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農村からバンプリザードを駆って約三日。アンデッド達の襲撃が一回だけあったけど、この前よりは数が少なかったので、ピンチには至らなかった。
「見えて来ましたよ…… あれが、サンドレアの王都です。どうです? とても立派な外郭でしょう? 門構えも実に素晴らしい。この巨大な都市の中に運河を造り、交通や物資の輸送に利用にしています。数ある都市運河の中で、一番と言われる帝都の次に大きいと言われているんですよ。こんな状況でなかったら、色々と見て回りかったのですが、仕方ありせんよね」
まったくだよ、と言うか帝都の運河が一番なんだね。あんまり長居しなかったからな、よく見ておけば良かった。
それにしても、王都にしては門に並ぶ人が少ないような…… サンドレアではこれが普通なのか?
「前に来たよりもずっと人の出入りが少なくなっているようです。さて、何事もなく王都へ入れると良いのですが」
列に並ぶけど、短くて直ぐに自分達の番になる。他の国でもこんだけスムーズならストレスも貯まらないだろうな。
「見ない顔だな、何の用でこの王都へ? 」
門兵が此方を訝しげな目を向けてくる。バンプリザードから下りたレストンがギルドカードを提示して、王都にある商工ギルドを訪ねに来たと説明した。
「あぁ…… 話は聞いてる。余計な騒ぎは起こさないでくれよ? ただでさえ、反乱だなんだと物騒だからな」
「はい、肝に命じておきます。ご忠告ありがとうございます」
リラグンドやアスタリクと比べると多少高く設定されている入市税を払い、門を抜ける。思ってたよりすんなりと通れて拍子抜けだが、先程の門兵は俺達の事を知っているようだった。ということは、港町からずっとマークされていたと考えられる。
「ここがサンドレアの王都ですか…… 砂の国と呼ばれているとは思えない街並みですね」
「そうでしょ? 私も初めて訪れた時は、ライルさんと同じ様に目を丸くしましたよ」
レンガ調の家々が建ち並ぶ側には運河が伸び、小型から中型の運搬船が行き交う光景が眼下に広がっていた。
成る程、これは誇っても良い位に見事な風景だ。観光で来れなかった事が悔やまれる。
門の近くにある馬屋にバンプリザードを預け、遅めの昼食を摂る為店に入る。豆料理が豊富だな、後は初めて見る肉もある。ワームの肉って旨いのか?
妥当に豆のスープと、レストンがおすすめする料理を頼んだ。さて、料理が来る間に作戦タイムといきますか。
『これから商工ギルドに向かうんですよね? その後はクレスさんが言っていた宿屋に行くと? 』
『それなんですが、商工ギルドへは私とガストールさん達で向かいたいと思います。ライルさんはその宿屋にて、ガンビットなる人物を訪ねてくれませんか? 』
『二手に別れるということですか? 大丈夫なんでしょうか? 』
『ガストールさん達がいれば大丈夫ですよ。それに、ここの商工ギルドでも大した事は分かる気もしませんし、一応行って確かめるだけですので、そんなに期待はしていません。それよりも宿屋の方が重要そうなので、クレスさん方と親しいライルさんに頼みたいのです』
まぁぞろぞろと大所帯で行動するよりかは効率的だが、レイスが心配なんだよな。この王都にも奴等が潜んでいる事は既に確認済みだ。これだけ大きな街なので、レイスの数も港町と比べると段違いに多い。レイスによる厳重な監視体制が敷かれている街で、戦力を割くような真似をして平気なんだろうか?
『ライル様、レイスは誰にでも簡単に憑依出来るとは言えないのですよ。体に入ってきたレイスは強い精神と魔力があれば、撃退は可能です』
『え? そうなの? じゃあ、冒険者なんかは取り憑かれ難いって訳なんですか? 』
『はい、そうなりますね』
だから冒険者が邪魔になってギルドを廃止したのか。放っておけば必ずアンデッド達にとって脅威となるからな。
『オレッち達はレイスなんかに負けないっすよ! 流石に寝てる時は無防備っすけど』
『まぁ、例え取り憑かれたとしても、そこの神官の嬢ちゃんがいるから大丈夫だろ? 』
『レストンは俺達に任せてくれ』
最後のはグリムかな? 本当に魔力念話では普通に喋れるんだな。でもそう言う事なら問題はない。俺はレストンの提案を受ける事にした。
と、ここで頼んでいた料理が運ばれてきた。スパイス香るスープの中に色んな種類の豆が入っている。インゲンに、そら豆、大粒のアズキ色した豆はキドニー・ビーンかな? 後は…… おぉ、ひよこ豆もある。日本では珍しい種類だったからそんなに食べた覚えがない。
他にも色鮮やかな名前の知らない豆もあり、何だかカラフルなスープとなっている。味も悪くなく、ピリリと辛く食欲が沸く味付けとなっていた。
お次に来たのは、レストンおすすめの品だ。これはパスタ料理かな? それにしては麺が短く切られていて穴のないマカロニみたいになっている。具にはひよこ豆とレンズ豆に、揚げた玉葱を加えてトマトソースが掛けられていた。
初めてみる料理だけど美味しそうだ。スプーンで豆と短くなっているパスタを掬い、ひと口食べる。すると、トマトと別の酸味が口の中に広がった。酢も入っているのか。こう暑い所ではこの酸味も食欲を掻き立てる。
「ふふ、お気に召したようで良かった。サンドレアの豆料理は美味しいですよね」
「はい、とても美味しいです。ここで冷たいエールがあれば完璧だったのですが」
「ははっ! その意見には同意致しますが、まだお酒で頭を鈍らせる訳にはいきませんからね」
「それは残念です」
本当に残念だ。魔力収納にキンキンに冷えたエールがあるのがまた一段と悔しさを増す。
『う~む、その豆料理も旨そうだ』
『この魔力収納にある材料で似た味付けのものは作れますよ? 』
『なに? ならば作ってくれ。冷えたエールも忘れるな』
魔力収納内では、アルクス先生が料理をしてギル達に振る舞っていた。一人暮らしが長いアルクス先生は料理も裁縫も人並みに上手い、男性なのに女子力が高いのだ。
『あたし辛いのはいらな~い。それよりもプリン作ってよ! ほら、鶏達から新鮮な卵を貰ってきたの!! 』
『まめ! にく! ぷりん! ムウナ、ぜんぶ、たべる!! 』
すいません、アルクス先生…… うちの者がご迷惑をお掛けします。
 




