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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十二幕】戦争国家と動き出した陰謀
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「おぉ!? このウイスキーというのは随分と強い酒だな。それに香りも素晴らしい。つまみがなくてもいけるぞ」


 ウイスキーのオン・ザ・ロックを見た皇帝は、斬新な氷の使い方だと関心を示し、そのアルコールの強さと香りに喜んでいた。チェイサーも無しに飲むとは、やっぱり強いな。


「ところで、お前は黒騎士殿の正体を知っているのか? 」


 それまでウイスキーを堪能していた皇帝が、此方を窺うような様子で聞いてきた。


「はい。黒騎士様から名乗って頂きました」


「そうか…… まぁそうだろうな。そうでなければエンブレムなんて渡す訳がないか。うれしいような、悔しいような、複雑な気分だ。詳しく聞かせてくれ」


 俺は何故帝国へ来ることになったか、前進基地での黒騎士との邂逅、オーガとの戦争の結末、そしてカーミラの存在を皇帝に話した。一頻り話終わると、皇帝はウイスキーを一口舐める。


「俺の知らない所でそんな事が…… カーミラか、こそこそと鬱陶しい奴だ。だが今は初代様に任せるとしよう。俺はな、ライル…… お前が羨ましい。初代様は偉大な御方だ。帝国を造り、帝国の為に人間を捨ててまで護る事を選んだ。しかし、それ故に孤独なんだよ。帝国内―― いや、この大陸で初代様が気を許せる相手はいない。現皇帝の俺ですらも初代様は完全に信用してはならないのだ。何故か解るか? 」


「えっと…… 帝国の為、でしょうか? 」


「あぁ、俺が皇帝になったその日に黒騎士殿が初代皇帝陛下だと打ち明けられ、混乱した俺は貴方がずっと皇帝ではいけないのかとつい口走ってしまった。それを聞いた初代様は静かに話して下さったよ。―― 人も国も常に変わり続けるもの、たった一人の者が永遠と皇帝の座に着いていては時代のうねりに取り残され、いずれ国は滅びてしまうだろう。その時代に合った皇帝が必要である。余は国の為に皇帝を支え、時に討つ存在になると決めたのだ―― とな」


 皇帝を支えるのは分かるけど、討つってのはどういう意味だ?


「分からないって顔してるな? 代々皇帝ってのはある特殊な大会の優勝者が選ばれるんだが、そうなると色んな人物が皇帝になる。過去には皇帝の権力を好きに使い、圧政を敷いていた暴君がいた。それが六代皇帝だ。その暴君を討つため、帝国は内戦状態になってな、その筆頭が初代様なんだ。民を苦しめ、国を駄目にする皇帝を討つのも帝国を護る事なのだと、初代様はそう言いたかったのだろう。だからこそ皇帝になったからといって好き勝手な行いは許されず、それに相応しい振る舞いが要求される。俺も皇帝になったばかりは勉学に勤しんでいてな、その中でも帝王学なんかは苦手で今でも分からない事はある。その鬱憤を払うため、他国から強いと評判の猛者を呼んでは一戦交えている訳さ。あぁ、皇帝になって良かったと言えることがもう一つあった。初代様が時偶やって来ては稽古をつけて下さる。初代皇帝陛下に稽古をつけて貰えるのは皇帝だけの特権だな」


 誰でも皇帝になれるチャンスがあるのだから、そういう奴がいても不思議ではない。黒騎士はその抑止力となり、七百年もの間たった一人で国を護って来たのか。いや、正確には彼に導かれた人達はいるのだろうけど、それでも心は常に孤独だったのだろう。


 一人の人間が何時までも王にはなれない、か。時代の変化を誰よりも強く感じ、皇帝の座から降りた黒騎士は英断だった。だからこそ消えていく国々の中で、今日まで帝国は強国として生き残ったんだと思う。


「帝国にとって無くてはならない存在なんですね、黒騎士様は…… 」


「その通りだ。そんな初代様が認め、信用したのがお前だ。実はあの謁見でお前をひと目見たときから初代様と似たような気配を感じてな。何と言うか、決して人間が手を出してはいけないような、そんな神聖な気配がな…… あれが神の気配ってものかも知れない。もしお前が初代様と同じであるのなら、どうかあの御方の孤独を少しでも和らげてくれないか? 」


 皇帝は黒騎士と俺の中にある神の気配に気付いていたのか。流石は己の腕だけで国のトップに上り詰めただけはある。人の中にある強さに敏感だ。


「確約は致せませんが、出来うる限りを尽くしたいと思います」


「あぁ、それで良い。無理を言って悪かったな」


 皇帝はホッとしたようにウイスキーを煽る。本当に黒騎士を尊敬しているようだ。それに皇帝としての責務をちゃんと果たそうとしている。まぁ権力を使って他国の強者を呼び出すのは、必要な事だと思う事にしよう。


 それからは軽いつまみを用意して、初めて飲む焼酎にご満悦な皇帝の相手をした。


「ジパングの酒か…… そう言えばここ最近になってジパングの商人がインファネースに来ていると聞いたぞ? まさかそれにもお前が関与している訳ではないよな? 」


 どう答えて良いものか分からず、思わず笑って誤魔化した俺を見て、皇帝は呆れたように息を吐く。


「まったく、お前も大概だな。初代様がエンブレムを預けたのも頷ける。初代様と同じで底が見えない。これでまだ少年だと言うのだから末恐ろしいものだ」


 ハハ…… でも中身はおっさんで貴方より歳上なんですけどね。俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。

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