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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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29

 

「でも、本当に大きいわね」


 サンドワームの全貌を見たエレミアが苦々しく呟く。ざっと目算で全長十メートルといったところか。胴回りも太く、皮膚は弾力性があって頑丈だ。


「このサンドワームの皮はソファーやバッグの素材に最適なんです。サンドワームのベッドも人気商品なんですよ」


 へぇ、確かにこの感触は癖になる。ソファーの心地好さはあの宿屋で体験しているので納得だ。レストンの言うようにベッドにしたらさぞかし快眠できるだろう。元が分からなければの話だが…… もうちょっと見た目が良かったらなぁ。


「しかし、よくあんな強力な魔道具を持っていたな。商工ギルドから持ってきたのか? それに魔力で物を操るとは、随分と魔力操作がお得意なようで。ただの荷物持ちって訳ではなさそうだな」


「えっと…… どうも? 」


 これって褒められてる、のか?


「それにしても惜しいな。こんだけデカけりゃ、暫くは食料に困らないんだが…… なぁ、お前の空間収納はあとどれくらいの空きがあるんだ? 出来ればこいつを持っていきたい」


「えっ? 食料って、これを食べるんですか? 」


「見た目は良くないが、食べれば結構旨いんだよこれが。肉は食用として、皮も素材として使えるし、内臓だって土と混ぜて乾燥させれば良い肥料になる。殆ど捨てる所がなくて、サンドレアでは一般的に普及されているんだ」


 サンドレアの人達はこんな化け物を何時も相手にしているのか? どんだけ逞しいんだよ。


「今お前がなに考えてるか大体予想はつく。言っとくが、市場に出てるのはこんなにデカくねぇぞ? こんな大物は年に一度あるかないかだ。普通はサンドワームの幼体を狙う。それでも大人よりは大きいけどな」


 じゃあ、本当に運悪くこの巨大なサンドワームに出会ってしまったのか。まぁ、こんなのにしょっちゅう襲われてたんじゃ砂漠になんか出れないよ。


「で、どうなんだ? あとどれくらい入る? 適当に切り分けるからさ」


 正直に言うと、丸々全部収納は出来る。でもそれをやってしまったら、流石に空間収納だとは言い切れなくなりそうだ。


「そうですね…… 若干の余裕があるくらい、ですかね? 」


 その後、適当に解体したサンドワームを収納して先に進む。ガンビットの駆るバンプリザードが先行して走り出したのを見計らい、俺は残りのサンドワームを魔力収納へと回収した。肉はとても食べる気にはなれないが皮は欲しい。

 これでソファーを買わなくてもいいし、この皮でマジックバックやテントを作成してみよう。サンドワームの皮だけなら比較的安価で仕入れられそうだし、安くて丈夫な商品になる。これなら一般の人達も求めやすく、マジックバッグ等の普及率が上がるだろう。今の問題が解決した後、サラステア商会に頼んで貿易品に加えて貰らえるよう掛け合ってみるか。


  ◇


 あれからサンドワームに何匹か遭遇したけど、どれもあの巨体には及ばなかった。それでも三メートルはあるので、大きいのには変わりないんだけどね。

 でもってそのサンドワームは、ガンビットが爆裂の魔石で追い払ったので、戦わずに済んでいる。ほんとにあいつは規格外の存在だったようだ。


 そうして砂漠をバンプリザードで走っていると、やがて日が暮れて、あれほど暑かったのが嘘のように冷えてくる。


「暖かくなってると言ってもまだ時期は冬ですから、気温差が大きい砂漠ではかなり冷えますね」


 レストンは冷えた体をぶるりと震わせる。爬虫類であるバンプリザードも体温が下り、動きが鈍くなってきているので、ここいらで野営を準備を始めた。


 広大な砂漠の中でのキャンプ。遮るものは何もなく、周りから丸見えだ。これではレイスもさぞかし監視がしやすかろう。でもこっちには結界の魔道具があるので、監視以上の事は出来ないけどね。


 マジックテントを張って火を起こし、食事の仕度をする。調理担当はエレミアとアグネーゼ。その間に俺達男性陣は周りを警戒しておく。


「と言っても、こう見晴らしが良けりゃすぐに分かりそうだけどな」


「そっすね。今夜の月は明るいっすから、良く見えるっす」


 ガストールとルベルトが空に浮かぶ月を見上げている。満月とはいかないが、それに近い形の月が砂漠を淡い光りで照らすその風景は、俺の目にはとても神秘的に映った。


「皆さん、油断は禁物です。今も上空に穢れの気配を感じます。恐らくレイスが我々を監視しているのでしょう」


 緊張した面持ちでエイブラムが空を睨み付ける。確かに、俺にも空に浮かぶ幾つもの魔力が視えていた。結界があるので此方には近付けないでいるが、彼の言うように油断は出来ない。


「あのレイス達は浄化しないのですか? 」


「そうしたいのは山々ですが、ここで目立つのは得策ではありません。あくまで旅人を装わなくては」


 神官であるとレイス達に思わせてはならないって事か。アンデッド達の情報共有はどれ程のものか分からないけど、俺達の中に神官がいると、既に気づかれているのでは?

 王都に向かう途中の岩山で思いっきり浄化魔法を派手に食らわしたからな。監視していたレイスも一緒に消し飛ばしたけど、あれほど目立つ光の柱が立ったんだ、余程の馬鹿じゃない限り警戒しそうなものだと思うけどな。そう俺はエイブラムに伝えた。


「それは、随分と派手にしでかしましたね。それでこんなにレイスが我々を監視しているのですか。しかし、今ここにいるレイス達を浄化しても、また新たなレイスが来るだけですよ」


「でもこのままでは、オアシスの町まで付いて来てしまうのでは? 」


「町の存在はもう知られていますが、全体に魔物を拒む結界を張っていますので、そこが我々の本拠地だとはまだアンデッド達は知らない筈です。それに奴等は朝になると陽の光りを避け、砂中深くに身を潜めますから、町の出入りは出来るだけ朝にしているんです」


 成る程、町に入る所だけは見られないようにする訳か。と、ここでエレミアから食事の用意が出来たと声を掛けらる。今夜のメニューは体も温まる栄養満点な野菜のクリームシチューだ。


「これは旨い! このシチューにはあのサンドワームの肉が良く合いそうだ。今度作るときは是非試してみてくれ」


 上機嫌でシチューを食べるガンビットの言葉に、俺とエレミアは曖昧な笑みを浮かべた。食べれば美味しいんだろうけど、見た目のインパクトが脳裏にこびりついていて、どうにもね?

 因みにこっそり回収した残りのサンドワームは、皮を残してムウナが美味しく頂きました。


『ライル! みてみて! うにょうにょ!! 』


『ぎゃあっ!? ちょっと止めてよ! キモいから!! うわ、鳥肌が半端ないんですけど!? 』


『ギャハハハ!! おもしれぇじゃねぇか! 』


 サンドワームの遺伝子を取り込んだムウナが、首から下をワームのように細長く変えてクネクネと動きながら遊んでいた。


 うん、アンネの言う通り気持ち悪いから止めようか。テオドアには馬鹿受けだけどね。

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