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「なっ!? エルフだと! 何処から出てきやがった!?」
「だから油断するなと言ったんだ。お前は上に報告しろ。俺はこいつらを抑えておく」
この階にいるアンデッドは、レイスが数人、スケルトンが数十体、ヴァンパイアが残り二人。うち一人が急いで上の階に上っていったので今は一人か。
『さて、僕らも行こうか』
『うむ! 腕が鳴るな! 』
魔力収納からクレス、レイシア、テオドアとアグネーゼが出て臨戦態勢に入る。
「レイスは俺様に任せろ! 一人残らず魔力を吸い取ってやるぜ! 」
「私は浄化魔法で援護致します! 」
突如現れたクレス達に、一人残ったヴァンパイアは顔にこそ出さないが驚いてはいるようだった。
「こいつら、何処に潜んでやがった? どんな仕組みか知らんが、お前ら、生きてここから出られると思うなよ」
あくまでも冷静を装うヴァンパイアは、両脇を締めて掌を上に向ける構えを取る。すると、両腕の毛穴から赤い霧のようなものが吹き出し腕を包み込み、鋭い爪を生やした真っ赤な腕へと変貌させた。
何だあれは? 魔術か? 魔法か?
『あれは、ヴァンパイアだけが使える“血液操作” というスキルだ。自身の魔力で己と他者の血を自由に操る厄介な力。十分気を付けよ』
血液操作? 血だけを操る限定的なスキルなのか。
「おい! こいつらを全員殺せぇ!! 」
ヴァンパイアの号令でレイスとスケルトンが一斉に襲い掛かってきた。
レイスにはテオドアとアグネーゼが、スケルトンにはクレスとレイシアが迎え撃ち、ヴァンパイアにはエレミアが相手をしている。
アグネーゼの浄化魔法とテオドアの魔力吸収でレイス達はその数を減らしていく。
「テオドア、てめぇ正気か? 何で人間とつるんでんだ!? 」
「お前らが俺様をそうさせたんだ。せいぜい後悔しながら消えな! 」
クレスが光を纏って光速でスケルトン達を斬り払い、レイシアが中に仕込んでいたマナトライトを広げた盾でスケルトンの攻撃を防ぎ、俺とアグネーゼを守りながら一体ずつ仕留める。
「すいません、レイシアさん。助かります」
「なに、騎士として当然のこと! お二人方は私がお守りいたす故、ご心配召されるな!! 」
相変わらずの堅牢さだ。レイシアの後ろは安心感が半端ないね。
俺は例の如く、皆に魔力を繋いで魔法などで消費される魔力を補充しながら、魔力念話の中継点に専念している。
「どうした? その程度で俺を倒せると思っているのか? 」
「えぇ、思っているわ」
少し離れた所で、エレミアとヴァンパイアの猛撃が繰り広げられていた。エレミアの素早く華麗な剣戟に、ヴァンパイアは赤く染まった両腕で弾く。剣と腕が接触する度に火花が散る様子を見て、あの赤い腕がかなりの硬度であると窺える。加えてヴァンパイアの身のこなしも軽い。
だがしかし、それでも実力的にはエレミアの方が上だ。今もその動きについてこれず、少しずつヴァンパイアの体に傷が増えていっている。このまま押し切れば勝てるぞ!
「強いな…… しかし、それだけでは俺を殺すことは出来ない」
エレミアから距離を置いたヴァンパイアの傷が見る見るうちに塞がっていき、完治してしまった。
『ヴァンパイアの持つ“高速再生” のスキルによるものだろう』
『そんな…… それじゃあ、どうやって倒せば良いんだ? 』
『案ずるな。魔力が尽きれば再生もされなくなる。それまであやつを斬り刻めば良いだけだ』
ギルが言うには再生にも限度があるらしい。でも魔力がある限り生半可な傷はすぐに治ってしまう。不死身とはいかないが、誰よりも死ににくいのは確かだ。
エレミアが雷魔法を放つが、その素早い身のこなしで躱され、接近されてしまう。そこからまたお互いに激しい応酬が始まる。
実力ではエレミアに分があるけど、体力的には彼方の方が若干上のようだ。持久戦に持ち込まれでもしたら厄介だな。
『よっしゃ! 苦戦してるようだし? あたしもいっちょ、やったるかい!! 』
気合いを入れたアンネが魔力収納から飛び出してきては、精霊魔法で光の矢を作り出し、エレミアと激しい戦闘を繰り広げているヴァンパイアに放つ。
「っ!? まさか妖精までいるとは…… これは流石に想定外だ」
すんでの所で光の矢を躱したヴァンパイアが、初めて表情を曇らせ独りごちる。
「エレミア! とっとと終らせるよ!! 」
「はい、アンネ様」
アンネも加わり、これで二対一だ。勝ちは確実だと思われたその時、エレミアの背後から襲い掛かる者がいた。
『エレミア! 後ろだ!! 』
危険を察知し、魔力念話で呼び掛けた事で紙一重でエレミアは避けるのに成功した。
「ちっ! いけると思ったんだけどなぁ」
両手に真っ赤な短剣を持ったヴァンパイアが残念そうに呟く。あいつはエレミアに頭を斬り落とされた筈、あれでも死なずに治るのか。全くしぶとい種族だよ、ヴァンパイアってのは。
「起きるのが遅いぞ。俺達二人で、せめてこのエルフだけは仕留めないと、後で面倒な事になりそうだ」
「あんたは首を落とされた事がないから、そう言えるんだよ。結構いてぇんだぜ? 」
二対二になり、数の有利がなくなってしまった。テオドアとアグネーゼはまだレイスを相手にしているし、こっちもスケルトンで手が一杯だ。
『僕達も出た方が良いかな? 』
『…… あまり多いと身動きが取れなくなる。それに私達では接近されたら為す術もなく殺されてしまう可能性が高い』
この限られた空間では派手な魔法や魔術は控えた方が良いし、リリィの言う通り接近されたら厳しい。いくらレイシアの守りが堅い言ってもリリィとアルクス先生も同時には無理だろう。
『心配するな。この程度の奴等、こやつらだけで十分。こんな所で苦戦するようでは、この先生き残れんぞ? 』
傍観を決めているギルが、余裕の雰囲気で悠長に構える。そう言うんだったら信じるけど、本当に危なくなったら加勢してくれよ?




