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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十二幕】戦争国家と動き出した陰謀
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45

 

 部屋に入ってきたのは二人の帝国兵だった。


「隻眼に腕無し、報告にあった通りだな…… お前が黒騎士様のエンブレムを持っているというのは本当か? 」


「え? はい。そうですが、それが何か? 」


「皇帝陛下がお会いしたいと仰っている。ご同行願えるかな? 」


 皇帝陛下って、帝国トップのあの皇帝陛下? は? 俺、帝都に来たばかりで呼び出されるような事はしていない筈だけど?


「あの、何故とお聞きしても? 」


「さあな。陛下のお考えは分からない。でもな、黒騎士様がエンブレムを預ける人物だぞ? 興味を惹かない者はこの帝国にはいないと思うが? 」


 あぁ、そうか。帝都に入る時にエンブレムを見せたのが皇帝にまで伝わったのか。それで興味を持ち俺を探していたと、そういう事だな? これは流石に断る訳にはいかないか。


「分かりました。謹んで同行致します」



 兵士が乗ってきた馬車で皇帝の城へと連れてこられた俺達は、謁見の用意が整うまで別室で待機していた。


「皇帝が私達に何の用なのかしらね? 」


「多分だけど、ただの興味本位だと思うよ? 現皇帝陛下は黒騎士が初代皇帝だと知っているからね。会ってみようと考えるのは頷ける」


 でもこれはチャンスでもある。帝国の最高権力者との繋ぎが出来るのだ。こんな商機は滅多にないぞ。今は売り込めるような商品はないけど、ここで皇帝の覚えがめでたくなれば、色々と優遇してくれるかも。


『ま~たライルが都合の良い事を考えてるよ』


『前向きなのは良い。だが最悪も想定して動かないと痛い目をみるやもしれぬぞ? 』


『なぁ、相棒。城ん中見て回ってもいいか? 』


 何だよ、人が期待に胸を膨らませている所に水を差さないでくれるかな? それとテオドア、頼むから大人しくしててくれ。



 そうして雑談を交わしながら暫く待っていると準備が整ったようで、一人の騎士に先導され謁見の間へと繋がる大きくて重厚な扉の前にやって来た。


 あぁ、緊張する。ドワーフの王や人魚の女王とは会ったけど、人間の国のトップとはこれが初めてなんだよな。うゎ、今更ながら不安になってきた。作法も何も知らないから失礼な行ないとかしたらどうしよう。


『ライル…… ほんと今更だよ』


『人間の王―― いや、この場合皇帝か。何にせよ我等には関係ない。堂々としていれば良いのだ』


『おいおい…… 分かってねぇな、ギルの旦那よ。人間の恐ろしさはその数と団結力にあるんだぜ? 人間達の前では個人の強さは霞んでしまう。下手に刺激しないほうが賢明だと俺様は思うがね? 』


 呆れるアンネに強気のギル、そして意外にも慎重なテオドア。其々の反応を示している中、重々しく扉が開かれる。


 眩しい…… 扉の先には光に溢れていた。先ず目についたのは天井に吊るされている巨大なシャデリアだ。それもひとつではなく、幾つも飾られている。そして大理石のようにツルツルとした床、周囲には見るも豪華な装飾品達がシャデリアから発せられる光を反射して、まるで部屋自体が輝いているみたいだ。


 入り口から玉座へと伸びる真っ赤なカーペットが敷かれていてその上を歩いていくのだが、これもまた驚く程にフワフワで逆に歩きづらい。足を取られないよう慎重に進んで行く。


『ほへぇ~、こりゃまたキラキラだね! 目がチカチカしちゃうよ 』


『周りにある装飾品は何れも高そうだ。どれか一つでも盗んで売り払っちまえば、結構な金になるぜ? 』


『ライル、あまりキョロキョロするでない。みっともないぞ』


 仕方ないだろ、こんなの目移りしない方がおかしいって。あと思っても絶対盗むんじゃないぞ、テオドア。


 所定の位置で俺とエレミアは跪き、皇帝が玉座に着くのを待っていると、遠くから金属の擦れる音が聞こえ近づいてくる。やがて音が聞こえなくなり、頭上から声が掛けられた。


「面を上げよ」


 俺はゆっくりと玉座に座る皇帝へと顔を向ける。


 深紅と黄金に輝く鎧を身に纏い、真っ黒いマントを羽織る男性が玉座に座っていた。燃えるような赤い短髪と青い瞳、自信に溢れた顔は思っていたより若々しい。てっきりお歳を召した人を想像していたが、歳は三十代くらいかな? おっといけない、名乗りを忘れる所だった。


「お初に御目に掛かります。私はリラグンド王国のインファネースにて商人をしているライルと申します。横におりますのは私の護衛も勤めているエレミアでございます。こうして皇帝陛下とお会いできた事は、私共にとって身に余る光栄に存じます」


 皇帝への挨拶ってこれで良かったかな? 失礼な事は言ってないよな? あぁ、こんなことならもっと勉強しておくんだった。


「ライルとエレミアか…… 俺は十三代皇帝、エイブラム・ハリューゼン・アスタリクだ。本当にお前が黒騎士殿からエンブレムを授かったのか? 良ければ俺に見せてくれ」


 エレミアが俺から預かっていたエンブレムを騎士へと渡す。そして騎士からそれを受け取った皇帝は目を細めじっと見詰めていると、深く息を吐いた。


「黒騎士殿の気配を感じる…… 正しく本物。このエンブレムは黒騎士殿が認めた相手にだけ渡すと言われていてな、俺が知る限りお前が初めてだ。どんな強者かと思ったら、まさか商人とは…… 」


 なんか期待を裏切ったようで申し訳ない。だからそんな残念そうな眼差しを向けるのは止めてくれませんかね? 何気に傷付くんですけど。

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