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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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 下っ端らしきヴァンパイアを倒した俺達は、エルフのヴァンパイアであるディネルスと戦っているエレミアとギルの加勢に向かった。

 レイシアには、ドワーフのヴァンパイアであるゴルドバの相手をしているクレスとアンネの方へ向かって貰っている。


 右手首から伸びる血の鞭を自由自在に操り、エレミアとギルを攻撃するディネルス。ギルが大剣を振るい、迫り来る血の鞭を弾くが斬れることはない。柔らかそうに見えるけど、ミスリルでも切れないとは随分と頑丈なようだ。あんなのに叩かれたら痛いじゃ済まされないだろうね。ドMも真っ青な鞭さばきである。


「フフフ、思ったより頑張るじゃない? でも、これならどうかしら? 」


 妖しく笑うディネルスは、左手首にも爪で傷を付け血の鞭をもう一本増やした。二本の赤く頑丈な鞭がギルとエレミアを襲う。


 ギルは難なく大剣で防いでいるが、エレミアは苦戦しているようだった。それでも何とか蛇腹剣の剣身を伸ばして反撃をするが、ディネルスに読まれていたかのように躱されてしまう。


 無理に反撃に移った為、エレミアに僅だか隙ができてしまい、ディネルスの操る血の鞭によって、足を絡め取られる。

 そのままエレミアは持ち上げられると、床に壁にと叩きつけられてしまった。


「がはっ! 」


 その激しい衝撃で、エレミアが口から血を吐き出すのを見たディネルスは愉悦の笑みを浮かべる。


 そこへ横から接近したギルが大剣を降り下ろす。ギルの攻撃を防ごうと鞭を操るディネルスだったが、思っていたより重い一撃だったようで、完全には防ぎきれずに右手首を切断された。


「きいぃぃぃぃ!! この、怪物め! よくも私の手を…… ! 」


「フン、怪物とは失礼な。我は歴とした龍だ」


 ディネルスの意識がギルに向かっているうちに、俺は魔力でエレミアに治療を施す。肋骨に罅と内臓が少し傷付いているだけだったので、そう時間を掛けずに完治できた。


『ありがとう、ライル』


『いや、深い傷じゃなくて良かったよ』


 傷が治ったエレミアは、すぐにギルと一緒にディネルスへの攻撃に加わる。二人の剣戟に右手首を落とされたディネルスは、一本になった血の鞭で防戦に徹していた。


 そこにアグネーゼが浄化魔法で小さな虹色の光球を四つ造り出しては、ディネルスへと放つ。


「もう! 鬱陶しいわね!! 」


 浄化魔法は当たりこそしなかったが、ディネルスの苛立ちは最高潮に達していた。先程までの妖艶な出で立ちは見る影もなく、不機嫌に歪む顔を剥き出しにして、己を取り繕う余裕もないように見受けられる。


「どんな事情があったかは知らない。けど、神からの使命を投げ出し、エルフの名を汚す貴女を許す訳にはいかないの」


「小娘が! あんたはまだ若いからそんな事が言えるのよ。いくらエルフだろうと死は必ずやってくる。私のこの美貌を永遠のものとするの、年老いて醜くなる私は見たくないのよ!! 」


 それがヴァンパイアになった理由なのか? 長寿を誇るエルフでも、永遠を求めるのか。


「情けない。死は終わりではないのを誰よりも私達は知っているでしょ? なのに、何故死を恐れる必要があるの? 」


「違うわ、来世があると言っても、記憶も何も残らなければそれは私ではないのよ! 私は今の自分を失いたくない。そんなに死ぬのが怖くないのなら、あんたが死ね! 私の邪魔をするんじゃないわよ!! 」


 基本、転生というのは記憶までは受け継ぐ事はない。神の身許に召された者達は魂をリセットされ、新たな生を授かる。ディネルスはそれがどうしようもなく嫌だったのだろう。自分の全てを無くしてしまうのが恐ろしいと喚くディネルスに、エレミアは冷静に、淡々と言い放つ。


「悪いけど、私にはエルフとしての使命がある。守りたい人がいる。ずっと一緒にいて欲しいと言ってくれたから…… だけら私は、死んであげられないの」


 揺るぎない信念に漲るエレミアに、ディネルスは憎らしげに下唇を噛み締める。


「なら、私が殺してやる! 誰にも私を奪わせるものか! 私は、今を永遠に保つのよぉぉぉ!! 」


 ディネルスが叫び声を上げると、切断された右手首から夥しい程の血が吹き出し、エレミアの持つ蛇腹剣と似た形状に変化した。


「貴女の武器を真似させてもらったわ。これでその綺麗な顔も体も醜く斬り刻んであげる! 」


 血で出来た蛇腹剣がエレミア目掛けて伸びてくる。どうにか致命傷を避けてはいるが、少しずつ切り傷が増えていく様子に焦りを覚える。


「大丈夫です、ライル様。ギルさんと私がおります。決してエレミアさんを殺させたりは致しません」


 心配している俺にアグネーゼが力強く言いきった。そうだよな、数では圧倒的に此方が優位なんだ。それでもやっぱり、エレミアが傷付く姿は見たくないし、傷付ける奴は許せない!


 俺は感情に任せて魔動式丸ノコを操り、エレミアを襲っている血で形成された蛇腹剣擬きに向かって放った。ギルの爪を加工して作った刃が高速に回転しながら血の蛇腹剣擬きに食い込み、意図も容易く切り裂いていく。


「なっ!? そんな、私の血が! 」


 余程の自信があったのだろう。だけど、厄災龍とまで呼ばれたギルの爪を舐めてはいけない。アダマンタイトに匹敵する切れ味だからな。


 驚愕するディネルスに、エレミアは風魔法で小型な竜巻を作る。その小さくも激しい風力につい目を細めてたじろいでいる所に、ギルの大剣がエレミアの生み出した竜巻ごとディネルスを頭から一刀両断にした。


 声にならない悲鳴を上げるディネルス。エルフや神を裏切り、生を捨ててまで今にしがみついた結果がこれだ。哀れを通り越して同情すら覚えてしまう。


 そしてダメ押しにアグネーゼの浄化魔法による追撃で、ディネルスの肉体は灰となり、ぼろぼろと床に崩れていった。


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