルクス先生によると、この二つは同じ転移でも仕組みが異なるのだとか。ついでに言うと、精霊魔法も魔術とは違うので問題なく使えるらしい。なので町中で転移門を設置しても大丈夫なのである。
俺が港町とオアシスに転移門を設置している間に、アグネーゼにはマナフォンでカルネラ司教に連絡して、サンドレアに神官を集めるよう要請して貰う。
事情を聞いたカルネラ司教は二つ返事でこれを了承し、第一陣として、今現在インファネースにいる神官達をこの港町へ送ると言ってくれた。
そして転移門を設置した事で、インファネースから調査の為に派遣された商工ギルドの職員であるレストンとルファスを、オアシスから港町へ呼び寄せ、ギルド内の通信魔道具で報告をして貰う。
それと同じくガストールにもインファネースの冒険者ギルドに連絡してアンデッド討伐の依頼を貼り出して貰うよう頼む。
商工ギルドはユリウス殿下の支援要請を正式なものと認め、王都への伝達を約束してくれた。公的な文書を用意する暇は無いが、緊急時という事でインファネースの商工ギルドが代わりに用意してくれるらしい。
早くとも物資が届くのは一週間は掛かる見込みだ。それまでアンデッド達が大人しく待ってくれる筈がない。攻めるにせよ守るにせよ、とにかく人を集めなくては……
しかしこれから船で移動したとしても、最低でも五日は掛かってしまう。インファネースと港町を繋ぐ転移門も作って設置でもするか? いや、国が発掘した古代の術式を解読し、特別に使用させて貰ってると説明している手前、いきなりそう何個もあっては不自然だよな。
「ふっふ~ん。ねえ、ライル。あたし達を忘れてない? まっかせんしゃい! 」
ムンッ! と胸を張るアンネ。あたし達だって? それってどういう意味だ? 言ってる意味を理解出来ずにポカンとしていると、痺れを切らしたアンネが説明する。
「だから~! インファネースにいる妖精達にちょちょいと精霊魔法で送って貰えば良いんじゃない? ってこと。まぁ、ライルには魔力の補給を頼むけどさ」
「え? それって、妖精達が協力してくれるのか? ほんとに? 」
「人を送るだけならね。デザートワインや蜂蜜酒でも報酬に渡すと言えば喜んで飛び付いてくるわよ」
それだけでも十分だよ。先ずはインファネースにいる冒険者と神官を此方に送って貰おう。
「んじゃ、一旦インファネースに戻って協力しても良いって子を集めてくるから、ちょっと待ってて」
そう言うと、アンネは精霊魔法でインファネースに向かって行った。あぁそうか、最初に妖精達を此処へ連れて来なければ、精霊魔法での移動は出来ないんだったな。何処まで集まるかは分からないけど、アンネ一人だけでも多くの人を運べるので大丈夫だろう。
アンネが他の妖精達を集めている間に、俺はエレミアとアグネーゼを連れて、ユリウス殿下に説明と許可を貰いに商工ギルドを訪ねた。
「インファネースにいる妖精達が? それは有り難い。人の運送だけでも力を貸してくれるのなら、一気に計画を進められる」
「凄いね、やはりライル君が来てくれて良かった」
「うむ、流石はライル殿であるな! 」
ユリウス殿下は予想よりも早く人が集まりそうなのを喜び、側にいたクレスとレイシアは煽ててくる。いや、これは俺の力ではなくアンネ達妖精の力だからね。
そして暫く待っていると、アンネが妖精達を引き連れて戻ってきた。その数はざっと目算で十人前後。
「やぁやぁ、お待たせ。こんだけいれば十分っしょ? 」
「あれ? 思ったよりも少ないな。もっと多く集まるような口振りだったよね? 」
「あ~…… それはね、ほら! 人を送るだけじゃない? 別に戦う訳じゃないしさ、あたしの方で厳選させて貰ったのよ! 」
へぇ? 厳選、ね。何か怪しいな。
「ほんとはもっと一杯いたんだけどね。女王様が多すぎるってんでこの人数に減らされちゃったのよ」
「そうそう、あんまり多いと女王様の飲む分が減っちゃうからだってさ」
「こら! ちょっと黙ってなさいよ! 」
アンネ…… 自分が飲むデザートワインや蜂蜜酒を減らされたくなかったんだな? はぁ、そんな事だろうと思ったよ。それでも、これだけいれば人だけではなく、物資の運搬も出来そうだ。
「あぁ? 何で此処にも妖精がこんなにいやがるんだ? 」
「珍しいっすよね? 」
商工ギルドでワイワイと騒がしくする妖精達を見たガストールとルベルトが不思議そうにしていると、一人の妖精が笑顔で近寄って行く。
「おっ? やっほー! あたしも来ちゃった♪ 」
「は? 何でお前が? インファネースで仕事があるとか言ってなかったか? 」
「そうなんだけどさ。女王様に頼まれちゃって、それにあんたらも此処に行くって聞いてたからね。何よ、あたしがいた方が助かるでしょ? 」
「いや、まぁ便利っちゃぁ便利だけどよ」
「おぉ! こりゃ助かるっすよ! 」
でしょー! っと元気よく声を上げる妖精とガストール達が仲良さげ会話している。聞けばよくインファネースでガストール達の仕事を手伝っていたらしい。ガストールが妖精とねぇ? 似合わねぇ~。
そんな思いが顔に出ていたのか、それに気付いたガストールがばつが悪い感じに目を逸らしては頭を掻く。けれど妖精は気にする事なく、ガストールのツルツルとした頭部を楽しそうにペチペチと叩いていたのだった。




