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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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27

 

 レストン達が宿に来たのは、とっぷりと日が暮れた頃だった。ガンビットとエイブラムは明日の準備の為、外へと出払っているので、レストン達との顔合わせは後日になる。

 チェックインを済ませたレストン達と俺の泊まる部屋に集り、お互いの成果を報告する。因みに、部屋にはちゃんとレイス対策として結界を張るのを忘れてはいない。


「そうですか、ガンビットさんには会えたのですね。それで明日、クレスさん達がいるオアシスの町へ案内して頂けると」


「はい。それで、商工ギルドでは何か掴めましたか? 」


「いいえ、特には何も。港町と同じような対応でしたね。通信魔道具は故障してるし、ギルドマスターは挨拶もさせてくれないほど忙しいようです。ただ、前に来た時よりも職員の数が減っていたのが気掛かりで…… 」


 レストンは悲痛な表情で言葉を切る。商工ギルドに寄った後に冒険者ギルドにも向かったのだが、そこには何も無かったらしい。


「綺麗な更地になってやがったぜ。ライルが言っていたように、オアシスの町に逃げ延びた冒険者がいるんだよな? 」


「多くの冒険者が無事だと良いっすね。味方は大勢いた方が楽っすから」


 違いない、とルベルトに言葉を返すガストール。安否を心配しているというより、戦力としての心配をしているみたいだ。まぁ冒険者は個人責任な所があるからな。


 報告も終わったので宿で食事を摂り、三人部屋はガストール達、二人部屋はエレミアとアグネーゼ、俺とレストンの組み合わせで各自部屋で夜を過ごす。

 今回は俺の部屋にも結界を張った。下っ端のレイスでは知っていることはたかが知れている。ならゆっくりと眠って休んだ方が有意義である。



 翌朝。一階のラウンジにてレストン達とガンビット達と軽く顔を合わせた。


「ガストール達は冒険者だよな? 俺はシルバー級だけど、あんたらは? 」


「あ? 俺達は三人ともゴールド級だ」


「すると俺より等級が一つ上か。強い奴は大歓迎だ。ライルと会ったときはどうなることかと思ったけどよ」


 このガンビットの様子を見て、ガストール達は顔を見合わせ肩を竦めるだけで何も言わない。アグネーゼもエイブラムには何も話していないようだし、俺の事は敢えて説明しようとは思っていないようだ。


「それじゃあ、準備が良ければ今すぐにでも出発したいんだが、大丈夫か? 」


「はい、ライルさんには空間収納のスキルがありますので、何時でも出発可能ですよ」


「へぇ、空間収納ねぇ。どんな奴でも取り柄の一つはあるもんだな。それなら俺達の荷物も頼むわ」


 これは完全に荷物持ちとして認識されてるな。まぁ俺は別に良いけどさ、エレミアがどんどんと不機嫌になっていくんだよね。この先上手くやれるのか不安だ。


 宿を後にして、預けてあったバンプリザードを引き取る。


「俺達が先導するから、しっかりと遅れずについてきてくれよ」


 ガンビットが後ろにエイブラムを乗せて、バンプリザードを走らせる。その後ろをついていくこと数時間、王都から南へ進んでいくと、草木が少なくなっていき、地面がサラサラとした粒の細かい砂に変わっていった。


「さぁ、ここからだ。この砂漠の先に、俺達が拠点としてるオアシスがある」


 ガンビットが見詰める先には一面に広がる砂だけ。所謂、砂砂漠と言うやつだ。幾つもの砂丘が連なり、強風が横なぐりに吹いている。そんな中をバンプリザードは砂に足を取られずに、すいすいと走る。時折、風で砂が舞い上がって目を開けてられないほどだ。ゴーグルでも用意してくれば良かったな。



 暫く砂漠を走っていると、風も穏やかになり平坦な場所に着く。ここらで一息つけるかと思ったのも束の間、砂中から何かが凄い勢いで此方に近づいてくるのが視える。魔力で全体像を確認すると、それは太く長い体をした巨大な生物のようだ。


 少し遅れてガンビットも異変に気付き、慌てた様子で声を張り上げた。


「サンドワームだ!! あいつは何でも食っちまう、一塊にならずに散開しろ! 」


 俺達は急いでバンプリザードをバラバラに走らせる。その直後、砂中からサンドワームが勢いよく飛び出し、その巨体を見せびらかすかのように、さっきまで俺達がいた箇所に頭から突っ込んできた。


 でけぇ! 俺達をバンプリザードごと余裕で一飲みに出来るくらい大きくて丸い口には、奥までびっしりと鋭い歯が生えていた。あんなのに飲み込まれたら、あの歯で磨り潰されてしまう。


 サンドワームはまた砂に潜り、俺達に向かって突進してくる。


「ひぇ~! 砂の中じゃ、どうやって攻撃するんすか? あんな気持ち悪いのに食われて死ぬのは嫌っすよ!? 」


「つべこべ言わず逃げる事に集中しろ! 必ず機会はやって来る、それを待つんだ!! 」


 ガストール達は逃げながら攻撃のチャンスを伺う。ルベルトの言うように砂の中に潜られたんじゃ面倒だ。エレミアの持つ魔法スキルでは、どれも砂に弾かれてサンドワームに届きやしない。また姿を現すまで逃げるしかないのか?


「ガンビットさん! あのサンドワームには何か弱点みたいなものはないのですか? 」


「弱点かどうか分からないが、あいつは目が見えないぶん耳がすこぶる良いんだ! だから何時もはこれを使って撃退している! 」


 ガンビットは腰につけた小袋から、何やら石のような物を取り出す。あれは、魔石か? そこに魔力を込め、魔石が仄かに光出したのを確認すると、サンドワームへと投げる。


 光る魔石がサンドワーム付近の砂に接触したその時、破裂音と同時に砂の地面が爆ぜる。その音に驚いたのか、サンドワームの動きが鈍くなった。


「今のうちに離れて距離を取れ!! 」


 ガンビットは更にもう二、三個、魔石を投げ込む。あれには爆裂の術式が施されているみたいだ。大きな破裂音が鳴り響くなか、サンドワームは多少なりとも怯むけど、すぐに気を持ち直してまた此方へ向かってくる。


「くそ! 何時もならこれぐらいでどっかに逃げてる筈なんだがな…… 」


 どうやら、まだサンドワームが襲ってくるのは、ガンビットにとって予想外の事らしい。


「威力が足りないのでは? もっと強力な物はないのですか? 」


「残念だがこれ以上の物は手持ちにない! あの砂の盛り上がりから見て、普段相手にしているサンドワームよりも巨大だ。まったく、運が悪いぜ! 」


 体が大きい分もっと威力のある物じゃないと…… しかしガンビットの手持ちにはそれに当たる物がない。追われていて分かったけど、このサンドワームはバンプリザードよりも若干速いくらいなので、このままでは逃げ切るのも難しい。


 厄介な相手ではあるが、対処法は分かった。逃げるか戦うか、どちらにせよやることは一つ。ガンビットが使う物よりも、もっと強力な魔道具を使って奴を砂中から引き摺り出すだけだ。


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