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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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「くそ! 何だこの女! 堅すぎるだろ!! 」


 下っ端のヴァンパイアの片手剣がレイシアの盾と鎧に弾かれ、思わず叫ぶ。レイシアはスピードこそないが、その守りの堅さは此処にいる人間の中では一番だ。下っ端ヴァンパイアの攻撃では、少しのよろめきもしない。腰を落とし、ガッチリと盾を構えるその姿は、まるで大地に太い根を張る一本の巨木を連想させる。


 じっとヴァンパイアの攻撃に耐えていたレイシアだったが、アグネーゼの浄化魔法による支援で生じたチャンスを活かし、ヴァンパイアの肩に一太刀を浴びせる。


「ぐぅ…… っざけんじゃねぇ! こんな所で、死ねるかよ!! 」


 怒りに任せ叫ぶヴァンパイアの肩の傷口から血が流れ、弾丸のような形に変わる。ヴァンパイアだけが持つという“血液操作” のスキルによるものだろう。


 ヴァンパイアが標的に選んだのはアグネーゼだった。アンデッドに特化した浄化魔法を使える神官を真っ先に始末しに掛かってくる。血の弾丸が五発、俺の横にいるアグネーゼに向かって発射された。高速回転する弾が直線を描き真っ直ぐに迫ってくるが、魔力収納から取り出した魔動式丸ノコの側面で防ぎ、アグネーゼを守る。


「ありがとうございます。ライル様」


「いえ、怪我がなくて良かった」


 俺が血の弾丸を防いだのを見て、下っ端ヴァンパイアが声を荒らげた。


「くそがっ! 死に損ないのガキめ! 余計な真似をするんじゃねぇ!! 」


 死に損ないとは俺の事か? こんな見た目だけど、いたって健康そのものなんですけど?


「ライル殿の侮辱は許さん! 」


 ヴァンパイアが俺に気を取られている内に、レイシアが走り寄り剣を横に薙ぎ払う。傷は浅いが、ヴァンパイアの首に赤い横線が刻まれた。


「いてぇな、この野郎が!! 」


「私は女で野郎ではない! 」


 首から流れ出る血を、また弾丸の形にして撃ち込んでくるヴァンパイアに、レイシアは盾で防ぎながら果敢に攻めていく。時折俺とアグネーゼも狙ってくるが、そこは俺が操る魔動式丸ノコで防いでいるので今のところ掠り傷一つ付いていない。


 真っ向から攻撃してもレイシアの守りを崩せないと踏んだヴァンパイアは、自身の俊敏さを生かしてあらゆる角度から攻撃を加える事でレイシアを翻弄していた。その様子を見たアグネーゼが悔しそうに呟く。


「ちょこまかと動いていて、狙いが定まりません。どうにかあの動きを止めてくれたのなら、私の浄化魔法が当たりますのに…… 」


「動きを止めりゃあ良いのか? なら俺様に任せな! 」


 テオドアは姿を消して今もレイシアと戦っているヴァンパイアに近寄る。何をするつもりか分からないが、テオドアを信じるか。


「アグネーゼさん。テオドアが奴を足止めするようなので、強力なのを準備しておいて下さい」


「…… 分かりました。ライル様がそう仰るのなら、信じてみましょう」


 両手を胸の前で組んだアグネーゼが、魔法の準備の為に魔力を練り始めた。


 テオドアの方は…… 今もレイシアを翻弄しているヴァンパイアの背後に辿り着いたところだった。そして姿を現すと、自身の半透明な両腕を、ヴァンパイアの背中に突っ込んだ。


「うおっ!? な、なんだ? 魔力が、抜ける…… 」


「どうだ! いきなり魔力を吸われたら、如何にヴァンパイアでもくらっとくるだろ? 」


 突然大量の魔力がテオドアに吸われた事により、下っ端ヴァンパイアは立ち眩みにも似た症状を引き起こし、体がよろけてしまう。


「む? 今だ! 」


 それを好機と見たレイシアが上段から剣を降り下ろし、ヴァンパイアの頭を真ん中からかち割った。けれど割れた頭から血は吹き出ず、あろうことか自分の頭に刺さっている剣を掴んできたのだ。頭を真っ二つにされたって言うのに、まだ意識を失ってはいない。こいつらに急所はないのか?


『レイシアさん! 離れて下さい!! 』


 魔力念話で離れるよう叫ぶアグネーゼに、レイシアは剣から手を離し、後ろへと飛び退いた。それを見たテオドアも慌ててその場から飛び去る。その時、ヴァンパイアの足下に魔法陣が浮かび上がり、虹色の光が魔法陣の中を眩く照らす。


「う、うぎゃゃあああぁぁ!!! 」


 思わず耳を塞ぎたくなるような醜い断末魔がこの部屋に響き、下っ端ヴァンパイアは着ている服を残して灰となり崩れ去った。


「あっぶねぇじゃねぇか!? いくら俺様に光耐性があると言っても、あんなの食らったら只じゃ済まねぇだろうが! 」


「いっそ貴方も浄化されてしまえば良いものを…… 残念でございます」


「おい、相棒。やっぱりこの女とは一生分かり合えそうもねぇ」


 まぁ、それは仕方ないんじゃないかな? でも今はアンデッドキングを倒すという同じ目的を持ってる訳だし、そこは割り切って欲しいものだ。


「アグネーゼ殿、お陰で助かった。感謝致す」


 灰に塗れた自分の剣を拾い上げたレイシアが戻って来て礼を言う。


「いえ、これもお役目ですので…… クレスさん達に加勢致しますか? 」


 アグネーゼに言われて、クレスとエレミアの様子を窺う。お互いにまだ余力を残しつつ戦っている。相手の出方を探っている段階なのか、勝負を仕掛ける迄には至っていないと見える。


「あぁ、そうだね。そんなに時間は掛けられないから、直ちに加勢しよう」


 日が暮れる前に魔道具を破壊し、今日中にインファネースと通信をしなければならない。少しでも遅れれば、不利になるのは俺達だからな。


「私はクレス達の方に向かおう」


「なら私達はエレミアさんですね。ギルさんがおりますので、加勢が必要かは分かりませんが、とにかく行きましょう」


 レイシアはクレス達へ、俺とアグネーゼはエレミア達へと足を進める。このまま最上階に行って魔道具を壊すのも考えたけど、彼等がそれを容易く許すとは思えないし、ここは先に敵を排除してから安全且つ確実に任務の遂行に励もう。

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