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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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33

 

 ここにいる誰もが固唾を呑んで見守るなか、ユリウス殿下の両足が完治した。


「おぉ、足だ…… 私の足が返ってきた。ちゃんと感触もあるし動くぞ」


 ユリウス殿下は自分の足を触って確認し、動かしては歓喜に打ち震えている。その様子を見たマリアンヌが感涙にむせび泣き、近寄っていく。


「ユ、ユリウスさまぁ…… よかったぁ、足が治って、本当に良かった…… 」


「マリアンヌ…… 心配を掛けてすまなかった。それと、今まで私を支えてくれてありがとう。これからも、私の側にいて欲しい。今度こそ、君を守ってみせる」


 ユリウス殿下とマリアンヌが、お互いの想いを確認するかのように優しく抱き合う。


「ユリウス殿下、足は治りましたが、もうしばらくは安静にして下さい。足を構築するのに残っている体から肉や骨となる細胞をかき集めましたので、筋力が著しく低下している筈です」


「言われてみれば、少し痩せたような気がするな。それに腹も減った」


 偉丈夫だった肉体が、今では見る影もなく衰えているのが服の上からでも良く分かる。


「まぁこの程度なら、食事をして鍛えればすぐにある程度の筋肉は付くだろう。ライル君には言葉では言い足りないほど感謝している。この多大なる恩に、私はどう酬いれば良いのだろうか? 」


「では、この国を良い方向へとお導き下さい。そしてサンドレアとリラグンド、お互いに良き隣人として末長くお付き合いして頂ければ幸いです」


「…… 分かった。私がサンドレアを治め、今度は此方がリラグンドの力になれるくらい、今までより豊かで良い国にすると誓おう」


 そう宣言するユリウス殿下の瞳は、初めて会った時とは違い、力強く輝いていた。それを見たクレスが俺の肩にそっと手を置く。


「ありがとう、君のお陰で殿下が甦った。見ただろ? あの目を。あのように生気の溢れた殿下は初めて見るよ」


 後はユリウス殿下とマリアンヌの二人にさせてあげようと、俺達は部屋から退出し、レストン達に事の顛末を説明する。


「な、なんと、ユリウス王太子殿下とは…… これ以上に相応しい旗頭はいませんね。これなら周辺国家も認めてくれるでしょう。インファネースのギルドへの報告の為、後で王太子殿下に話をお伺いしてもよろしいですか? 」


「えぇ、殿下が落ち着いた頃に紹介しますよ」


「しかし、まさかライル君がエルフの秘薬をお持ちだったとは…… 実に運が良かったですね」


 ユリウス殿下の足を治す為にエルフの秘薬を使ったと説明してある。エルフの里と懇意にしており、隣にエレミアがいる事によって、あっさりと信じてくれた。魔力支配で治したと知っているのはクレス達だけ。ガストールは何やら訝しげな目を向けてはいるが、追及するつもりは無いようだ。


「うむ! これで本格的に計画を実行出来るのだな? この時を待ち侘びていたぞ!! 」


 レイシアが待ってましたと言わんばかりに闘志を漲らせていた。


「計画、ですか? 」


「まぁ、その話は追々と…… 皆さん、長旅で疲れているでしょう? 先ずはゆっくりと休んでください」


 確かに、クレスの言うように疲れが溜まっている。ここは一旦休んだ方が良さそうだ。

 だけどその前にしておかないといけない事がある。俺はリリィへと魔力を繋げた。


『リリィ、君の知識を貸してくれないか? 』


『…… 隷属魔術を見破る魔道具の改良、だったよね? クレスに伝えた後で行くから、少し待ってて』


 リリィに助力を請い、俺達は地下室から上がると、そこにはガンビットとエイブラムが待っていた。


「よぉ、話は済んだか? これからお前達が一時的に住む家に案内するから、ついてきてくれ」


 どうやらガンビット達は、俺達の住む場所を用意してくれていたらしい。


 クレス達がいる民家からさほど離れていない距離に、二階建ての石材と土壁で出来た家まで案内された。


「ガンビットさん、ここまでどうもありがとうございました」


「いや、クレスに頼まれたからな。礼を言われる程じゃない」


「ガンビットさんはこれから何を? 」


「監視任務の為、明日にはまた王都へ戻る。だからお前らとはここでお別れだ。ガストール達やエレミアみたいに強い奴が来てくれて心強い。お前もまぁ、そんな役に立たないって訳でも無さそうだしな。アンデッド達に目にもの見せてやろうぜ! 」


 気合いの入ったガンビットとエイブラムが去っていく。生きていればまたどこかで会うこともあるだろう。


「では、私は部屋で休む事にします」


「俺とルベルトは少し町を見て回る。グリムはレストンの護衛に当たれ」


 レストンは部屋で休み、ガストールとルベルトは町の見回りで、グリムがレストンの護衛として残る。さて、俺はどうしようか。


「あの…… もし差し支えなければ、この町の教会へ行きたいのですが、宜しいでしょうか? 」


「えぇ、構いませんよ。それではリリィと合流した後、向かいましょうか」


 やはりアグネーゼは、他の神官達の安否が気になるのだろう。


 暫く家の前で待っていると、クレスがいた家の方角から小さな人影がトコトコと歩いてくるのが見える。


「…… お待たせ」


「悪いね、こんな時に。クレスさんは何て? 」


「…… 私の力が必要なら仕方ないって」


 そうか、クレスには悪いが出来るだけ早くこの魔道具の改良を済ませたい。殿下の足を治したんだから、これぐらいの我儘は良いよね?


 リリィを魔力収納へ入れて、俺達はオアシスの町にある教会へと向かう事にした。

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