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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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14

 

 サンドレア王国―― 大陸の最南端に位置する国で、砂の国とも言われるように国土の大半は砂漠地帯であるが、別に緑が無いわけではない。大陸最大と誇るメコルド河と言う巨大な河が海へと流れていて、その途中で枝分かれした川の側に村や町がある。その豊富な水と気候のお陰で豆や砂糖きび、カカオ等の農作物を育て、他国へと輸出している。サンドレアの農業はメコルド河に依存している形になり、無くてはならないものなのだ。当然河の近くには草木が生い茂り、緑に溢れている。だからと言って砂漠に誰もいないという事でもなく、遊牧民が家畜の餌となる草を求めて移動しながら暮らしているし、オアシスの町だって存在しているらしい。こんな状況でなければ、思いっきり観光を楽しみたいよ。



 もうすぐサンドレアの玄関とも言える港町に到着する。俺達の予想が正しければ、町にはレイス達が潜んでいる筈だ。少しでも怪しいと判断されれば、どこかで潜伏しているアンデッドキングの耳に届くだろう。充分に注意が必要だ。


「もうすぐサンドレアですね、ライル様。アンデッドが国を持つなど許されるものではありません。何としてでも阻止しなければ…… 」


 教会に属しているからか、アグネーゼは随分と気負っている様子だ。アンデッドをこの世の穢れとまで言っているし、何故こうも目の敵にするのだろうか? 無駄な殺生を固く禁じているのに、アンデッドだけにはやたらと厳しい。教義と言ってしまえばそれで終わりだけど、どんな理由でそうなったのか気になる。


「そもそもアンデッドという魔物は、この世界が誕生した時には存在していませんでした。アンデッドが魔物として現れたのは、今からおよそ二千年前と言われています」


「二千年前? 確か魔物による大厄災があったと、教皇様から聞いた事があります。もしかして、アンデッドが? 」


「はい、お察しの通りでございます。アンデッドは一人の人間の飽くなき欲望によって生まれたのです。約二千年前、とある魔術師が永遠の命を求めたのが始まりでした。そして長年の研究の末、辿り着いたのが魔物です。何時までも若々しい体を保つ魔物に目をつけた魔術師は、その肉体を隅々まで調べあげ、自身の体を魔物と同じようにすれば歳をとらなくなるのではという結論に達しました」


 はて? 何処かで聞いた覚えがある話だな。


「そして遂に研究の実が結び、魔術師は人間でありながら体内に魔核を形成し、魔物の力と肉体を得ました。後にその魔術師は、自らをヴァンパイアと名乗ったそうです」


 あぁ、やっぱりヴァンパイア誕生の話だったか。


「だけど、そこに至るまでの実験により、大量のグール、スケルトン、レイスが生まれました。ヴァンパイアになった魔術師は彼等を従え、人間達を襲い仲間を増やして行ったのです。当時、アンデッドは魔物ではなく、世界の理から外れた存在でした。グールとスケルトンは人間の死体から作り出されたものなので魂は宿ってはいませんが、問題なのはレイスとヴァンパイアなのです。彼等が増えれば、多くの魂がこの世界に留まり続け、魂の循環が滞ってしまいます。こんな事が続いてしまうと、この先新しい命は生まれず停滞した世界になってしまう恐れがあったのです」


 まぁ、老いることもなく生き続ける訳だから、増えていく一方だよな。


「そして、神々は苦肉の策で強引に彼等をアンデッドという魔物として、世界の理に捩じ込む事で世界の安定を図ったのです。そのお陰でアンデッド達は陽の光に弱いという特性が与えられ、それと同時にアンデッドだけに有効な浄化魔法を創り、教会の者達に授けました。その力を使い、彼の者達を魂の円環へと戻すという新たな役目が教義に加わったのです。その時から私達とアンデッドの対立が始まりました。しかし、世界の理に加えるという事は良い結果だけを残すものではありません。魔物と定義されたことにより、アンデッドからキング種が生まれ、魔王が誕生してしまったのです。その魔王となったのがあの最初のヴァンパイアでした。その後は聞くもおぞましいもので、人間達は容赦なく殺されグールやスケルトンにされてしまい、魔王に忠誠を誓った者達は皆ヴァンパイアかレイスになったと記されています。そして瞬く間に世界はアンデッドに溢れてしまいました。それが二千年前に起きた大厄災と言われるものです。当代の勇者と教会が協力して魔王を倒しましたが、新たな理により人間の死後、アンデッドが生まれて来るようになってしまったのです」


 それがアンデッドの起源か。たった一人の人間の欲望から、一つの種族を誕生させてしまった。げに恐ろしきは底の知らない人の欲深さである。


『当時の事は我もよく覚えている。彼の方の命により、我の咆哮で留まりし魂を送っていたものだ』


『勢い余って、他の人間達も屠ってたけどね。アンデッドより恐れられてたんじゃない? 』


『フンッ! 別に人間共を守る為ではなく、アンデッドを葬り去るのが目的だったのだ。問題はあるまい』


 いや、ギルには無くても人間達には大ありだよ。それにしても、ヴァンパイアと自ら名乗ったというのは気になる。考えたくはないけど、その魔術師ってもしかして…… 俺やシャロットと同じ世界の記憶持ちだったのでは? そう思うと何だか申し訳ない気持ちになる。

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