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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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3

 

 怪しい人間を捕らえたと伝えてきた妖精には見覚えがあった。確かフィアヴィレッジで手作りの首飾りをプレゼントしてデザートワインを強請ってきた妖精だよな? 今はデイジーの所に薬草を届けてたりしてるらしい。名前はピッケと言ったっけ?


 そのピッケから詳しく聞くと、捕らえた人間は貿易船に乗っていた乗組員だと言う。


「貿易船の? 一体何処の国だか分かるか? 」


「え~と…… 何だっけ? サン、ド何とかって言ってたような? 」


 サンド何とか? もしかしてサンドレアか!? 俺はエレミアとアグネーゼを連れ立って、ピッケの先導で貿易港へと向かう。



 捕らえられている人達がいる場所は、ある船の前で人集りが出来ていたから直ぐに分かった。人の群れをかき分け進んで行った先に、数人の人達が縄で縛られ座っている。その周りには三人の人魚が槍を構え、それを困った顔で見ている東商店街の代表であるヘバックがいた。


「すいません、妖精から報告を受けまして伺ったのですが、何があったのですか? 妖精からは怪しい人間としか聞いてなくて、詳しくは知らないんです」


「おぉ、ライル君。儂にもさっぱり見当がつかなんで困っとる所なんじゃよ」


 俺が来たのを確認したヘバックは、心底助かったという表情を浮かべた。ヘバックもこの状況をあまり良く理解していないようだ。


「サンドレアの貿易船だと聞いたのですが、この人達はサンドレア王国の? 」


「うむ。久方振りにサンドレアから来たかと思うたが、手伝ってくれていた妖精達がの、この者達を見るなり突然騒ぎ出してな。それを偶々近くにいた人魚達が力を貸して取り押さえたのじゃよ。何故かと妖精達に問うたのじゃが、いまいち要領が得なくて困っての。取り合えず、うちの若い者に領主を呼びに行かせておるから、もうすぐ此処に来るじゃろうて」


 領主には連絡が既に行っているのか。俺は近くでどや顔をかましている妖精達に近付き、話を聞く事にした。


「おつかれ、君らがあの人達を捕まえようとしたんだってね? 理由を聞かせてくれないかな? 」


「あっ!? 女王様と一緒にいる人間だ! あのね、なんか変なの。隷属魔術ではないけど、嫌な感じがしたの」

「そうそう! なんか胸がムカムカする感じ? それにあの人間達、魂が一つじゃないのよ! 」

「うん。普通は魂ってさ、一つの体に一つだけじゃない? なのにあの人間達は二つあんのよね。怪しすぎっしょ!! 」


 妖精達は興奮を隠せないように一斉に喋り出す。あのさ、一人ずつにしてくんないかな? でも共通しているのはあの人達には魂が二つあるということ、確かにそれは怪しいよな。

 話を聞いた俺は、自分の魔力を縛られている人達の一人に伸ばし、解析を始める。すると、妖精達の言うように何かが入り込んでいる事が分かった。これは――


『―― レイスに取り憑かれてやがるな』


 同じレイスであるテオドアがポツリと呟く。やはりそうか、前に聖教国で見たのと同じ感覚がしたからそうじゃないかと思ったんだ。でも、なんで貿易船の乗組員に?


「そんでさぁ。あたし達、怪しい人間を捕まえたじゃない? だからあの甘いお酒は貰えないの? 」


 不思議に思っていると、横からピッケが話しかけてくる。約束は隷属魔術を掛けられた人間だけど、こうも期待に満ちた眼差しを向けられたらそうも言えないな。


「まぁ、怪しい人間を捕らえたのは事実だからね。一人一本ずつだよ」


 妖精サイズに加工した酒瓶を受け取った妖精達は、歓喜の声を上げながら飛び去って行った。きっと何処かでつまみになるお菓子でも強請りに行ったのだろう。


 軽く妖精達を見送った後、レイスに取り憑かれていると思う人達の元へ戻り、近くにいたヘバックに妖精達から聞いた事を説明した。


「レイスじゃと!? それは本当か? う~む、俄には信じ難いが、妖精の眼は誤魔化せんからの…… 取り憑かれとると言うのはこの縛られとる連中だけなんじゃな? 」


「はい、この四人だけだと聞いています」


 縛られているのは四人、他の乗組員と商会の人達は普通だと、妖精達とテオドアの見立てではそうなっている。


『なぁ、相棒。俺様に話をさせてくれねぇか? 』


 同じレイスで元アンデットキングだったテオドアなら、何か聞き出せるかも知れない。試してる価値はある。だから浄化しようとしないでくれないかな? アグネーゼさん?


「し、失礼しました。目の前にアンデットがいると思うとつい…… 」


 駄目とは言わないけど、せめて何かしらの情報を引き出してからにして欲しいね。


 さて、どうやって話を聞き出そう? テオドアの姿を此処で晒す訳にもいかないし、何処か人目のつかない場所で尋問したいのだけれど、それをどうやってヘバックに説明したら良いものか。


「ブフゥ…… ブフゥ…… い、一体何が、あったのだ? よ、妖精達が人間を襲ったと、聞いたのだが? 」


 軽く頭を悩ませていると、息も絶え絶えな様子の領主が姿を見せた。どんな報告を受けたのか知らないが、大分焦っているようだ。


 まだ息が上がっている領主に、ヘバックがこれ迄の経緯を報告する。


「な、なら、妖精が人間を襲ったと言うのは間違いなのだな? ブフゥ~、吾輩、此処に来るまで生きた心地がしなかったであるぞ? 」


「それはすまなんだ。儂らもまだ事態を把握しきっておらなくてのぉ」


 丁度良い、ここは領主に協力してもらおう。俺は自分の魔力を伸ばして領主へと繋げた。


『領主様、聞こえますか? ライルです』


 ブホォ!? とその巨体を大きく跳ねて驚く領主に、ヘバックもビクリと体を震わせる。


『落ち着いて下さい、内密にご相談したい事がありまして、魔力を通して領主様の心に語りかけております。私に話すように念じて頂ければ、このまま会話も可能です』


「り、領主様? どうしたのじゃ? 何処か具合でも悪いのかの? 」


「ブ、ブフゥ、急いで来たので疲れたようだ。少し休ませてはくれまいか? 」


 領主は心配するヘバックに断りを入れて、近くにある木箱に腰を掛ける。


『…… これで良いのか? 吾輩の言葉は届いておるか? 』


『はい、ちゃんと届いております。突然申し訳ありませんでした』


『グフフ、良い良い。貴重な体験が出来たのでな。それよりも、内密な相談とは? 』


 俺は領主に、テオドアがあの人達に取り憑いているレイスと話がしたい旨を伝えた。因みにテオドアについては、ちゃんと領主に紹介してあるので、その存在は知っている。


『成る程、同じレイスならば滞りなく話が出来ると、そう申すのだな? 分かった、許可しよう。但し、吾輩も一緒だが問題はあるか? 』


『いえ、ありません。ご協力感謝致します』


 領主の協力を得て、俺達は彼等―― 正確には彼等に取り憑いているレイスの尋問を開始する為に動き出した。

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