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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
319/812

11

 

 インファネースから出港して二日、ここまでは特に大きなトラブルもなく、船は順調に海を進んでいる。


 ジパングに向かった時もそうだったけど、海の上ではやれることが限られ、暇をもて余すようになる。まぁ俺は魔力収納内にいるアルクス先生やギルと一緒に魔術の改良、開発に取り組んでいるから暇ではないのだが、ガストール達やエレミアはそうでもない。


『ふぅ…… 術式はこれで大丈夫かと思います。後は微調整の為、試験を繰り返すだけですね』


『しかし、不安もある。アンデッド達が張っているという魔力のみを遮断する結界、その術式も組み込めれば完全に閉じ込める事が出来るのではないか? ライルならばスキルで解析が可能であるからな』


『確かにそうですね。その術式を加えられるのであれば、僕達が今感じている憂いも、多少なりと解消できそうですよね』


 それってつまりは、俺にその件の結界を解析しろと言ってるんだよな? はぁ、分かりました。ちゃんと解析しますよ。


 一段落ついたので外の空気を吸いに甲板に出ると、何だか人集りが出来て賑わっていた。

 ん? 騒がしいけど、重大な問題が発生したという雰囲気ではなさそうだ。


 俺も野次馬に混じって見学に参加してみると、そこにはエレミアとルベルトが武器を手に取り戦っている。これは別に争っているんじゃなくて、稽古をつけているのか?



 ルベルトの双剣がエレミアに向かって襲いかかる。細くしなやかな両腕から繰り出される剣筋は、幾つものフェイントが織り交ざっていた。

 しかし、エレミアはそんな中から本命の攻撃を見極め、剣で受け流しながらいなしていき、ルベルトの懐へ潜り込む。そして剣を握っていない左手でみぞおちに掌底を打ち込み、体勢を崩したところで体を横に回転させて、ルベルトに足払いをお見舞いする。

 堪らず尻餅をついたルベルトの首元に剣を軽く添えればエレミアの勝利で終了だ。その瞬間、周りにいる見学者達の歓声に包まれる。すっかり見せ物になってるな。


「やっぱりエレミアの姐御は強いっすね! あれからオレッちも強くなったと思ってたんすけど、まだまだっす! 」


「いいえ、あの頃より動きのキレが上がっていたわ。確実に強くなっている。でも私だって鍛えてるんだから、そう簡単には追い付かせないわよ? 」


 そんな二人の交戦に周囲にいる甲板員達は大盛り上がりだ。娯楽の少ない海の上では、これほど見ていて楽しいものはない。


「お次は三人同時でどう? 貴方達の強みはその連携力にあるわ」


 お? 良いのかそんな事言って、幾らエレミアでもガストール達三人を一遍に相手をするのは厳しいんじゃないかな?


「ほぅ? 強く出たもんだな。俺達を相手に勝てるって? 」


「姐御、それはオレッち達を舐めすぎっすよ」


「…… 」


 エレミアの提案を挑発と受け取ったのか、ガストールの顔に笑みが消えた。ルベルトは素早く体勢を整え、グリムも槍を構える。


「別に舐めている訳ではないわ。その方が良い訓練になりそうってだけよ」


「そうかい…… 条件はさっきと同じで魔法、魔術の使用は無し。己の腕だけで勝負だ。本気でいくぜ」


「えぇ、私も手加減無しで行くわ」


 こうしてガストール達とエレミアの三対一の勝負が始まった。


 長年培ってきたガストール達のコンビネーションは素晴らしく、エレミアに攻撃の隙を与えない。それでも互角に相手をしているエレミアも流石である。これが俺だったら、五分も持たないだろうな。


「手足の一本ぐらいなら私の回復魔法で繋ぎますので、遠慮なく訓練に励んで下さいね! 」


 そんな物騒な声援を送るアグネーゼに近付き、声を掛ける。


「だいたいは予想出来ますが、一応聞いてもいいでしょうか? エレミア達は何をしているんですか? 」


「これはライル様。お務めお疲れ様でございます。船旅が順調で暇をもて余していたようなので、この広い甲板を利用して体が鈍らないようにと訓練をしております」


 確かに、ここなら思う存分にとはいかないけど、制限された空間での立ち回りとかにはもってこいの訓練場所になる。例え傷ついたとしても、アグネーゼの回復魔法があるから安心だ。


 まぁ程々にとアグネーゼに告げてこの場を離れ、船縁へと向かい地平線まで広がる海を眺める。

 程好く頬を撫でる潮風が心地いい。まだ陽も高く、波が光を反射してキラキラと輝いていた。


 海というのは不思議なもので、ただ眺めているだけなのに心が安らぐようだ。前世でも、今世でも、海は変わらず蒼く何処までも続いている。だからなのか、ついここが前世とは違う世界だというのを忘れてしまいそうだ。

 前世ではこうやって海を眺める余裕なんて無かった。何時からだろう? 海を遠ざけ始めたのは…… 子供の頃は、夏になる度によく親に連れていってとせがんでいたのにな。ここまで綺麗な海では無かったけれど、もう戻らない過去が太陽光を反射しているこの波のように眩しくて、思わず目を反らしたくなる。


『ライル、暇なら釣りでもしようよ! もうこんなデッカイ魚でも釣ってさ、皆でお刺身パーティだ!! 』


『うむ、刺身といったら清酒だな』


『さかな! さかな! ムウナも、たべたい! 』


『えっ!? 生で? 食中りとか大丈夫なんですか? 』


 人がノスタルジーに浸っていると言うのに、まったく…… しょうがない、後で釣竿でも借りるとしよう。

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