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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
315/812

7

 

 レイス達から聞き出した情報を整理していると、取り憑かれていた者達が目を覚ましたとの報告を受け、話を伺う為に彼等がいる部屋を訪ねた。


「ブフ、来たか。では、彼等にも話を聞くとしよう」


 領主は待ってくれていたようで、俺の到着を確認した後、まだベッドの上にいる彼等への尋問を開始した。


「先ずは、お主らの素性を聞かせてもらおう」


 彼等は困惑気味に少しずつ自分達の事を話し出す。どうやら四人ともサンドレアの農家でお互いに面識は無いらしい。


「うむ、レイスに取り憑かれるまでの経緯は覚えておるか? 」


「いえ、その…… 記憶がどうにも曖昧なのです。兵士から呼び出されたのは覚えているのですが…… その後の記憶が飛び飛びでして、まるでずっと夢の中にいるような、そんな感じなんです。でも、夢のように居心地の良いものではありませんでした」


 要するに良く分からないって事だな。他の三人も似たようなもので記憶が曖昧だと言う。


「レイスに取り憑かれた人の典型的な症状ですね。彼等は体だけではなく、意識までも支配されていたようです」


 流石は教会に所属してあるだけあってレイスには詳しいね。アグネーゼがそう言うのなら、彼等は嘘を言ってはいないのだろう。


 その後も話を伺ったけど、特にめぼしい情報はなかった。まだ疲れているだろうと彼等を休ませ、俺達は領主と共に応接室へと場所を移す。


「領主様、彼等はこれからどうなるのですか? 」


「ブフゥ~…… あの者らは貴重な証言者である。よって、王都へ連れていき、王に直接報告せねばなるまい。そのあと、望むならこの国で保護する事になるであろうな」


「サンドレアについては? 」


「それは王の判断に委ねるしかないので吾輩にも分からん。単純に国同士の問題なら良かったのだが、魔物―― しかもアンデッドキングが絡んでくるとなれば穏便には済まんだろうな。まぁ報告を受けてから会議を開き、サンドレアへの対策を講じなければならぬのですぐには動かんだろう。その間にもまた此処へ、レイスに憑依された者らが来ないとも限らない。もどかしいが、今はインファネースのことだけで手一杯である」


 それは仕方がない。先ずは自分達の街を一番に考えなくてはいけないからな。俺も気になる所だが、俺達だけで国ひとつ救えるとも思えない。せめてクレス達と連絡が出来れば……


 もうここに俺がいる必要もないので、領主に挨拶をして館を出る。はぁ、これからどうなるのだろう? 最悪サンドレアとリラグンドの戦争が始まる可能性だってある。そうなればアンデッド達がこの国へ大量に雪崩れ込んで来るだろう。既存の結界では魔物の侵入は防げるけど、レイスのように人間の中に入り込まれては簡単に素通り出来てしまう。


 先程の四人を妖精達が見つけえなければどうなっていたか。きっと王都まで侵入されて、サンドレアのように内側から侵食されていたかも知れない。いや、まだその危険はあるから油断は出来ない。そんな状況だから、母さん達が心配でインファネースから離れたくはないし、でもサンドレアにいるクレス達も心配だしな…… あぁっ!! 何だかモヤモヤする!



 ◇



「おう! どうしたライル? 辛気くせぇ顔して、なんか悩んでんのか? 」


「何かあるならオレッち達が相談にのるっすよ! 」


 店に入ってくるなり、俺の顔を見たガストールとルベルトがそんな事を言ってくる。


「いらっしゃいませ。いえ、サンドレアが気になってここ最近あまり眠れてないんですよ。冒険者ギルドでは何か伝わっていませんか? 」


「あぁ、サンドレアか…… 実は俺も気掛りでな、色々と調べてはいるんだけどよ。何も分からねぇんだ」


「何も、ですか? 」


「そう、何も――だ。お前も知ってるだろうが、ギルドってのは国同士のいざこざには干渉しない決まりになっている。だから今回の事もわざと情報を流さないようにしているとも考えられ無くもねぇが、どうにもおかしい。あまり大きな声では言えねぇけどよ…… サンドレアにあるギルドへの連絡が取れなくなったらしい。通信の魔道具を利用しても応答は無し、使いを出したら戻ってこなくて行方をくらます。どう考えても異常だよな? 」


 サンドレアを覆っているという結界のせいだよな? だとすると商工ギルドも似たような状況にあるのかも。


「そんでっすね、サンドレアの調査依頼が緊急に貼り出されたっすよ。ライルの旦那なら何か知ってるんじゃないかと、ガストールの兄貴がね。本当に知ってたなら教えてほしいっす! 」


 成る程ね、それで直接俺に聞きに来たって訳か。相変わらす良い読みをしているよ。そうだな、魔物が関わっているしギルドにも教えておいた方が良いよな? 俺は誰にも聞かれないよう、魔力念話でガストールとルベルトに貿易港で起きた事を伝えた。


『はぁ!? マジでレイスっすか? それにアンデッドキング? こりゃとんでもないっすね! 』


『ちっ、予想以上の大物が出てきやがった。これは俺達の手には負えねぇ案件だな。ギルドに報告だけ済ませて後は上級者に任せるしかねぇ』


 ガストール達は情報の提供に感謝しつつも、めんどくさそうに店から出ていった。


 ギルドも随分と立て込んでいるようだ。サンドレアがもたらした混乱は様々な所で起きている。領主はもう王都に着いた頃だろうか? 報告を受けたリラグンド王がどう判断を下すのか、注目せざるを得ない。



「なあ、相棒。ちょっと良いか? 」


 この日の閉店作業を終わらせ夕食を済ませた頃、魔力収納から出てきたテオドアが神妙な面持ちで話し掛けてきた。ここ最近のテオドアは外へ出ずにずっと魔力収納に込もって何か考えに耽っていたようだった。


「ん? 大丈夫だけど、どうしたんだ? 」


「あれから色々と考えたんだけどよ、俺様だけでサンドレアに行こうかと思う」


 えっ? なんでそんな結論に?


「俺様はよ…… 生きる為なら何でもした。泥水を啜る事になろうとも、生にしがみついてきた。それはレイスになっても変わらねぇ、むしろ一度死んだことでより死が怖くなったかも知れない。だからなのかね…… あのヴァンパイアのガキに負けた時、かつての手下共の前で無様な姿を晒してでも、生きる事を選んだ。嗤われるのはもう慣れている。でもよ、こんな俺様でも、やっぱり捨てられねぇもんがあんだよ。どうしても見過ごせねぇもんがあんだよ。一度は逃げちまったけど、このままじゃいられねぇんだよ」


 過去を振り返っているのか、テオドアは歯を食いしばり、ここにはいないアンデッドキングを睨んでいた。


「…… 相棒には感謝してる。俺様の強化に力を貸してくれただけじゃなく、こんな俺様の為に怒ってくれてよ。そんなの初めてだったから、正直嬉しかったぜ」


「そんなの当たり前だろ? 仲間なんだからさ」


「へへ、お前はそういう奴だよな。だからこそ、俺様の我儘で迷惑は掛けられねぇ」


「勝てる見込みはあるのか? 」


 俺のその問いに、テオドアは困った表情を浮かべた。


「わかんねぇ。でもよ、やっとあいつの居場所が見つかったんだ。もう行くと決めちまったからよ」


 ふぅ…… どうしてそこで遠慮するんだよ? テオドアらしくない。普段のお前なら、周りの迷惑なんて顧みず己の欲望のまま突き進むだろうに。


「そうか、分かった。それじゃあ、サンドレアに行くとしますか」


「は? いやいや、話を聞いてたのか? 俺様一人で行くって言ってんだろうが! お前は馬鹿か? 」


「馬鹿はお前だよ。仲間を一人で行かせる訳ないだろ? それにテオドアと交わした誓約には、アンデッドキングを倒す為に協力しなければならないとあるから、これを破る訳にはいかないよな? 」


「そんな内容だったか? 少し違うような…… 」


 そうだっけ? まぁ細かい事は置いといて、とにかく俺もサンドレアに行くと決めた。リリィと早く会って隷属魔術を看破する魔道具の改良に協力して貰わないといけないし、このまま待っていても何時戻ってくるか分からないのなら、こっちから迎えに行けば良い。


 すっかりサンドレアに行く気になっている俺を見て、テオドアは諦めたように溜め息をつく。


「はぁ…… まったく、お前って奴は…… 俺様の気遣いを返せよな」


「何だよ、俺が悪いのか? らしくない事をするからいけないんだ」


「らしくねぇ、か…… へっ! だな。そんじゃ、頼んだぜ! 相棒!! 」


「何処までやれるか分からないけど、最善を尽くすよ」


 こうして俺はサンドレアへと向かう決心をした。アンネとギルが魔力収納内で呆れているのが分かるけど気にはしない。

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