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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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22

 

「お早うございます、ライル様。朝食の用意が出来ておりますので、どうぞお召し上がり下さい」


 翌朝。テントから外へ出て、エレミアと一緒に朝食の準備をしていたアグネーゼと挨拶を交わす。その顔色は昨晩よりかは幾分か良いようだ。取り敢えずは大丈夫そうかな?


 朝食を済ませ、バンプリザードに乗って山を越え、時々休憩を挟みながら岩石砂漠をひた走ること約二日。次第に緑が増えてきて、川も見えてきた。

 あれからアンデッドの襲撃はないが、夜になるとレイスが此方の様子を窺いにやって来る。実害はないけど、監視されているので気分は良くない。先のアンデッド達との戦いで、アグネーゼの浄化魔法を見られたはず。アグネーゼが神官だと、もうばれていると思ったほうか良いだろう。


「この川を辿っていけば農村があります。今日はそこで夜を越しましょう」


 レストンの言う通り川を辿って進んで行くと、畑や木が密集している場所に着いた。藁と土を固めたような円形の家が等間隔で立ち並び、人々が畑の世話に精を出している姿が遠くからでも視認できる。


 へぇ、あの木も農作物なのか? 良く見るとカカオらしきものが実っている。本来カカオは高温、多湿な地域で栽培しているものだけど、こんな乾燥している所でも育つんだな。まぁここは異世界だし、俺の知らない種類なのかも。畑には何が植わっているんだ?


「ここでは、数種類の根野菜やトマトを育てているようです。ついでにカカオでも仕入れておきたいですね」


 輸入量が激減したカカオが此処には沢山ある。空間収納持ちだと思っている俺がいるのだから、大量に仕入れておきたいと言うのは商人として全うな意見だ。どのみちこの農村で一晩明かす予定だから、交渉する時間はある。


 村の人から村長の居場所を聞き出し、一際大きな家にいる村長に村での滞在許可を貰い、そのままレストンはカカオの商談に入った。


「そりゃあ、此方としても有り難い申し出だ。今じゃこの国も物騒になっての。こうして他国から買い付けにくる者もおらんくなり、麦を買う金も工面しずらくなっていたところだったので助かるわい」


 カカオを主に生産しているこの村では、輸出品としてあの港町に、行商人を通してカカオを卸すことで生計を立てていた。だけど今ではその行商人が来なくなり、金を稼ぐどころか麦や塩等も手に入りづらく、生活は困窮しているようだ。なら金が必要かと思われたが、村長は物資での取り引きを要求してきた。


「若い者は王都へと出稼ぎに行ってしまってな。時折、村に食料やらを持ってきてくれるが、その日暮らしでカツカツなのは変わらん。金を持っていても、儂らみたいな年寄りではそれを使う場所まで行けやしない。行商人が来とった時は良かったんだがなぁ」


 それならと、俺は魔力収納から塩をはじめとした各種調味料と小麦や芋、保存がきく乾物や干し肉を取り出す。


「おぉ、これだけあれば村の者も喜ぶ。本当に助かるよ」


「いえ、これは正当な取り引きですのでお気にならさずに」


 食料を確保出来て喜んでいた村長だったが、申し訳無さそうに顔を曇らせる。ん? 何か足りなかったのか?


「その、不躾ではあるんだが、回復薬があったらそれも譲っては貰えないだろうか? 前までは、定期的に神官様が村を訪れては怪我や病気を治してくれていたんだが、王が教会の廃止を宣言してから見なくなってしもうての。そのせいで、治療する手段が薬だけになって皆困っておってな」


 ここの農村付近では薬草の自生地はなく、材料の仕入れに利用していた商人も来なくなった。その為薬師がいても、薬が作れていない状況なのだそうだ。怪我や病気をしてしまったら、長い時間を掛けて王都か港町へ薬を買いに行くか、自然に治るまで耐えるしかないのだと言う。

 今やこの国の物流は滞り、教会は廃止、理不尽な値上げでこれまでの輸出量は激減。町や都市といった大きな場所ではすぐに問題にはならないだろうけど、ここのような第一次産業を主とした小規模な村落では死活問題である。


 村長に回復薬を幾つか譲り、感謝されながら家を後にする。村長のご厚意で空き家を提供して頂き、そこで一晩過ごす事になった。例のごとく魔道具で結界を張って安全を確保、何時何処でレイスが忍び寄ってくるか分からないからね。

 テオドアとアンネが言うには、この村の人達には一人もレイスが取り憑いていないらしい。高齢者が殆どだから放っておいても大丈夫だと判断されたのだろう。


「港町では多少人が減ったくらいでしたが、村になると被害が大きいですね」


 村長から村の実状を聞いたレストンが独りごちる。確かに、今のサンドレアの政情では、満足に輸入も出来ていない。麦等の穀物の大半は他国からの輸入で賄っているというのに、制限なんかしたら、こういう村では直にその煽りを受けてしまう。民を苦しめるだけの政策、反乱を企てる者達が出るのも不思議ではない。


「王は―― いえ、アンデッド達は一体何を企んでいるのでしょうか? わざと国を孤立させ、国民を苦しめる。とても国を治めようとしているとは思えません」


 アグネーゼはこの国の人達を思ってか、王都がある方角を悲しそうに見詰めていた。


「そんなのは考えたって分かりゃしねぇ。でもこのままじゃいけねぇってのは確かだ。早く情報を集めて、国へ報告しちまおう。こんなの国の力でもなければ解決なんて出来ねぇだろ? 」


「そっすよね。いくら魔物が関わっていると言っても、冒険者ギルドだけじゃ流石に荷が重すぎるっすよ」


 確かに、ガストール達が言うことはもっともだ。本当にサンドレア王がレイスに憑依されているとしたならば、国をアンデッド達から救うということは、このサンドレアを丸々相手にするのと同じ。一国の主と正面を切れるような者でないと、とてもじゃないが太刀打ちは出来ない。


「しかし、リラグンド王国は表立って動けないと思いますよ? サンドレアからの要請も無しに、無断で軍を大量に送り込んでしまったら、周辺国家から侵略行為と見られて心証が悪くなる恐れがあります」


 レストンが言うように、ハッキリとした証拠を各国に提示出来なければ、ただの武力による侵略と思われるだろうな。


「それじゃあ、何のためにオレッち達はここまで来たんすか! 」


「まぁ落ち着いて下さい。何も出来ない訳ではありません。表立って行動出来ないのであれば、裏で動けば良い。例えば、支援とか」


 支援? 一体何に支援すると言うのだろう?


「あぁ、なるほどな…… 要は内戦を起こしちまおうって訳か」


 ガストールは顔をしかめて、自分の髪の無い頭を乱暴に掻く。


「はい。その方がリラグンド王国に被害は出ませんからね。そう考えるのが妥当でしょう」


 それまで黙って聞いていたエレミアが不思議そうな顔でレストンに疑問を投げ掛けた。


「どうして、内戦なんか望むの? 」


「それはですね、その方がリラグンドにとって安全かつ都合が良いからです。物資や武具の支援をするだけで、実際に戦うのはサンドレアにいる者達ですから、直接的な被害は回避できます」


 その話を聞いて、アグネーゼが一つの懸念を顕にする。


「ですが、一体どうのようにして内戦にまで持っていくのですか? 」


 そこが問題なんだよね。勿論、戦争なんて起こらない方が良いに決まっているが、ことこの国に限っては話し合いで解決出来そうにもない。もう戦争を望んでいる節があるように思えるからな。

 そうなると、それなりに地位が高い人物を旗頭にしないと、周囲の賛同は得られないだろう。それこそ公爵くらいの地位が必要だ。


「そこであの噂ですよ。反乱を企てている者達が集まっていると聞いたではありまんせんか。私が思うに、クレスさん達がそうではないかと」


 あぁ…… あり得ない話でもないな。クレス達なら、国から追われた冒険者達を集めて、アンデッドから国を取り戻そうとしている可能性が高い。むしろ確定的とも言っていい。


「それに、クレスさん達はアンデッドキングを調べに私達よりも長くサンドレアにいます。内戦の旗頭となる様な人物に心当たりがあるかも知れません」


 そう考えると、今優先すべき事はクレス達との合流だな。

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