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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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47

 

 サンドレアを覆っていた魔力を阻害する結界を解き、俺達は港町へ向かい到着した。


 町は騒然としているが、思ったよりも悲惨な事にはなっていないようだ。住民達は広場へ集められ、レイスに取り憑かれている者は神官の浄化魔法を受けている。町を警備していた兵士達も、冒険者達に取り押さえられ、今のところ死人は出てないらしい。


 商工ギルドも真っ先に制圧し、ギルドマスターを含めた職員達は皆レイスから解放され、喜ぶ者や安心して泣く者もいた。


 人間以外の侵入を防ぐ結界も町に張られ、安全は確保されている。どうやらガストール達は上手くやってくれたようだ。この結界は前に開発した転移魔術でも中に入る事は不可能なもの。効果を維持するのに必要な魔力は今ある魔石や魔核で暫くは持つが長くはない。その間に王都を攻め、ユリウス殿下がヴァンパイアとなった王から王座を奪う。


 そのユリウス殿下だが、近くの神官から聞いたところによると、この町の領主の館に冒険者と神官を連れて向かったらしい。何でも、ここの領主も王と同じくヴァンパイアになったという。

 ヴァンパイアの強さとしぶとさは身をもって体験したので、病み上がりのユリウス殿下が心配だ。


 俺達も領主の館に行くべきかと思案していたら、ユリウス殿下が神官や冒険者を引き連れて歩いてきた。うん? 殿下の側にいるのは、確かセドリック司祭だったか? 殿下と共に館へ赴いていたのか。魔法の腕に覚えがあると言っていたし、何とも好戦的な司祭様だな。


「これはライル様。ここにいるという事は、結界の解除に成功したのですね。流石で御座います」


 いち早く此方に気付いたセドリック司祭が、足早に近付き話し掛けてくる。


「いえ、クレスさん達がいなかったら危なかったです。ヴァンパイアというのは、思っていたよりもずっと強敵でしたよ」


「然り。奴等は身体能力が恐ろしく高く、加えてすぐに再生してしまう。そのうえ特殊なスキルや魔術を使うのです。これ程厄介な相手はおりません。しかし、ご無事で安心致しました」


「そちらも無事に港町を奪還出来たみたいですね。領主をしていたヴァンパイアは倒したのですか? 」


「え? え、えぇ。ユリウス殿下が、お倒しになられましたが…… 」


 うん? 何だか歯切れが悪いな。館で何かあったのか? 不思議に思い、チラリとユリウス殿下に目を向けると、それに気付いた殿下は寂しそうに微笑んだ。


「結界の解除、ご苦労であった。此方も後は潜伏しているレイスを炙り出せば終わりだ。町の安全を確保したら予定通り事を運ぶので、それまで休んでいてくれて構わない」


 町を奪還出来たと言うのに、あまり嬉しそうには見えない。でも何か深くは聞けない雰囲気だから、ここは敢えてスルーした方が良さそう。


「いえ、僕達も手伝いますよ。殿下こそお顔が優れないご様子、少し休むのがよろしいのでは? 」


「ありがとうクレス、助かるよ。だけど、まだ混乱している住民達には私から説明した方が納得して貰えるだろう。休むのはその後だ」


 クレスとレイシアがユリウス殿下と共に町の人達への説明をしに行き、セドリック司祭と神官達は町にレイスが残っていないか調べに向かった。後に残されるのは俺とエレミアとアグネーゼだけ。


「町は彼等に任せても大丈夫そうですし、お言葉通りに致しますか? 」


「うん、そうだね。邪魔にならないよう、何処かで大人しくしてようか」


 アグネーゼの提案を呑み、クレス達と別れた俺達はもう一度商工ギルドへと向かう。町の人達が広場に集合していて宿には誰もいないので勝手に入る訳にもいかず、商工ギルドのロビーで少し休ませて貰おうと考えた。


「ん? よぉ、お前らが此処にいるって事は結界は無くなったんだな? 」


「ライルの旦那に、エレミアの姐御、それにアグネーゼさんもお疲れ様っす! 」


「…… 」


 商工ギルドのロビーには、一仕事終えた感じでガストール、ルベルト、グリムの三人が椅子に腰掛け休憩していた。グリムは俺達へ片手を上げているが、もしかして挨拶なのか? 変わらず無口で分かりづらいよ。


「ガストールさん達もお疲れ様です。結界が張られているのが視えましたので、任務は無事成功したみたいですね」


 当たり前だと笑うガストール。それからは彼等が如何に活躍したかを聞かされたが、ここでは割愛しておこう。だって分かりやすく誇張されてたからね。特にルベルト、そんなバレバレな嘘には騙されないぞ。


「え~? 嘘じゃないっすよ! ほんとに大活躍だったんすよ。ね? 兄貴達からも言ってやって下さいっす! 」


「あー…… そうだな、まぁ普通だったな」


「…… フッ 」


 ルベルトに水を向けられたガストールは困ったように頭を掻き、グリムに至っては鼻で笑われる始末。これにはルベルトも両膝をついて項垂れる。


「酷いっすよ。オレっち、頑張ったじゃないっすかぁ」


 頑張ったのは信じるけど、大活躍ってのはねぇ? これも日頃の行いのせいなのかな。


 そんなこんなでガストール達とお互いの健闘を称え合いつつ暫く休んでいると、外からユリウス殿下の演説が聞こえてくる。町の人達に今の国の状況を説明し、これからは此処を補給拠点としてアンデッドから国を取り戻す為に戦うと宣言してから理解と協力を求めているようだった。


 国がアンデッドによって支配されているなんて普通は信じられないかも知れないが、流石に目の前でレイスを浄化している場面を見せられたんじゃ信じる他ない。それに王太子であるユリウス殿下の姿を知らない者は少ないだろうし、実際にアンデッドから救ってくれた訳なので、拒む者はいないだろう。


 後は、出来るだけ速やかに人と物資を揃えて王都へと攻める。いや、その前に夜を越せるよう町の守りを固めなくてはならないな。

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