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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
334/812

26

 

 ガンビットに連れられ、訪れたのは最上階にある一室だった。七階までの距離でも階段はちょっときつい。エレベーターが欲しいね。


「ここが俺の借りている部屋だ。魔物避けの結界が張ってあるからレイスに会話を聞かれる心配もない。まぁ入れよ」


 失礼します、と部屋に入る。すると中にはもう一人の男性がいた。てっきりガンビット一人だと思っていたけど、この人は誰だ?


「おや? ガンビットさん、お客人ですか? 」


「あぁ、悪いがこいつらをちょっくら見てくれないか? 」


 挨拶もなしに、まだ名前も知らないこの物腰の柔らかそうな男性は、何かを確認するかのように、目を細めて此方を凝視する。


「大丈夫です。彼等はレイスに取り憑かれてはいませんよ」


 それを聞いたガンビットは安心したのか、ホッと息を吐く。


「そうか…… いきなり悪かった。この国で本当の意味で信頼出来るのは、もう神官しかいないからな。お前らにレイスが憑いていないかエイブラムに見てもらったんだ」


「エイブラムと申します。どうぞお見知りおきを」


 エイブラムと名乗った青年は、穏やかに頭を下げる。教会の人だったのか。


「私はライルと言います。此方こそ、よろしくお願いいたします」


「ライルさん、ですか? 何処かで聞いた覚えがあるような? 」


 はて? と頭を傾げるエイブラムにアグネーゼが駆け寄った。


「私はアグネーゼと申します。アンデッドから逃れられたのですね? ご無事で本当に良かった」


「やはりアグネーゼ司祭でしたか。確か帝国で務めを果たしている筈では? 何故、こんな危険な所へ? 」


「サンドレアがアンデッドに襲撃されたと聞き、こうしてライル様と調査をしに来たのです。他にもご無事な者はいるのですか? 」


「はい。ここから南にあるオアシスの町で、冒険者と共に暮らしています」


 他の神官達が無事だと聞いたアグネーゼは嬉しそうに顔を綻ばせる。全員とはいかなかったが、アンデッドの餌食にならずに済んだ神官がいて良かった。


「なんだ、あんたも神官だったのか。それならそうと早く言ってくれよ。成る程、ここまで無事に来られる訳だ」


 ガンビットが納得してくれたところで、何があったのか詳しく聞く事にする。


「あれはどのくらい前だったか…… 俺は何時ものように冒険者ギルドへ行き、依頼を見繕っていた時だ。突然ギルドに国の兵士達が襲撃して来やがった。何の説明もなくいきなりだ。不意を食らった冒険者が何人かやられたが、俺達は何とか逃げ切った。その後で国が冒険者と教会の廃止命令を下したと聞いたんだ。ふざけやかって! それでなんで俺達を襲う必要があるってんだ! 」


 ガンビットは不快感を顕にして歯噛みする。そう、ただの廃止命令なら国から追い出せば良いだけで襲撃する必要はない。冒険者と神官を始末する為の後付けでしかないのが明け透けで、馬鹿にされてる感じがする。だからガンビットはこんなにも腹を立てているのだろう。


「俺達はすぐにでもこの国を抜け出そうとしたんだが、何故か行く先々に兵士が待ち構えていて、思うように動けずにいた。そのうえ他の冒険者が発狂したかのように突然暴れ出したりもする。レイスの仕業だと後で気付いたが、その時はもう俺達の数は半分になっていた。兵士に追われ、夜にはレイスに襲われる。俺達の疲労は限界に達し、誰もが諦めかけていたその時、神官と冒険者達を引き連れたクレスと出会った。クレスは町や村を周り、追われていた者達を救いだしていたらしい。俺達はクレス達と共に行動した。神官がレイスを祓い、俺達が魔物や兵士を相手にしながら安全な場所を探した。そして辿り着いた先が、オアシスにある町だったのさ」


 そうか、クレス達が神官や冒険者を助けて回っていたのか。


「皆で国から出る事も出来たのでは? 」


「は? やられっぱなしで黙ってられるかよ。神官達もこのままでは神々の意思に反するとかで、アンデッドとの徹底抗戦を決めた。やられたらやり返す、クレスも他の冒険者も気持ちは一緒だ」


 おぅ、何か暴力集団みたいな発想だな。怖いよ、冒険者。


「それで仲間を集めながら調べていくうちに、国に結界が張られていること、レイスが村や町を監視していること、アンデッドが異常発生していること、兵士や役人達の殆どがレイスに取り憑かれてること等が分かった。恐らく既に王も…… だがまだ確信には至っていない。下手に王城を攻めれば俺達の方が悪者にされちまう。まぁそれを解消する手立てが無いわけではないが、今はちょっと色々と面倒でな。あんたらが来てくれて、俺達の計画が進められるようになると手紙では書かれていたが…… 何か特別な力でもあるのか? 」


 きっとクレスは俺の魔力支配の力と魔力収納にいるアンネ達を当てにしているのだろう。俺との約束と気遣いでその事は手紙に書いていないようだ。まぁ俺も態々、ガンビットに自分の力を誇示しようとも思わないけどね。とにかく今はクレス達との合流を果たそう。


「諸々準備があるから、出発は明日になるけどいいか? 」


「はい。それとまだ仲間が四人いますので、後で紹介します」


 商工ギルドにいるレストン達とは、この宿屋で落ち合う事になっているから、その時にでも紹介しておこう。


 大体の経緯を聞き、今はアグネーゼとエイブラムがお互いの近況を話し合い、ガンビットもエレミアに興味があるようで頻りに話し掛けている。後に残されるのは俺一人。


『ぷぷっ! ライル、ぼっちじゃん! さ~びしぃ~』


 うるさいアンネ、俺は決してぼっちではないし寂しくもない。今は最上階からの眺めを楽しんでるだけだ。


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