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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【幕間】
308/812

妖精ピッケの一日 ―後編―

 

 やぁやぁ! 今しがた喫茶店でたらふくお菓子を堪能したピッケだよ!! 引き続きあたしの一日を紹介しちゃうね!


 お次は北地区にある領主の館に向かうよ! 北商店街はあたし達が遊べる場所が少なくてつまんないのよね。貴族っていう人間達が異様にあたし達妖精を怖がっちゃってさ、殆どのお店に “妖精お断り” の張り紙がされているのよ。


 何でもあたし達の勇姿がお伽噺になって伝わっているんだって! どんな話かと聞いたら、なんてことはない人間達の自業自得な話だったよ。かなり省略されていたけど、あれにはあたし達も激怒もんだったから良く覚えている。人間の欲深さを実感した出来事だったね。

 もうあんな事が繰り返されないことを願うよ。あたし達も人間と敵対するより、仲良くした方が楽しいからね!



 さてと、領主の館に到着したよ! 何の用で来たかっていうとね、ここの研究施設では何か面白い物を作っているらしいの。その手伝いをしているって言う同族から聞いたから、ちょっと覗いて見ようかと思ってね。

 だけど、研究施設には結界が張られていて中に入れない! この結界は空間の精霊に頼んでも駄目だから困りもんだよ。最近になって宿の部屋にも同じ結界が張られるようになって悪戯がしにくいの。誰だよ! あんなの作ったのは!!


「おや? 初めて見る妖精さんですね? 貴方もお手伝いをしに来てくれたのですか? 」


 入り口で右往左往していたら、青色の髪で眼鏡を掛けた人間が話しかけてきた。


「いんや、何か面白い物を作ってるって聞いたから、覗きに来ただけだよ! 」


「ハハ、そうでしたか。僕はアルクスと言います。どうぞ、一緒に入りましょう」


「ほんと!? やった♪ あたしはピッケ、よろしくね!」


 アルクスという人間と一緒に施設内に入ると、そこには沢山の人間達と、これまた沢山のゴーレム? があった。変わった見た目をしているけど、これはアイアンゴーレムかな?


「僕達はゴーレムの研究をしていましてね。貴方の同族さんにもお手伝いして頂いているのです。ほら、丁度彼処で新型ゴーレムの試験運転をしていますよ? 」


 へぇ~、ゴーレム研究ねぇ~。見た目が違うだけで、ゴーレムなんてみんな同じだと思うけどな。


 そう思いながら、お仲間さんが手伝っているという所に向かうと、周りの人間よりも少し大きいゴーレムに側に、くるくるした金髪が特徴的な人間、シャロットがいた。


 うん? 手伝っているという妖精は何処だろ? 辺りを見回りしても、シャロットとゴーレムしか見あたらない。あたしがキョロキョロと探していたら、突然ゴーレムが此方に近付いて来た! な、なんだ!? やる気か? このやろー!!


「なに? あんたもゴーレムに興味あんの? それともただの暇つぶし? 何でもいいけど、邪魔だけはしないでよね」


 …… へ? ゴ、ゴーレムが喋ったぁ!? なにこれ? どうなってんの!?


 なんて軽く混乱していると、今度はゴーレムの胸が開いて、中には一人の妖精が椅子みたいな物に座っていた。


「ちょっ!? なにこれ~!! あんたゴーレムの中に入って何してんの!? 」


「何って、新型ゴーレムの試験運転よ」


 いや、その新型ゴーレムってのが分かんないんですけど?


「あら? 貴方は確かデイジーさんに薬草を届けてらっしゃるピッケさんではございませんか? 貴方もゴーレムに興味がおありですの? 」


 正直あんまり興味は無かったけど、これを見たら話は変わっちゃうよね。あたしはシャロットに向かって大きく頷いた。


「このゴーレムはですね、内部に操縦席を設けまして、中から操る仕組みになっておりますのよ。この座席の左右に設置してある丸い水晶に魔力を流す事により、コアと核部位に施されている術式を発動させて機体を動かすのですわ! 勿論、安全面もしっかりと考えております。機体の損傷が激しくなると背中部分が開き、操縦席ごと外へと排出する緊急脱出装置も備えています。今はこのサイズで妖精さん方に乗って頂いておりますが、最終的にはわたくし達人間が乗れる位の大きさにまでする予定ですのよ」


 うぉー! すっげぇー!! ゴーレムに乗り込んで操縦するなんて、スッゴイ楽しそう! あたしも乗りたい!!


「申し訳ありませんが、まだ試作段階ですのでそんなに数がありませんの。それにまだまだ完成には程遠いですわ」


「えぇ~、皆でこのゴーレムに乗って遊びたかったな~」


「妖精達が乗るゴーレム軍団ですか…… 想像するだけで恐ろしくて身震いしてしまいますね」


 アルクスがぶるりと体を震わせる。なに、恐いの? あたし達はそんな見境なく暴れたりしないわよ。まったく失礼しちゃうね!


「でも、それも良い考えではありますわね。ゴーレムに乗る事によって妖精達の耐久面が強化され、防衛力が大幅に上がりますわ。その代わり、妖精達の強みである俊敏さが低下してしまいますが、ゴーレムに乗りながらも精霊魔法を使えるのが実験で証明されていますので、たいした問題にはなりませんわね」


 難しい事は分からないけど、楽しそうなのには変わりない。早く完成させて、あたし達の人数分作ってもらいたいね♪



 新型ゴーレムの完成に思いを馳せて、次に向かったのは東地区にある港。ここは漁港と交易港があるけど、今日は交易港に行くよ。


 交易港には色んな国から船がやって来るの。珍しい物が沢山集まる場所で、あたしの狙いは他国のお菓子! 特にジパングのお菓子は美味しいの♪ モチモチしてるのもあれば、パリパリしてるのもあって飽きないのよね。


 そんなお菓子を貰う為、あたし達は交易港で魔力操作を使って荷物の運搬を手伝ったりしてるよ。


 ん? 少し離れた所で人魚が持ち込んだ魚介を人間が購入している光景が目に入る。今ではそんなに気にならなくなったけど、初めて見た時はそりゃもう驚いたね。だって、あの海にしか興味が無かった人魚が人間と交流を図っているんだよ? 昔も人間と関わっていた時期もあったけど、ここまで積極的じゃ無かった気がする。ほんと、不思議な街だよね。



 さて、一通り回ってみたけど隷属魔術が掛けられている人間は見つからず。フフン、遊んでるように見えても実はちゃんと仕事をしているのだ! なんせ見つけて捕まえれば、デザートワインが貰えるんだからね。


 南商店街に戻ってきたあたしの耳に、厳つい声が届いてくる。ここは確か冒険者ギルドっていう建物よね? 暇だし、ちょっくら覗いて見よう。


「だからよ! 何で毎回俺の頭に落書きすんだ、てめぇはよ!! 」


「ガストールの兄貴! 落ち着くっす!! 相手は妖精っすよ? 下手に危害を加えて、報復なんかされたらどうするんすか!? こいつらの報復はかなり恐ろしいと有名じゃないっすか! 」


「何よ! そんなつるつるした頭をしているあんたが悪いんじゃない!! いかにも落書きして下さいっていう頭を、あたし達が無視できる筈がないでしょ? 」


 ギルド内では一人の妖精に怒鳴り散らしている、つるっぱげで悪人顔の人間と、その人間の体にしがみついて必死に止めている細長い体型の人間がいた。そしてそんな二人を、槍を担いでいる人間が無言で眺めている。


 ま~たあいつらか、でも悪戯する気持ちは分からんでもない。だってあのつるつる頭だよ? 我慢なんてできないよね!


「ったく、ライルの野郎め、こんな奴等を呼び込みやがって…… 戻ってきたら文句の一つでも言わないと収まらねぇぜ」


「でも、兄貴の読み通りっすね! ライルの旦那、店を持ってこの南商店街の代表にまでなっちまうんすから」


「へっ! だから言っただろ? あいつは良い金づるになるってな。最近忙しいようだし、何か良い話がないかその内訪ねてみるか」


 ふ~ん、どうやらライルの知り合いみたい。変わった知り合いが多いよね。だから色んな種族がこの街に集まってくるのかな?


「で? 今日はこれから何処へ行くの? 」


「あ? あぁ、なんかこの近くでシャドウウルフの目撃情報があって調べてほしいっていう依頼があるから、それを受けようかと思ってな。なんだ、またついてくる気か? 」


「まあね! 暇だし、それにあたしがいた方が助かるでしょ? 」


 フフンと胸をはる妖精に、つるっぱげのガス何とかは乱暴に頭を掻く。


「ちっ、悔しいが役には立つんだよな」


「また一緒に仕事が出来るっすね」


「報酬のお菓子はちゃんと貰うかんね」


 なんだかんだで結構仲が良いじゃん。それとあの槍を持っている男、一言も話さなかったけど存在感は異様にあんのよね。



 夜、人間達が寝る時間になると、そのまま街に残る者とフェアヴィレッジに帰る者とで別れる。あたしは帰る方ね。


 フェアヴィレッジに帰ってきたあたしは、女王代理にお土産のケーキを渡す。


「…… ねぇ、なんかこのケーキ、ぐちゃぐちゃなんですけど? 」


 と若干不満気な女王代理にこのケーキの楽しみ方を教えて、あたしは自分の家に戻った。


 ふぅ…… 今日も異常無し、平和そのものだったね。人魚とエルフとドワーフと人間が集う街、インファネース。本当に楽しい街だね。


 何だか懐かしいな。昔もこんな風に皆仲良しだったのに…… 色々あってバラバラになっちゃったけど、またこうして集まってきた。

 楽しいな、うれしいな。でもこんな日が永遠には続かないとあたしは知っている。何時か終わりが来るのなら、その時を一日でも長引かせるようあたし達が、ううん、皆で頑張れば良いんだよ。インファネースにいる皆なら、きっと大丈夫。そんな気がするんだ!



 さぁ、もう寝よっと。明日もまた楽しい日になると良いな。という訳で、あたしの一日はこれで終わりだよ! そんじゃ、おやすみ~。

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