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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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 ディネルスの死を見届けた俺は、クレス達に目を向けると、ドワーフのヴァンパイアであるゴルドバと激しい戦闘を繰り広げていた。


 ヴァンパイアのスキル“血液操作” により、そこいらの金属よりも頑丈そうな槌へと変形した血を振り回し、クレス達を追い詰める。ドワーフの欠点である持久力の無さをヴァンパイアになったことで克服されているみたいで、かなり手強い相手となっていた。


 ゴルドバの重い一撃をレイシアは盾で防いでいるが、その顔に余裕は一切感じられない。防御に定評のあるレイシアでさえも、ヴァンパイアになって力が底上げされたドワーフの攻撃を受けるのは流石に厳しいようだ。

 だけど、ここまで防ぎきれるのはレイシアだからこそ。これが並の冒険者だったのなら、最初の一撃で壁まで吹っ飛ばされているか、押し潰されていただろう。レイシアの強靭な肉体と精神力でもって、ここまで持ち堪えられている。

 それも含めて、装備の良さもゴルドバの攻撃を耐えられる要因の一つだと思う。ミスリルとアダマンタイトを材料に、ドワーフの鍛冶師ドルムが造りし盾と鎧。その性能は推して図るべし。


 これには、同じドワーフであったゴルドバも感嘆を声を上げる。


「ほぅ、こりゃ見事なもんじゃわい。ワシの槌をまともに受けて凹みが一つも出んとは、さぞや名のあるドワーフの逸品なんじゃろうな」


「これはガイゼンアルブにてドルム殿に造って頂いたもの。私の知る限り、最高の鍛冶師である! 」


 自分の盾と鎧を褒められて嬉しいのか、レイシアは得意気に自慢する。ゴルドバも何を思ったのか、嬉しそうに口角を上げた。


「成る程のぅ。あやつの作品じゃったか…… また腕を上げたようじゃの」


 うん? 何やらドルムを知っているご様子。まぁ同じドワーフだったのなら知っていてもおかしくはないけど、あの口振りからすると知り合い以上の間柄だったのでは?


「じゃがな、ワシも負けてはおらん。近いうちワシの作品に、大陸中の者達が注目するじゃろうて。そしてワシの名が世界に広がるじゃろう! そうなれば、ワシを追放した愚かな王も、己の間違いを認め、後悔しながら死んで行くのじゃ! 」


 どうやらゴルドバはドワーフの国から追放されたみたいだ。それで自分を追い出した王に復讐しようとか考えているのだろう。今も楽しそうにニヤける顔は、俺からは狂人のようにも見えた。最早、正気が残ってるいるかどうかも怪しい。


「一体何の話をしている? 貴方は何をしようとしてるんだ? 」


「いずれ分かる。お主らがワシを倒し、ワシ等からこの国を奪うつもりなら、ワシの最高傑作をその目で見ることになるじゃろうな。その時こそ、全ての者達はワシの名を知り、歴史に刻むことじゃろう! 後世にワシの名が残るのじゃよ!! 」


 クレスの問にも明確な答えは言わず、ただ不敵に笑うだけのゴルドバに、うすら寒いものを背筋に感じた。


「へん! 何言ってんのか分かんないけど、あんたは此処でやられるのよ。覚悟しろい!! 」


「おぉ、そうじゃ。貴様には髭の恨みがあったんじゃったな」


 アンネが繰り出す光の矢を避けながら、ゴルドバは血の槌の先端をアンネに標準を合わすかのように突き出した。すると、いつの間にか槌の先に出来ていた穴から血の弾丸が射出される。

 弾丸はアンネに向かって飛んでいくが、精霊魔法で空間を歪曲する事によって弾道を逸らす。不自然に血の弾丸がアンネを避け後ろに流れる様を見たゴルドバが目をつり上げた。


「何じゃそれは! 卑怯にも程があるぞ!! 」


「にゃにお~、あたしの精霊魔法を卑怯扱いすんじゃねぇ! 」


 ゴルドバがアンネに気を取られてる所に、光を纏ったクレスが光の速さで接近して剣を振るう。如何にヴァンパイアが俊敏であろうとも光速には対応できず、左肩から袈裟斬りにされる。しかし傷口からは血の一滴も出やしない。


 ヴァンパイアには心臓が存在しておらず、代わりに魔核があるのだと言う。魔核は魔力を貯め、血液のように体中に行き渡らせる機能はあるが、心臓の役目は果たさない。なので血液の循環は止まり、体は冷たく青白くなる。つまりは死人と同じ状態になるのだ。これがヴァンパイアはアンデッドと分類される所以である。血を吸うのは血液操作で操る血を補充する意味合いが大きく、体内の血液が不足してくると空腹感にも似たものを覚えるのだとか。


「はよ退けい、眩しいんじゃ! 」


 クレスに斬られても平然としているゴルドバは、鬱陶しいと言うように槌でクレスを横から殴り付ける。


「うっ!? 」


 ゴルドバの槌がクレスの鎧を打ち鈍い音を奏で、一回、二回と床に体をバウンドさせながらクレスは飛ばされる。何て怪力だ、ドワーフの元の力から更にヴァンパイアの力を上乗せした感じなのか?


 まだ床に倒れ伏して立ち上がれないクレスに、ゴルドバは追撃の手を緩めない。その俊敏な動きで距離を詰めてきては、両腕で槌の柄を持ち降り下ろす。この時にはもう、クレスが付けた体の傷は綺麗に無くなっていた。


「ぬおぉぉぉ! させるものかぁぁ!! 」


 クレスの危機にレイシアが降り下ろす槌の先へと割り込み盾で防ぐが、その威力は予想以上に凄まじく、この戦いで初めてレイシアは膝を着いた。


 ドワーフとヴァンパイア、これ程組み合わせの良いものはないだろう。ヴァンパイア数人にここまで苦戦させられるなんて、予想だにしなかった。後どれ程のヴァンパイアが控えているか分からないけど、一筋縄ではいきそうもないな。

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