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皆でタコを食べた翌日、甲板の隅でガストール達とエレミアとアグネーゼが座り込んで何かやっていた。
「何してるんですか? 」
気になって声を掛けるとガストールはあからさまな舌打ちをし、ルベルトは大袈裟に体を反らせ、グリムは静かに顔をしかめる。
「くそっ、上手くいってたのによ」
「あーっ! 順調だったっすのに、話し掛けないでほしいっす!! 」
「ちょっと話し掛けられただけで魔力の繋がりが切れるなんてまだまだね。それじゃあ戦闘中では使い物にならないわよ」
なんか邪魔しちゃったかな? すいませんね。
「ライル様は悪くありません。エレミアさんの言うように、これしきの事で集中が切れるガストールさん達が悪いのです」
「なかなか辛辣ですね、アグネーゼさん。それで、集まって何をしているんですか? 」
「はい、エレミアさんから魔力念話を教わっています。サンドレアでは到る所にレイスの目があるとのこと。なれば私達の会話も聞かれる可能性も大きい。そこで魔力念話を覚えれば、堂々と誰にも聞かれることもなく話が出来ます」
成る程、何か気付いたことや相談したい時も俺やエレミアにいちいち魔力念話を頼まずとも、向こうから念話を送れるようにしたいって事ね。
魔力念話は魔力操作をきちんとこなせば誰でも出来るもので、そう難しいものではない。アンネに教えてもらったエレミアもそんなに時間を掛けずに習得出来たし、今度はエレミアがガストール達やアグネーゼに教えているのか。
「前にライルが俺達に魔力を繋いで話してたよな? あれは本当に便利だった。特に俺達のように連携を重視する戦いには大いに役に立つ。いちいち声に出さなくても相手に伝わるし、敵にこっちの動きを聞かれる心配もない」
「それにグリムの兄貴も魔力念話ではよく喋るっすからね。何でも、思ったことをそのまま相手に伝わるのは楽でいいって言ってたっす! 」
「…… 」
グリムは満足そうに頷く。そう言えばそんなこともあったな。確かにガストール達が魔力念話を覚えれば今までよりも格段と連携がしやすくなるだろう。
「しかし、いざ習ってみると結構難しいな。魔力操作には自信があったんだが、この糸のように魔力を細くして相手に繋ぎ止めるのは中々に集中力が必要となる。一人に繋ぐにも難しいのに、お前はよく俺達に出来たよな」
「流石はライルの旦那っすね! なんかコツがあったら教えてほしいっす」
コツ? そうだな…… 俺の場合は魔力支配というスキルがあるから比較的簡単に習得出来た節があるから、あんまり宛にはできない。まぁ慣れかな? 沢山数をこなして慣れていくしかない。
「慣れっすか? コツコツを経験を積み重ねるしかないってことっすね! 」
「遠い道のりも、先ずは一歩からと言いますからね。焦らず進んで行きましょう」
「大丈夫よ。この調子ならサンドレアに着くまでには、それなりに使えるようになってる筈だから」
へぇ、魔力操作には自信があるというのは本当のようだ。ここはエレミアに任せて軽く外の空気を吸った俺は、船内の部屋に戻り開発した魔術の微調整を行う。
従来の結界を張る魔道具に新しく開発した術式を施し、試験運用を重ねて少しずつ手を加える。単調だが、手を抜けない作業だ。
『安全性と確実性を考慮しますと、これぐらいの大きさが一番良いのではないかと思われます』
『しかしこれでは少々狭いな、それに術者も結界の中に残ってしまうから危険ではないか? 』
『こればっかりは難しいですね。カーミラ達の出現場所や潜伏場所が分かっていれば、あらかじめ魔道具を仕掛ける事も可能ですが、そうでなければ術者ごと結界の中に閉じ込める方が確実なんですよね』
『そうなると結界の中でカーミラ達と戦闘になるのは避けられん。それならもう少し結界の範囲を広くは出来ぬか? こう狭くては戦い辛い』
『これ以上広くしますと、所々に綻びが生じてしまいます。そこから逃げられてしまう恐れがありますので難しいですね。もう一度術式を見直してみましょう』
ふぅ…… 完成の目処が立ったと思ったけど、これは難航しそうだな。せめてサンドレアに到着する頃には完成させたい。そうすればアンデッドキングを取り逃がさず、カーミラ達の介入も防げて、帝国の時のように横から奪われるなんて失態を演じることはないだろう。
◇
『どうですか? ちゃんと伝わっておりますでしょうか? 』
『はい、ばっちりですよ。この短時間でここまで魔力念話をものに出来るなんて凄いですね』
この日の夕食を済ませた後、アグネーゼが習得した魔力念話を見てほしいと言ってきた。
『ふふ、エレミアさんの教え方が上手だったからです。まさか魔力念話を通じて教えたい事や魔力を操る感覚まで伝えてくるなんて思っても見ませんでした。エレミアさんが普段どの様にして魔力を操作しているのか良く分かりました。言葉だけでなく、想いや感覚さえも相手に伝える事が出来る魔力念話とは、本当に素晴らしいものですね』
アグネーゼは余程魔力念話を習得出来て嬉しいのか、饒舌になっている。
『昔は人間達も普通に使っていたけど、今じゃ誰も使わなくなっちゃったよね? こんなに便利なのに』
『時代が進むにつれて、人間達は魔力操作よりも魔術に重きを置き始めたのが原因であろう。魔力とは無限の可能性を秘めているというのをすっかりと忘れてしまったのだな』
へぇ、昔の人達は今よりもずっと魔力の使い方が上手かったのか。でも、アンネやギルが言う昔ってどのくらい前なんだ? 魔術に重きを置き始めたと言っているから、魔術が使われる以前って事だよな?
『もう一度、魔力でお互いの想いを伝え合えるようになると良いですね。信頼している人や愛する人と想いが繋がるというのはとても素晴らしく、素敵なことだと思います』
その後も夜遅くまでアグネーゼに付き合わされ、その強い想いを魔力念話で送られ続けた。エレミアが途中で入って来なければ徹夜ものだったかも。アグネーゼって結構情熱家なところがあるよな。




