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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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港町奪還 中編

 

 空間の歪みを越えると、港町の門前が目の前には広がる。あれほどの距離をたったの数歩までに縮めてしまうとは、妖精の精霊魔法というのは恐ろしく便利である。


 突如現れた私達に、門兵は唖然とするだけで動く気配が感じられない。事前の調査で港町にいる兵士は全てレイスによって体と意識が乗っ取られていると判明しているので、先ずは門兵達を取り押さえ、神官の浄化魔法で中にいるレイスを消滅させる。意識が戻るまでには暫く時間が掛かる為、門兵は近くの家で保護をし、速やかに作戦の実行に移るとしよう。


「では作戦通りに、冒険者の諸君は神官達を守りつつ、町の住民を広場へと集めよ! 住民達には決して危害を加えてはならぬ! ガストール率いる冒険者諸君も、結界の魔道具の設置を速やかに頼んだぞ! ミスリル級の冒険者と残りの神官達は私と共に来てくれ! 」


 町へと侵入した私は、散開して家の中から町の隅まで探索し、町の住人全員を広場へと集めるよう指示を出す。一ヶ所に集めた住民達を纏めて浄化する算段である。浄化魔法はアンデッドだけに効き、生者には一切の害を与えない。故に何の憂いもなく浄化魔法を住民や兵士に掛けられるのだ。


 私はミスリル級冒険者と神官達を連れ、商工ギルドへと向かった。侵攻に気付いたレイス達が通信魔道具を壊す恐れがあるので、真っ先に確保しなければならないからだ。


 だが気持ちばかりが急いてしまって、体がついてこれずに足を取られてよろけてしまう。筋力はある程度戻したけど、やはり前のようにはいかないか。以前ならこれくらいで息など上がりはしなかったのにな。いや、足が戻っただけでも御の字だ。贅沢は言うまい。


「殿下、あまりご無理はなさらぬよう。殿下の身にもしもの事があれば、この国はどうなります? 本当なら、殿下には安全な場所で待機していて欲しかったのですが」


 王都で司祭をしていたセドリックが困り顔でそんな事を言ってくる。彼の言葉は至極真っ当ではあるが、どうしても私自信もこの作戦に加わる必要があった。端から見れば只の我が儘かも知れないが、私にとってどうしても譲れないものがあるのだ。


「その話はもう済んだ筈だ。今は余計な事は考えずに、作戦の遂行だけに集中してくれ」


 やれやれと呆れた様子で頭を振るセドリック司祭を横目に、真っ直ぐ商工ギルドへとひた走る。途中、町の兵士が剣を抜いて立ちはだかってくるが、冒険者と神官によって難なく取り押さえレイスから解放させていった。


 やがて商工ギルドの建物が見え、そのままの勢いで中へと突入する。何事かと目を丸くしている職員と一般客には悪いが、今は詳しく説明している暇などない。


「私はユリウス・マティエスコ・サンドレア、元王太子である! 出来るなら危害は加えたくない。大人しく我々の指示に従って貰いたい! 」


 私の名を聞き、大半の者達は安堵の表情を浮かべるが、ごく少数の者が逃げようしたので取り押さえ、神官達の浄化魔法を掛ける。断末魔を上げて消えていくレイスを見た一般客達は何が起こったのか理解出来ないかのように呆けていた。


 その後、職員達をレイスから解放し、無事だったギルドマスターもレイスの呪縛から逃れられ自由の身となる。


 商工ギルドを制圧した後、数人の冒険者と神官をギルドに残して私は広場へと足を運ぶ。そこに集められ不安を露にしている住民達の前に名乗り出て今の国とこの町の現状を説明した。


 ショックを受ける者、まだ半信半疑な者、納得する者と反応は人それぞれであったが、概ね理解してくれたようだ。ここで住民達の暴動が起きるのは避けたいところ。早速次なる目的地へと向かう。この港町の西側にある大きな敷地に、領主であるコンラッド伯爵の館がある。これも事前の調査で分かっている事なのだが、コンラッド伯爵も父上と同じくヴァンパイアとなっているのだ。


 今日も雲一つ無い快晴、陽の光の下では動けないヴァンパイアであるコンラッド伯爵の逃げ場は何処にもない。彼を倒して港町を完全にアンデッドから取り戻すのだ。


 コンラッド伯爵の館には、レイスに乗っ取られているであろう兵士達が町の異変に気付き、守りを固めていた。

 私が連れてきた者達では少しばかり戦力が心許ない。さて、どうするか…… ここは無理に攻めずに牽制しつつ時間を稼いでいる内に、徐々に此方の味方が増えていくのを待つ。レイスから解放された兵士達が目を覚まし、続々と私の元へ集まり始めた。


 暫くして館を守る兵士達よりも此方の方が若干上回ったところで、総攻撃の合図を送る。


「ここを落とせば、港町はアンデッドから解放されるのだ! 皆の者、いざ突撃せよ!! 」


 領主側の兵士と、こちら側の冒険者、神官、解放された兵士と、そう少なくはない戦力が互いにぶつかり合う。そこを潜り抜け館に侵入したのは、私とミスリル級冒険者が数人とセドリック司祭を含めた神官達である。


 館の窓には全てカーテンが閉められ、薄暗くなっていた。ここで私達は二班に別れコンラッド伯爵の捜索を開始する。私とセドリック司祭を含めた神官三人とミスリル級冒険者の二人は地下を、残りは上の階に向かわせた。


 ヴァンパイアなら、陽が当たる危険性がある上の階よりも、地下に籠っている可能性の方が高い。なので私は地下の捜索を選んだ。


 此方の数が少なく思うかも知れないが、地下と言う狭い空間ではこの人数の方が動きやすい。それに領主の館は広いのだから上の階に多くの人を割くのは当然の事。


 壁に等間隔で付けられた燭台に設置されている魔道具によって仄かに照らす廊下を歩く。道中にある部屋を一つずつ調べながら慎重に進んで行くと、今まで調べた中では一番に広い部屋にその者はいた。優雅に佇んでいる姿は、まるで私達が来るのを予め分かっていたのではないかと思う程である。


 私は腰に差している剣を抜き、コンラッド伯爵へと歩み寄った。

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