表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十二幕】戦争国家と動き出した陰謀
303/812

46

 

 騎士を介してエンブレムを返して貰うと、皇帝は残念そうに言葉を紡ぐ。


「実はお前が黒騎士殿に認められた猛者だったのなら、正式に手合わせ願いたかったのだが、どうやらその見た目では違うようだ。エンブレムは確かに本物だった。黒騎士殿は強さ以外でお前を認めたのだろう」


 聞きしに勝る戦闘好きなお方だな。確か特別な大会の優勝者が皇帝になれるんだったか? それなら好戦的な態度も納得だよ。あの黒騎士に認められたと聞けば、一体どんな戦士だと普通はそう思うよな。

 でもいざ呼んでみれば、見るからに戦闘向きでない人物がやって来てガッカリするのも無理はない。


「態々呼びつける程でも無かったな。もう下がっても良いぞ」


 俺に興味を無くしたのか、皇帝は玉座から立ち上りさっさと引っ込んで行ってしまった。


 は? 結局強い奴と戦いたかっただけかよ。どうしたものかと周りを窺うと、集まった騎士や臣下の皆様はまたかと言った顔で平然としていた。この様子だと今に始まった事ではないようだ。


 案内してくれた騎士から 「陛下はああいう御方だから、あまり気にするな。お前に落ち度はひとつもない」 と気遣われながら謁見の間から退出した。


 はぁ、顔繋ぎどころか挨拶しただけで何も話せなかったな。皇帝は強い者以外に興味は無いのだろうか?


「何あれ? 呼びつけておきながら失礼な奴ね」


「エレミア。気持ちは分かるけど、まだ城内だから落ち着いて」


 他の者に聞かれたでもしたら侮辱罪とかで捕まりそうだよ。憤慨するエレミアを宥めつつ、城を後にしようと歩き出す。すると向こうから一人の男性が駆け寄ってきた。


「貴方がライル様ですね? 私は皇帝専属の庭師をしております、ガーランドと申します。私の主が貴方との対話を望んでおられます。どうかご足労願います」


 皇帝専属の庭師の主と言ったら、まぁそうだよな? 話ならあの場ですれば良かったのに、なんでこんな回りくどい事を? でも断る訳にはいかないし、大人しくガーランドについていくしかない。


 長く入り組んだ廊下を進み、階段を上がった先に辿り着いたのは、とある扉の前だった。ガーランドが扉をノックすると中から「入れ」 と、つい先程聞いたばかりの声がする。


「ここが主の私室となっております。ここより先は許可無き者が入ることは固く禁じられておりますので、私はここで失礼致します」


「はい、案内ありがとうございました」


 お互いに頭を下げ合うと、庭師のガーランドは去って行った。


 失礼しますと声を掛けて中へと入る。部屋は広いが、謁見の間のように派手な装飾品は置いておらず、全体的に落ち着いた雰囲気を醸し出している。

 その中で一人佇むのは、あの豪華な鎧を脱ぎ捨てすっかりとラフな格好をしている皇帝陛下だった。


「来たか…… 悪いな、こんな回りくどい事をしてしまって。まぁ立ち話もなんだ、座ってくれ」


 謁見の時とは違って随分とフランクになっている皇帝に戸惑いを覚えつつ、俺とエレミアは柔かすぎるソファへと腰を掛けた。


「あの…… これは一体? 」


「ん? お前とは個人的に話をしたくて呼びたかったのだが、そうもいかなくてな。公式にお前を連れてくる理由が必要だったんだ。そこで、黒騎士殿からエンブレムを授かった者なら手練れの人物だろうと踏んで、正式に試合を申し込むのを理由に呼び出したって訳だ」


「いつもそのような事を? 」


「そうだな…… 大会で優勝していざ皇帝になったは良いが、こんなに窮屈とは知らなかった。国のトップになれば、思う存分暴れられると思ったのにな。政治は臣下が殆どやってくれるし、結構暇なんだ。それでも権力はあるから不自由はしないけど、やっぱり戦場には出たいよな」


 黒騎士と同じ事を言ってるよ。代々皇帝を引き継ぐ者はこういうのが多いのかな? 戦闘馬鹿というかなんというか。


「まぁ、あの場は建て前ってやつだ。お前と非公式の場で話したくて早く終わらせる為、あんな言い方になってしまってすまないな。気を悪くしただろ? 」


「い、いえ! 事情がおありだと分かりましたので、もう気にしておりません」


 幾ら非公式だと言っても、一国の主に謝られては流石に恐縮するよ。


「そう言ってくれると助かる。さて、ここからが本題なんだが、話とは黒騎士殿の事だ。どんな経緯であのエンブレムを渡されたのか聞かせてくれないか? 」


 まぁそれしかないよな。俺達の共通は黒騎士だけだからね。何処まで話そうか? オーガとの戦争やカーミラの事は話すとして、俺のスキルについてはまだ黙ってた方が良いかな?


「おっと、俺としたことが酒を用意していなかった。今持って来させるから、少し待ってくれ」


「あっ、それでしたら空間収納にお酒がありますので、私がご用意致しましょうか? 」


「お? 空間収納持ちの商人とは、中々優秀じゃないか。それじゃ、珍しい酒でもあったら頼む」


 珍しい酒か…… 見るからにお酒が強そうだし、ここはウイスキーと焼酎だな。


「成る程、魔力操作で物を運ぶ方法は聞いていたが、便利なものだな。これなら腕が無くても特に困る事はなさそうだ。面白い、やっぱり後で一戦交えないか? 」


 すいません、本当にそれはご勘弁願いたいです。ボロボロにやられる未来しか見えないよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ