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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
320/812

12

 

 アンネ達がすっかりとその気になっているので、乗組員から釣り竿を借りて釣りをする事になった。エサは厨房にあった大きめの海老を譲って貰い、釣り糸を海に垂らす。


『さぁ、大物を釣るのだ!! 』


『おさかな、まだ? 』


 まだ始めたばかりだと言うのに、そう急かさないでくれ。それにしても、この世界の釣り竿はリールも付いていて、俺が前世にいた世界の釣り竿によく似ている。聞けば千年以上前から形は変わっていないのだそうだ。きっと俺よりずっと前にいた記憶持ちが釣り好きだったんだろう。


 俺は釣りをしたことはあるけど、別段好きと言う訳でもない。小学生の頃、たまに親父が釣りに誘ってくる程度だった。あの時の親父は嬉しそうに竿の振り方や浮きの見方、竿を上げるタイミングにリールの巻き方など教えてくれた。でもそんなに興味の無かった俺は、適当に相手をしていたような気がする。もっとちゃんと付き合ってあげれば良かったな。


「釣りですか? 良いですねぇ」


 そんな風に思い出に浸りながらぼけーっとしていると、釣りをしている俺を見掛けたレストンが近寄ってきた。


「まぁ、ちょっとした暇つぶしですよ。少々退屈でして」


「あぁ、分かります。海の上では娯楽が少ないですからね。私も参加しようかな? 」


 レストンが自分も釣りをしようか迷っていた時、向こうから船長の指示が聞こえ、乗組員は慣れた手つきで船に帆を張り始める。


「少し気になったのですが、スクリューによる推進だけでは駄目なのですか? 」


「えぇ、長距離の移動ですので、魔術で動かすスクリューだけですと動力である魔石や魔核が荷物になりますし、もし足りなくなったりでもしたら大変です。だから風向きが良い場合は帆を張り、それ以外はスクリューによる推進で船を動かしているんですよ」


 へぇ、要は節約してるって事だよな。レストンと雑談を交わしていると、釣り竿がクイクイッと何かに引っ張られているように動いた。


「ライルさん、これ引いてるんじゃないですか? 」


 おっ! 食い付いたかな? 魔力で操る木の腕を使って竿を上げ、リールを巻くが結構重たい。これはデカそうだ。


『態々腕なんか使わなくても、直接釣り竿を操れば良いんじゃない? 』


 いやいや、アンネ。こういうのは釣っているという雰囲気が大事なんだよ。


 なかなか手強い。海の中にいる獲物と格闘すること十数分、何時しか俺の周りに人が集り、この釣りの行く末を見守っていた。


 バラしだけはしないように釣り糸を通して獲物を魔力で繋ぎ止め、慎重に且つ力強くリールを巻いていく。そして遂に海の中から奴の影が見えてきた。これはかなりデカイぞ。だけど形が魚とは少し違うような? 何かウネウネしてるし。


 それが海面に姿を現した時、周りにいたギャラリーが悲鳴を上げる。これは驚きというより恐怖に近い部類だ。海の男達が揃ってこんなのに悲鳴を上げるなんて、確かに見た目は悪いけど食べれば旨いのに。


 俺が釣ったのは前世でよく食べていたタコだった。しかし驚くべきはその大きさである。俺が知っているタコのおよそ十倍はあると思われる。その巨大タコが甲板の上で元気よく暴れ、周りにいた人達が逃げ惑う光景が広がっていた。俺はせっかく釣ったタコを逃がさないよう魔力で押さえ込み、無理矢理に胴体をめくって内側にある胴と足を繋ぐスジを剣で切ってから胴体を裏返しにして内臓を取る。


 彼等には少々刺激が強かったみたいで、船縁からオエ~ッと撒き餌をしている人がチラホラと見掛ける。まぁ、見慣れていなければグロテスクに思えるが、吐く程かね? 大袈裟な人達だ。


「ラ、ライルさん。もしかして、それを食べるんですか? 」


「え? 勿論食べます。見た目と違って美味しいですよ」


 俺のその言葉に周りも何言ってんだと驚いている。騒ぎを聞き付けたエレミアとガストール達もやって来て、この巨大タコを見ては顔をしかめた。


「おいおい、なんつうもん釣り上げてんだよ。しかもこんな惨たらしく殺しやがって、何かこいつに恨みでもあんのか? 」


 若干引いているガストールに、側にいた乗組員が事情を説明する。


「はぁ!? これを食うだぁ? お前正気かよ! こんな気持ちの悪いもん食える訳ねぇだろ? 」


「そっすよ! お腹壊しちゃうっす!! 」


 大丈夫だって、美味しいから! だからそんな目で俺を見るんじゃない。何気に傷つくんだよ。


『タコパだ! タコパ! ライルが視せてくれたたこ焼きパーティだぁ!! 』


『我はたこわさを所望する。酒に合いそうなのでな』


『たこ! たこ! なんでもいいから、はやく、たべる! 』


 俺が前世の記憶を魔力念話で視せていたからか、アンネ達は気持ち悪がらずに早く食わせろとせがんでくる。


 船の厨房に運び、調理を頼んでも誰もしたがらないので、エレミアに手伝ってもらい自分達で調理するしかなかった。


 まずは塩で揉んで滑りを取って足を薄く切ればタコの刺身の完成だ。一切れ味見してみた。この大きさだから味も大雑把かと思いきや、しっかりとしたタコの味がする。前世と変わらずに旨い! はぁ…… ほんと久しぶりに食べたよ。ここの人達はタコを食わないから市場にも出やしない。人魚達に聞いても、え? あれって食えるの? なんて言いやがる。イカは食えるのに何でタコは駄目なんだ? こんなに美味しいのに、みんな見た目だけで食えないと判断するから困るよな。


 後は細かく刻んで醤油とワサビで和えれば、たこわさの出来上がり。ワサビはジパングから仕入れて、魔力収納内で栽培している。常に綺麗な水を流す沢ワサビじゃないと根茎が太く育たないので、魔力収納にある湖から水を引いて人工的に沢を作るのには苦労した。


 それと定番の唐揚げを忘れてはならないよね。ひと口サイズに切ったタコに醤油で味付けしてから衣をつけて油で揚げる。大きいからといって、そのまま揚げても食べ辛いだけ。やっぱりタコの唐揚げはひと口で食えないとね。


 お次は茹でるのだけど、この大きさでは鍋に収まらないので適度に切ってから分けて茹でていく。そのままでも美味しいが、アンネの要望通りたこ焼きにしないと。


 余っている鉄を魔力支配で加工してたこ焼きプレートを作り、船に積んである野菜や小麦を使い、エレミアと二人でたこ焼きをどんどん焼いていく。仕上げにインファネースでシャロットが作った甘辛いソースとマヨネーズを掛ければ完成だ。

 カツオ節がないのは残念だが、あれは再現するには難しいからな。行程が多すぎて俺も詳しくは知らない。カビ付けなんて、素人が手を出したらとんでもない事になりそう。


 流石に刺身やたこわさは受け入れてもらえなかったけど、たこ焼きや唐揚げは食べてくれた。熱い熱いと食べるのに四苦八苦しているが手は止まらない。どうやらお気に召してくれたようだ。


「これがあのタコですか。噛み応えのある食感に、噛めば噛むほど味が滲み出る。美味しいですね」


「ほんとにうめぇな。こっちは揚げたタコか? これもいけるぜ! こりゃエールが欲しくなるな」


「ずっと噛んでいたいくらい旨いっす!! 」


 そうだろ? 食わず嫌いしやがって、タコの偉大さを思い知れ!


『たこ焼きうめぇー!! 唐揚げも刺身も最っ高だね! ただしたこわさ、お前は駄目だ! 辛すぎる!! 』


『やれやれ、このワサビの辛さが良いのではないか。羽虫の舌はこれだからいかんな』


『へぇ、こんなに美味しかったんですね。確かに、これはお酒が進みますね』


 魔力収納内でもアンネやギル達が酒を片手にタコを味わっている。アルクス先生も美味しそうにたこ焼きを食べてはいるが、刺身には手をつけていなかった。やはり生食は抵抗があるようだ。


「あんなおぞましい姿なのに、これほど美味しいとは…… 外見に惑わされ、本質を見ようともしなかった自分が恥ずかしい。ライル様には大切な事を教えて頂きました」


 いや、大袈裟ですよアグネーゼさん。そんな大それた事を教えたつもりはないんですけど?

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