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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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18

 

 俺の魔力収納に無断で侵入してきたレイスを、一晩かけてじっくりと尋問した後、テオドアが残りの魔力を吸い取ろうと力を込める。


『ひっ!? な、なんでだ! 聞かれた事には喋っただろうが!! お前らの事は誰にも話さねぇから、助けてくれよ! 』


『駄目だな、そんなの信じるかよ。今ここで仕留めた方が良いに決まってるだろ? 』


 テオドアに魔力を吸われたレイスは情けない断末魔を上げながら消えていった。魔力で構築された肉体を持つレイスは、魔力を吸われる事により、自分の体を維持出来なくなって消えてしまう。魂の方はどうなったのだろう?


『大丈夫、ちゃんと円環へと逝ったみたい』


 魂が見えるアンネが言うのだから、そうなのだろう。他の人達は無事かな? 一応、魔物の侵入を防ぐ結界の魔道具を渡してはあるけど、少し心配だ。


 朝になって陽が昇る頃、俺はエレミアとアグネーゼの部屋を訪ねた。


「お早うございます、ライル様。昨晩は良くお休みになられましたでしょうか? 」


「おはよう、ライル」


 何事もなかったかのように挨拶を交わす二人をアンネとテオドアに視てもらったけど、レイスには取り憑かれいないと言う。先ずは一安心だな。


「おはよう、エレミア、アグネーゼさん。残念だけど、夜中にレイスがやって来て良く眠れなかったよ」


 昨晩の事を説明すると、アグネーゼは「ライル様の目論み通りですね」と呟いた。うん、まぁそうなんだけどさ。そっちにもレイスは来たのかな?


「此方にも来ようとしたようですが、ライル様から渡された結界の魔道具のお陰で侵入を防ぐ事が出来ました。ありがとうございます。しかしライル様だけに、この様な危険な役目を担わせてしまい、申し訳ございません。本来なら私が代わって差し上げたかったのですが、生憎とこの身はレイスを弾いてしまいますので、口惜しい限りでございます」


「いえ、お気になさらず。二人が無事で何よりですよ。特にエレミアが憑依されてたら、危険でしたからね」


「なによ、私はレイスなんかに取り憑かれる程やわじゃないわよ」


 エレミアは心外だと軽く頬を膨らませたので謝っておく。そんな様子を見て、アグネーゼはそっと微笑んでいた。


 レストンには予めこういう事が起きるかもと説明した上で、了承を得て同じ部屋にしてもらった。危険な目に会わせてしまい申し訳ないと謝ったが、これも調査の為だと言ってくれた。


 それと、ガストール達の部屋にもレイスが来ようとしていらしい。


「ライルの旦那から魔道具を渡されていなかったと思うと、怖くて鳥肌ものっすよ! 」


「あぁ、予測はしていたが、本当に来るとはな…… 助かったぜ。しかしこれじゃ、結界無しでは休めねぇな」


 ガストール達にも何事もなくて良かった。サラステア商会の人達はどうだろう? 船の番を兼ねて船内で泊まらなければならないので、船全体に魔道具で結界を張っておいたから大丈夫だとは思うけど。


 すぐに港へと向かい確認したが、その心配は杞憂に終わった。乗組員は全員無事だし、船内にレイスが隠れている様子もない。取り合えず魔道具に魔力を補給して結界の効果時間を伸ばしておく。そうすれば出港してここから離れるまでの間はレイスの侵入は防げるだろう。


 数時間もすれば出港準備は完了し、俺達に見送られつつ船はインファネースへと向けて進んでいく。見落としはないと思うけど、もしレイスが船内に潜んでいたのなら、インファネースにいる妖精達を信じて任せるしかない。


 レイス同士、誰が取り憑かれているかは見れば何となく分かるらしい。だから俺達に一人もレイスが取り憑いていないというのも既に奴等は知っている筈だ。警戒してアンデッドキングに報告するか、それともまだ様子を見るか、それが気掛かりだけど、このまま予定通り王都に向けて出発しよう。


『あの…… 本当にこのまま王都へ行くのですか? この町の人達を救うことは出来ないのでしょうか? 』


 アグネーゼが魔力念話で遠慮がちに聞いてくる。


『俺も出来ることなら救いたいです。でも、俺達だけでは難しいと思いますよ? 』


『そうでしょうか? この町にいるレイスだけなら私達だけでも対処が出来るのでは? 』


 尚も食い下がるアグネーゼ。よっぽど町の人達を放っておくのが心苦しいみたいだ。


『確かに、俺達ならこの町をレイスから解放できるかも知れません。しかしですね、その後が問題なんです。例え今、町からレイスを追い出したとしても、また新たなレイスがやって来ます。町に結界を張るにしても、常に魔道具を発動し続ける為の魔力が確保出来ません。町の人達を全員国外に逃がすにしても、何処で彼等を保護するのですか? インファネースでも、これだけの人数を抱え込むのはかなり難しいでしょう。そもそもリラグンド王国がそれを許可するかどうかも分からない。結局、大元をどうにかしないと本当の意味で救った事にはならないと俺は思います。幸いにも、この町の人達が大人しく従っている限りは無事なようですし、余計な混乱を避けて、アンデッドキングの居場所を突き止めるのが先決ではありませんか? アンデッドからこの国を解放するには、俺達だけでは数が足りません。もっと味方が必要だと思います』


『味方、と言いますと? 』


『町の人が言っていたじゃありませんか。反乱を起こそうと集まっている者達がいるって。先ずはその者達との接触を図りましょう』


『…… 分かりました。ライル様の言う通りですね。目の前の人達を救いたい一心で、その先を考えておりませんでした。余計なお手間を取らせてしまい、誠に申し訳御座いません』


 私の考えが浅はかでしたと、アグネーゼは相当気落ちしてしまい、俯いてしまった。


『謝らないで下さい。救いたいという気持ちは俺も同じです。むしろ俺の方こそすいませんでした。自分の力不足を棚に上げて偉そうな事を言ってしまって…… 』


 アグネーゼは、そんなことはないと言うように力強くかぶりを振る。


『取り合えず王都へ行くって事で良いのよね? 』


 お互いに困って沈黙しているなか、見かねたエレミアが横から魔力念話を送ってきたので、俺とアグネーゼは揃って頷いた。


「では、移動の為にバンプリザードを買って行きましょうか」


 話も纏った所でレストンがバンプリザード? を買うと言う。何それ、馬じゃ駄目なの?

 レストンの後をついていき、そのバンプリザードが売っているという店にいたのは、余裕で人が乗れるほどの大きなトカゲだった。


 もしかして、これに乗って移動すんの? ここまで大きいともう恐竜だよ。


「見るのは初めてですか? これはバンプリザードと言いまして、サンドレアだけに生息している固有種なんですよ。ここから王都へ行くには岩山を越える道の方が早く着きます。荒れた道では馬だとすぐにへばってしまって思うように走れないのですが、このバンプリザードなら、そんな道でも難なく進めます。熱にも強い耐性を持っていますし、あの背中にある二つの瘤に脂肪を蓄え、数日なら水を飲まなくても平気なんです。サンドレアでは移動用として、とても重宝されているんですよ」


 へぇ、前の世界で言うラクダのようなものか。でも実際ラクダは瘤じゃなくて血液中に水分を蓄えているらしいけどね。こんだけ立派な瘤があればそう思ってしまうのも無理はない。

 だけど、こいつは馬と違って爬虫類だ。ほんとに言うことを聞いてくれるのか? あの長い爪で引っ掛かれたりはしないだろうね?


「野生のバンプリザードは気性が荒く攻撃的ですが、店で売られているのは卵から育て、人に馴れさせてから調教もしっかりとされているので、襲われる心配はありませんよ」


 う~ん、それなら…… 良いのか?


「道が荒れていて馬車は使えませんが、荷物ならライルさんの空間収納がありますので大丈夫ですよね? 」


 そういう訳で、ガストール、ルベルト、グリムは自由に動けるよう一人一匹ずつ。俺とエレミア、アグネーゼとレストンの二人で一匹。計五匹のバンプリザードを購入した。勿論、商工ギルドの経費である。


「それでは王都へ向かって出発です! 」


 レストンは後ろにアグネーゼを乗せ、上手にバンプリザードの手綱を引いて走り出し、その後をガストール達もついていく。


 情けないが、俺はエレミアに手綱を任せて後ろに座る。瘤が丁度良く背もたれになり、体も程よく柔らかいので、乗り心地はそんなに悪くない。これなら長時間乗っていてもお尻が痛くなりづらいだろう。


「私達も行くわよ」


「あぁ、頼んだよ、エレミア」


 俺達も後を追って走り出す。さて、王都には何が待ち受けているのか分からないが、アンデッドに支配されつつあるこの国をどうにかしないと、二千年前と同じようにアンデッドで世界が埋め尽くされるかも知れない。それだけは何としてでも回避しなければな。

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