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「おぉ! ライル殿!! 久しぶりであるな! 息災で何よりだ」
勢い良く扉を開けて入ってきたのは、アダマンタイトとミスリルで作られた騎士鎧を着込み、肩口で揃えられた銀髪を揺らし、嬉しさで頬を高揚させているレイシアだった。
「お久しぶりです、レイシアさん。そちらもご無事で良かった」
「うむ! アンデッドなんぞに遅れを取る私ではない! 」
うん、何時も通り元気が有り余っている様子で安心したよ。しかし、レイシアは後ろで控えているガストール達を見付けると、先程までのにこやかな表情が曇ってしまった。
「む! なぜ貴様らもここに? 」
「あぁ~…… 俺達は、あれだ。ギルドからこいつらの護衛を依頼されたんだ。仕事だよ」
面倒な奴に会っちまったと言わんばかりに、ガストールは眉をひそめて頭を乱暴に掻く。
「そうか、くれぐれもこの町で無体を働く事のないよう気を付けよ。私は常に眼を光らせているぞ! 」
「はいはい、わぁってるよ。ったく、めんどくせぇな」
突然のレイシア登場で話が中断されてしまったが、気を取り直してクレスが続ける。
「レストンさん、リラグンド王国がどう動くか、商工ギルドはどのようにお考えですか? 」
「恐らくは表だって動くことはないかと…… 物資等の支援要請なら受けてくれるのでは、というのが私達の見解です」
「冒険者ギルドはよぉ、この調査結果次第じゃアンデッド討伐って事で、冒険者をサンドレアに集めさせる用意はしてあるぜ」
「私共も、聖教国に連絡さえ取れるようになれば、多くの神官達をサンドレアに呼ぶ事も可能だと思います」
それを聞いたクレスが顎に手を置いて思案する。
「成る程、どちらにせよ結界の解除が優先される訳だね」
「ん? 結界の魔道具が何処に仕掛けられてるのか、もう分かってんのか? 」
ガストールの疑問にレイシアが胸を張って答える。
「当たり前だ! 私達の調べで魔道具は四ヵ所に設置されていると判明した。リリィが言うにはその中の一つでも無効化出来たなら、この国を覆っている忌々しい結界も無くなるらしい。しかし警備が厳重で手をこまねいている状態なのだ」
何とも不甲斐ないと、レイシアは悔しさで顔を歪める。人手不足も問題だな。
「僕達は少しでも味方を増やそうと、レイスに取り憑かれてる兵士を解放しているんだ。自分の意思でアンデッドに従ってはいない人が殆どだからね、無闇に危害を加えられない。だけど、本人をレイスから解放するだけじゃ駄目なんだ。その人の家族や恋人を人質に取られていたりするから、その人達も保護しなくてはならないので、思うように人が集まらないのが現状なんだ」
う~ん、なかなか困窮しているみたいだな。これからの計画はもう決まっているのだろうか?
「先ずは、他国との通信を取るために結界の解除をしなければならない。それと、リラグンドが物資による支援をしやすくなるよう港町をレイスから解放して安全を確保する」
「アンデッドキングはどうするのですか? 」
「それも大事だけど、今の状況では動きが取れなくてね。ある程度サンドレアにいるアンデッド達をどうにかしないと、捜索も満足に出来はしない。それに、アンデッドキングの目的が国そのものなら、何の抵抗も無しに逃げるとも思わない。取り合えず今は反撃の為に地盤を固めないと」
人を集め、支援物資の流通経路の確保。その為には外への連絡が必要不可欠。しなければならない事が多すぎる。と、ここでレストンが懸念していた疑問をクレスに投げ掛けた。
「それは分かりましたが、最終的にはどうなさるおつもりで? 」
「この国の玉座を王から奪い取ります」
うん? それって本格的な内乱を起こそうって言うのか?
「ならば、それに相応しい旗頭が必要となりますね。周囲の人や国を納得させる程の地位の高い者が…… でなければ誰もついてきてはくれません。クレスさんにはそのような人物に心当たりがおありなので? 」
一瞬、クレスは悲しそうな表情を浮かべてはすぐに意を決した瞳で俺を見詰める。
「十分な資格を持つ者を知っている。というか、既にその人物を保護してるんだ。しかし、僕達が彼を助けた時にはもう半死半生だった。神官達の回復魔法でどうにか一命は取りとめたけど、まともに動ける状態ではなくてね。そこで、ライル君の力を貸して貰いたい。どうか、彼を救って欲しい! 彼さえ動ければ、僕達も大義名分を得られ、こうやって隠れる必要も無くなるんだ」
どんな人かは知らないけど、余程の者らしい。それこそ、王になれる資格を持っているような…… じゃなければ、玉座を奪うなんて過激な事は言えない。
重症人の前に大勢で押し寄せては迷惑になるという理由で、俺だけがクレスに連れられ、その人物がいる部屋へと案内された。
「やぁ、君がライル君だね? クレスから話は聞いているよ。私はユリウス…… “ユリウス・マティエスコ・サンドレア” だ。この国で王太子だった男さ。今はご覧の通り、ベッドから動けないただの足手まといに成り下がってしまったがね」
部屋の中には、ベッドから上半身を起こし自嘲する偉丈夫な男性と、それに寄り添うようにお世話をする線が細い女性がいた。
王太子と言えば、王の息子で次期国王じゃないか! そんな人が何故こんな所でこんな目に?
軽く混乱している俺の背中をクレスが押して、ユリウスの側まで誘導される。
「ライル君、どうか殿下の足を治してくれないか? もう君の魔力支配の力しか頼れる術がないんだ」
世話をしている女性が、ユリウスに掛けられている布団をゆっくりと剥ぐ。ベッドの上に、両足の太腿から先が無くなっているユリウス殿下の下半身が露となった。




