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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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2

 

「あっ、ライル様。お口元が…… 今お拭き致しますね」


 朝食を食べていると、アグネーゼが横から手を伸ばしてハンカチで俺の口元を優しく拭いてくる。


「あ、ありがとう。でも態々拭いて貰わなくても、言ってくれれば自分で出来るから」


「いけません。ライル様の貴重な魔力をこんな事で無駄には出来ません。然るべき時に備えて頂けませんと…… 本当なら、お召し物も私がお手伝いしたいくらいです」


 えぇ? 無駄に出来ないって…… むしろ無駄に余ってるくらいなんですけど?


 教会の意向でアグネーゼが側に仕えるのは良いんだけど、何かと世話を焼こうとするんだよね。大抵の事は一人で出来るって言ってるのに耳を貸そうともしない。そんなに頼りなく見えるのかね?


「ちょっと、ライルはもう子供じゃないのよ? それに困ってるでしょ? 」


「そんな、私はただライル様がご不便にならないようにと思っただけなのですが、不快な思いをさせてしまったのなら謝ります」


 アグネーゼが申し訳なさそうな顔で頭を下げる。


 う~ん、悪気はないし、善意でしてくれてる事だけに強くは言えないんだよね。少しずつ言い聞かせていくしかないか。手始めに俺の無駄に多い魔力について教えておかないと。



 これからも一緒に行動するという事で、アグネーゼには慣れて貰う為、出来るだけ魔力収納内で過ごしてもらっている。


『あぁ…… こんなにも素晴らしい世界がライル様の中に存在しているのですね。魔力とマナに満ち溢れる場所に魔物や動物、妖精に龍が争わず共に暮らしている。まるで聖典に記されている神の世界のようです。やはりライル様は特別な存在、そんなお方に仕える事を誇りに思います』


 と言う風に、アグネーゼは初めて見た魔力収納内に感激していた。目を輝かせながらはしゃぐアグネーゼに、さしものギルとアンネも若干引き気味だった。


『おい! あの教会の女を何とかしてくれ! 俺様を見るなり浄化だ何だのと言って襲ってきやがる。相棒の仲間だって言ってんのに聞きゃあしねぇ』


 レイスであるテオドアを初めて見たアグネーゼは、迷いなく浄化魔法をテオドアに放とうとした。どうにか説得したのだが、教会の者がこの世の穢れであるレイスを見過ごしてはならないと、幼い頃からそう教えられていた彼女は、テオドアを見掛ける度に条件反射で浄化しようとしてしまう。これも慣れて貰う他ない。


 そんなアグネーゼの介入にエレミアは少し不満なようで、最近機嫌がよろしくない。聖教国には魔道具の件等で世話になっているから無下には出来ないんだよね。だからと言って、このままエレミアの機嫌が治らないのも困る。


 サンドレア王国の事も気になるし、魔術の開発もある。はぁ…… 鬱になりそうだよ。



 ◇



「…… 申し訳ありません、ライル様」


「いえ…… これはアグネーゼさんのせいではありませんので、謝らないで下さい。それよりも、教会にいる人達の安否が気掛りです」


 俺はアグネーゼに頼んで、サンドレア王国の教会と連絡を取って貰い情報を集めようとしたのだが、それは叶わなかった。何でもここ数日、サンドレア王国にある教会からの連絡が途絶えたのだと言う。確認の為向かわせた者達も行方が知れず。教会の者達が相次いで行方不明となっているらしい。これはただ事ではない。


「カルネラ司教様にもお尋ねしたのですが、まだ詳しい事は…… 一体あの国で何があったのでしょう? 皆さん、ご無事なら良いのですが」


 突然の輸出価格と通行税の値上げ、連絡が取れなくなったリリィと教会の人達。これはもう不穏なんてレベルじゃないぞ。陰で何か恐ろしい事が進んでいるかのように思えてしかたがない。まさか、これにもカーミラが関わっているのではないか? 向こうもアンデットキングを狙っている訳だし、可能性はなくはないよな。


 だとしたら狙いは何だ? サンドレア王国を孤立させようとしている? でもそれに何の意味が?


 駄目だ、考えれば考えるほど頭がこんがらがってしまう。これからの両国の対応が気になるところ。どの様な外交をするか分からないが、いきなり戦争にはならないだろう。向こうにその気がなければだけど。


 俺から見ていても、サンドレアとリラグンドは良好な関係だった。やはり外から何かしらの介入があったとしか思えない。あれからサンドレアの貿易船はインファネースにやって来ないし、良くない噂が広まったことにより行商人もサンドレアにはあまり足を運ばなくなった。


 さて、どうするか…… リリィにはクレスとレイシアがついてるから大丈夫だと思うけど、これじゃあ戻るまで待ってる訳にもいかない。やはり危険を覚悟にサンドレアに向かうか?


『くせぇ、くせぇ。きな臭過ぎて鼻が曲がりそうだぜ』


『うむ、確かその国にはアンデットキングが潜伏しているかもという話だったな』


『アンデットキングですか? 成る程、それでクレスさん達はサンドレアに…… もしそれが本当なら陰謀の匂いがしますね』


 テオドア、ギル、アルクス先生が魔力収納内でそんな話をしていると、一人の妖精が店に飛び込んできた。


「ちょっと、ライル! 隷属魔術じゃないけど、怪しい人間を捕まえたよ!! 」


 怪しい人間だって? 何だか次から次へと問題が起こるな。とにかく、詳しく説明をしてくれないか?

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